苺のないショートケーキ

ぱこ

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3日目

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「さあ海に行くぞー!」
夜が明けて持ち前の元気を取り戻したようだ。ここから海に行くには2時間くらい掛かる。時期的に泳ぐには少し遅すぎる。行く意味は正直無いし面倒すぎる。まあいいか。
早速、車を出し走らせた。もうできる限り話したくないから音楽をかけた。少女は静かに音楽を聴きながら外の景色を眺めていた。高速道路に乗って壁しか見えなくても。
懐かしい音楽に久しぶりに心踊らされる。1番好きだった曲が流れ出す。題名は覚えていないがメロディはしっかりと覚えていた。そっと口ずさむ。少女も懐かしそうに口ずさみだした。
「知ってるのか?」
「まあね。」
特にこれといった会話はしなかった。穏やかな時間だった。いつもより長く感じたがそんな時があってもいいのかもしれない。
季節外れの海は誰もいなかった。浜辺に立って潮風が体に当たる。少しベタベタする。そういえばあれだけ言ってたくせに少女は何も言わないのだ。ふと隣を見ると今にも泣き出しそうな顔をしていた。そして口を開いた。
「これが海なんだ。やっと来れたんだ。」
よっぽど行きたかったんだな。でも…
「なんでそんなに海に拘るんだ?」
少女はしみじみした顔でそっと話し出した。
「海はとても綺麗だって言ってた人がある日突然海なんて汚くて嫌いだって言い出して。一度だけでいいから自分の目で見てみたかったんだ。」
ここでも大した話はしなかった。ただ時間が過ぎていった。
「帰ろうか。」
少女は悲しそうにいう。海にいる時少女は時間を愛おしむように海を眺めていた。
そっと立ち上がり車に乗り込んだ。

家に着き、少女がいつも通りに話し出す。いつも通りを装って。
「今日はありがとね!すっごく楽しかったなぁ。あんなに綺麗だと思わなかったよ。何だかんだで付き合ってくれるあなたは優しいね。本当良い人生だった。」
そう言った少女はゆっくりと息を吐いた。空気が張り詰めた。
「さあ、もう満足。殺していいよ。」
少女は不気味に笑う。
「もういいのか。」
僕はナイフを持つ。腕を振り上げた瞬間、少女は口を開けた。
「ねえ、本当はわたしが誰か分かってるんでしょ?」
息が詰まる。
「何故あの時わたしを殺そうとした?何故、殺せなかった?」
「全部お見通しか。」
少女の言う通りだ。
「ああ、分かっていたよ。お前は澪だろ。」
澪とは僕の一人娘の名前。そう、この少女は僕の娘だ。
「正解、お父さん。久しぶりだね。」
僕はつらつらと話だす。
「ずっと探していたのに見つからなかった。なのにある日お前を見つけて、また失うのが怖かった。だからもう僕の手で殺してしまえばと思ってたのに。」
「殺せなかった、と。」
最初から殺せないことは分かっていた。
「別人と思うようにしてたよ。でも僕はお前を愛してたから。たった一人の大切な娘だったから。別人だったとしてももう一度信じたいと思ってしまった。」
少女、いや澪は僕をそっと抱きしめる。
「信じていいよ。わたしもお父さんが大好きだよ。もう一度親子をやり直そうよ。」
「…ずっとどこに居たんだよ。」
「さあ、どこだろうね。ある人に連れ去られてずっとこき使われてた。」
ある人って誰だ?澪は誘拐されてたのか?あれだけの人が動いていても見つからなかったのに。
「あの日奇跡的にあの家から抜け出せたけど、警察に行っても保護されるだけ。あの人達に見つかったら殺されることは確実。そんな時あなたを見つけた。すぐに分かったよ、お父さんだって。でもわたしを殺そうとした。殺せないくせに。」
澪は微笑み言った。
「さっ、気を取り直してショートケーキ買いに行こうよ。」
「ああそうだな。今日は何記念日?」
「うーん、親子再スタート記念日!」
僕達はいつの日にか食べたショートケーキを買った。そして帰る途中に電池も買った。
「何に使うの?」
「時計。」
「そっか。」
澪は嬉しそうに言う。

「いただきまーす!」
澪は勢いよくケーキを食べ始める。
「澪」僕は名前を呼ぶ。そして苺を澪の方へ向けた。
「あげる。」
誰にも取られないように、気づかぬ間に失わないように。
こうして誰かに分けて味気なくなるショートケーキも悪くない。
「ありがとう、お父さん。」
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