月の綺麗な夜だった

ぱこ

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月の綺麗な夜だった

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ふと空を見上げると泣きそうになる。別に悲しいとか感動した、という訳でもない。ただ
"泣きたい"そういった衝動に駆られるんだ。
何かに焦がれて、何かを求めて手を伸ばしてみても届かない。どうやら"それ"は手にも届かないような遠いものらしい。

夜空に浮かぶ満月を見上げる。車の通る音が聞こえるが、静かな夜。堂々とした凛々しい月は僕をちっぽけに見せた。僕は満月より三日月の方が好きだ。三日月と桜には同じような美しさがあると思う。儚いようで強い。三日月は涙の形にも見えると聞いたことがある。三日月は満月を羨ましく思うだろうか。月は誰かに照らされて輝く。その光さえ小さくなっているのだから泣きたい気持ちもあるのかもしれない。それに自分自身で輝きたいと思ってしまうだろう。そこで自分自身が輝く太陽はどう感じるだろう。自分自身が輝いていることに気づいているだろうか。眩し過ぎて周りが見えないこともあるかもしれない。所詮こんな気持ちを考えていけばないものねだりだろう。

僕には彼女がいた。ハーフであったらしく日本人とは顔のつくりが全然違った。
どこかの偉人がI love you を月が綺麗ですねと訳した。僕はその意味を込めて
「月が綺麗ですね。」
と彼女に言った。勿論彼女はその意味を知らないようで
「そうね。」
と返した。彼女はハーフとはいえ日本語はそれなりに流暢だった。でも文化はあまり知らないらしい。

ーー僕は自分が大嫌いだった。僕が僕でなければ良かったと思ったことは何度もあった。何故かはわからない、でもどうしようもなく自分が憎くてたまらなかった。

誰の注目も浴びずに枯れていく花が僕の教室にあった。
「1日一回、水を変えるように。みんなで協力して育てような。」
担任の先生がそんなことを言っても誰一人気に留めていなかった。
直ぐに枯れて、注意されてまた新しい花になったと思えば枯れる。その繰り返し。
僕は毎日水を変えることに決めた。
まあ毎日しっかり水を変えても、いつかは枯れる。でも少しでも長く保ったことが嬉しかった。
また新しい花になって。僕は声を掛けてみる。
「必要にされないってしんどいね。」
僕は今まで必要にされたことがない。だからこうやって水を変えることで花には必要とされてる気がした。言葉を発せないから僕の思ったように捉えればいい。自分のいいように解釈すれば良い。この花は生きているんだ。

ーーでも彼女といるときはそんなことを忘れることができた。まるで世界が彩られていくようだった。

彼女と初めて出会ってのは高校生の頃だった。高学生の僕は未熟で、彼女はしっかりしていて整った顔が更に大人っぽく見せた。

ある夏の日だった。
僕は誰もいない教室でただただぼーっとしていた。クーラーのついていない朝の教室は僕のシャツを汗でベタつかせた。日差しの強さが夏の訪れを表していた。すると廊下に誰かの声が響いた。息がつまる。他のクラスの人だったらしく僕のクラスの教室には入ってこなかった。僕は少しほっとした。誰かが来れば一瞬にして僕の居場所がなくなるからだ。しかし一人で居られる時間はそう長くなかった。一人の女子が入ってきた。
「おはよう!」
こんな僕にさえ笑顔で挨拶する彼女は本当に凄いと思う。
「…おはよう…ございます。」
挨拶なんてされたことがなかったからぎこちなかった。
僕とは生きてる世界が違うと思うほど輝いて見えた。心の何処かで羨望の気持ちが混じる。

『僕は普通とは違うんだ』

そう言ってまた現実から目を背ける。だったら"普通"って何なんだという話になる。本当は分かっていた。世の中に普通の人間はいないんだと思う。人間、皆違って皆良いというが僕は受け入れられなかった。受け入れたくなかった。 家族に相談しても答えは決まっていた。
「じゃあ普通って何なのよ。気にしても仕方ないわよ。」
「…分かってるよ……。」
自分にさえ聞こえない声で呟いた。相談なんてするんじゃなかった。毎日息も出来なくて生きることに疲れた。でも死にたいとは言えない。死ぬ勇気なんてかけらもない。逃げることが出来たらどれ程楽だろうか。ほどんどの人は逃げるものは弱いと思うだろうか。僕は強いと思う。勿論立ち向かえるものが一番強いのだが、どうすることも出来なくてダラダラと彷徨っている、逃げれない僕が一番弱いんだ。
今の生活に何の不満もない。そして楽しみもない。そう、興味がないんだ。好きの反対は無関心、まさにこのことだ。
『大きくなったら楽しくなるって。』
そんなことをよく言われる。
「今、今生きてるからしんどいんだろう。」
そう何度言ったことか。もうどうすることもできないことを分かっているから、より辛い。
『しんどい、しんどい。もう、何も楽しくない。死ねたら楽なんだろうな。』
息が出来ない。吐きそう。声が出ない。もう限界かもしれない。
どうしようもない虚無感に襲われる。
"楽"しいと"楽"は同じ漢字を使う。楽しいと楽なんだろうか。


窓からの風がカーテンをフワッとゆらす。さっきまでの暑苦しさは感じなかった。彼女とそれ以上の言葉は交わさず鴉雀無声の時が流れる。次第に教室には人が集まり騒がしさを取り戻していった。今日も僕は誰とも話さなかった。


次の日も僕は一人でぽつりと教室に佇む。今日は本を読んでいた。読書家とは言えないが本を読むのは好きだった。誰とも話さなくても不自然じゃないから。それと僕は物語を考えることが好きだった。
(一人の時くらいいいか。)
そう思い、本を閉じる。一冊のボロボロのノートを取り出し言葉を綴った。決して面白い話とは言えないが、その時だけは素直になれた。自分に対しても。物語は基本僕自身の日々の感情をヒントにする。僕は自分でも分かる通り捻くれ者だから書いていて楽しかった。これは自分を見つめ直すきっかけになる。普段は認めたくないし、誰にも言いたくないことさえ、吐き出すことができた。サラサラと紙に走るシャーペンの音が心地良い。
僕は思ったより集中してしまっていたらしい。彼女が教室に入ってきて僕に挨拶をする。僕も出来るだけ自然に挨拶を返しノートをサッと隠す。
「何か書いてるの?」
「いや、何も。」
僕は嘘を吐くことを惜しまなかった。しかし彼女は僕が思っていたより強引だった。「見たい」とノートを開けようとするが僕は全力で拒む。しかし彼女の押しには負けてしまった。
「もう…いいよ。」
後ろめたさはあるがノートを差し出した。静かで気まずい時間だった。彼女は全てを読み終えノートをそっと閉じた。微笑んで言う。
「上手く言えないけど、そっと胸に沈んできて、じわじわ溶けていく、みたいな。とにかく私、君の綴る言葉が好きだな。」
「あ、ありがとう、ございます。」
素直に嬉しかった。人には絶対に見せたくなかったけど彼女にならいいかもしれない。

彼女との時間は朝の誰もいない教室だけだった。だけど僕がこんな感情を持つのにはそれだけで十分だった。分かっているくせに名前をつけることが怖かった。僕は物語の中で話を進める。

『教室にはいつもの通り誰もいなかった。僕は時計の針を見つめ今か今かと待ち焦がれている。今日の花瓶に咲くリナリアの花が揺れる。教室のドアの開く音がする。僕たちは挨拶を交わす。僕の心臓はバクバクいってて五月蝿い。僕はムードなんて気にすることができなかった。ちゃんと台詞を決めていたはずなのに、全部飛んだ。もう思い切り告げよう。
「君のことが好きだ。」と。』

僕は恋愛小説なんて読まないし、書いたこともないのに、急に恋愛要素を盛り込んでみる。こんなものただの自己満足だし問題ない。彼女はこの物語の主人公が僕だなんて知らないだろう。彼女が教室に入ってきた瞬間、目を輝かせた。僕には眩し過ぎる。
「あっ、今日も書いてるのね。読ませて。」
僕は複雑な気持ちでノートを差し出した。矛盾した二つのことを願いながら。
彼女は読み進めていくと顔を赤らめ始めた。僕の願いの一方が通じる。
「ねえ、一つ聞いてもいい?」と彼女は問う。
「この物語の主人公は君を表しているの?」
「そうだと言ったら?」僕は返す。
「嬉しい、かな?今もそうであってほしいと思う。」
やはり彼女は凄い。自分に素直で向き合えていて。
「うん、そうだよ。正解。」
僕も彼女を見習わなくてはいけない。
僕はこの人生で人に告白する日が来るとは思ってもいなかった。
「えっと…君のことが好きです。付き合ってくれませんか?」
「勿論!」
彼女は笑顔で答える。どうかこの時よ終わらないで、なんて馬鹿なことを考えてしまう程僕は浮かれているらしい。

これといって特に変わったことはないのかもしれない。でも、この質問は僕にとって心に大きな変化をもたらした。
「あなたは幸せになりたいと思う?」
僕は「当たり前じゃない?」と答える。だってそうじゃないか。不幸になりたい人なんていないだろう。
「だったら、質問を変える、この世から不幸が無くなればいいと思う?」
それはとても難しい質問だった。単純に考えれば、無くなればいいと思う。だけど本当にそうなってしまえば世界は狂う。まず、「人の不幸は蜜の味」というように人の不幸を幸せに思うような人もいること。でも僕が不幸がなくなってはいけないと思う一番の理由は『不幸の概念が無くなれば幸せの概念が無くなる』ということだと思うからだ。幸せはいつしか当たり前になっていくはずだ。それじゃ少し寂しい。それなのに。分かっているのに。僕は不幸が消えればいいと思う。悲しい
辛いが無くなるんだ。そんなの、"楽"に決まってる。嗚呼、そうか。でも、不幸があるから"楽"しいんだ。不幸が幸せを際立たせ、感じさせるんだ。何か一つでも消えるだけでこんなにも世界は変わるのか。
「とても、難しいよね。私はどっちの質問にも答えられなかったの。 」
「幸せになりたくないの?」
「なりたくない、とは言えば嘘になるけれどなりたい!とも言えないのよ。」
僕は不思議で仕方なかった。
「私は幸せになるのが怖い。」
「どうして?」
「私も分からない。」
いつもと違う笑顔を見せる。

私はお金持ちとは言わないが、それなりに裕福な生活を送っていたんだと思う。幼い頃は嬉しかったプレゼント、それが怖くなったのはいつくらいからだったか。欲しいものを欲しいと言えなくなって。したいことをしたいと、願望を言えなくなった。耐えるしかなかった。
「これ、可愛いよね!」
欲しいとは言わない、言えない。
他の人に言わせてみれば、言えば良いだけのこと。それが私には出来なかった。
特に理由は無い。いつしか自分を咎めるようになって、自分を哀れんだ。

『私の存在価値って何なの?』

それは僕にも共通する話だった。
「大丈夫。なんてすごく不明確な言葉だよね。でも僕は君に言うよ、大丈夫。君がいたから、僕はここにいる。自分がここにいるんだって分かるんだよ。」
人間は面白い。結局一人でなんて生きられない。誰かに認識されてやっと成り立つのだから。そのくせに一人になりたい時がある。人間関係は不安定だ。弱くたって良いでしょ?
支え合って、なんてありきたりだけど。

僕等は大人になった。とはいえ二十歳を超えただけで中身はまだまだ子供のままだ。彼女とは同棲を始めた。些細なことで喧嘩してしまうのだが、なんとなく楽しんでしまう僕がいる。別に言い合いをしたいとか変な趣味はない。ただ友達なんていなかったから喧嘩をしたことがなかったのだ。目玉焼きには何をつけるか論争は特に盛り上がったものだ。僕は圧倒的に胡椒派だったのだが、彼女は何も付けないらしい。
今日はよく聞く気がする「数年に一度」と言われるような大雨だった。僕はどちらかといえば雨が好きだった。まあ湿気でベタベタするのは否めないが。彼女は雨音を愛おしそうに聞いている。その姿が僕には眩し過ぎた。外は暗いはずなのに。彼女が何かを言った。
君の声が雨に溶ける。
「えっ、なんて?」
「明日桜を見にいかない?って言ったの。」
僕は勿論承諾し、早すぎる楽しみが襲う。
雨がぶつかる窓を見る。小さな粒が他の水滴に混じって大きく流れる。まるで流れ星のようだった。
今日は昨日とは裏腹に快晴だった。早速準備を済ませた。近くの公園へ行くつもりだったのでベンチで食べようとサンドイッチを用意した。少し遅れてしまったが外へ出る。爽やかな春風が吹く。行き道の途中で椿の花が咲いているのを見つけた。しかし、半分ほどは昨日の雨のせいか落ちてしまっていた。椿の花は首が落ちるのを連想させるためにお供えなどには向かないらしいが僕には最後まで美しく咲き続けるという力強さを感じる。
そして今気づいた。多分桜も散ってしまっているであろうことを。まあいいか。
確かに桜は散ってしまっていたが、まだまだ美しく咲き誇っていた。だがやはり満開を見たかった。
「綺麗ね。凄く綺麗な色。」
桜は幹までピンク色でその色が花弁に表される。という話を聞いたことがある。だから、幹から染色することができるらしい。
そう聞くとなんとも言えぬ美しさを感じる。
風が強く吹いた。桜の花びらが舞う。
「そっか…うん、綺麗だね。」

彼女がうずうずしている。
「さあ、食べましょう!」
僕はもう少し桜を見ていていたかったが彼女は目を輝かせて言ったので食べることにした。彼女は口一杯にサンドイッチを頬張る。その姿が愛らしかった。まさに『花より団子』といった感じだ。思わず笑ってしまう。
「ははっ、すごく楽しいや。」
「当たり前じゃない。私といるのに退屈な思いなんてさせないわ。」
「頼りにしてるよ。」
彼女は本当に強い。苦しみを越えて必死に立っている。
なんでも楽しんだもん勝ち、なんて僕には無縁で「そりゃ楽しめるもんなら苦労しない」と思っていたはずなのに。
今、こんな楽しいだなんて。
どれだけ美しい色をしていても黒が混ぜれば一瞬で濁る。あーあ。白がなくなっちゃった。
人の心はパレットではないようだ。
黒く染まっても、また、白に戻せるでしょ?


「ねえ、これあげるわ。」
そう言って彼女が僕に渡したのはとても美しい花だった。
「男に花って…」
「まあまあ、いいじゃない。プリザーブドフラワーっていってね、10年ほど保つらしいのよ。」
「ドライフラワーとは違うの?」
「作り方が全然違うわ。」
そう言って彼女は説明してくれた。プリザーブドフラワーは特殊な液体につけて作る、ドライフラワーはただ乾燥させるだけ。僕がパッとそう捉えただけで本当は違うのかもしれないけど。
「じゃ、水とか…」
「要らないらしいわ。」
「そう、なんだ。」
なんとなく寂しい気がした。生きている感じがしないというか。
「生花じゃなくても十分綺麗ね。」
「そうだね。」
水の入っていない花瓶に凛と咲いている。
(これ、何色なんだろう?)

「はあ、疲れた。」
溜息が出たと思えば、疲れたまでがセットになってしまう。慣れないスーツを着て歩いていた。スマホが震え、明るくなった。彼女からのメッセージだ。
『今、仕事が終わったの。少しカフェでゆっくりしない?』
たまにはこんな夜があってもいいと思う。
大きな交差点が僕の足を止まらせる。車が行き交っている。なかなか信号の色は変わらないらしい。
こちらへは来させないよ、なんてね。
やがて、車は止まり人が動きだす。僕もその流れにのる。

待ち合わせのカフェに着いた。彼女は飲めもしないブラックコーヒーを飲んでいた。しかしやはり無理だったらしく、ミルクを入れまくっていた。そっと彼女の前の席に座り、ブラックコーヒーを頼む。
「何でブラックなんて飲んでたの?」
「うーん、何となくとしか言えないわね。やっぱり私には苦すぎたけれど。」
僕の前に置かれたコーヒーを見つめた。深い闇に落ちていくような、吸い込まれるような。そんな錯覚に陥った。彼女の方へ目を転じる。美しかった。
「君の瞳はダイヤモンドみたいだ。」
彼女は「突然ね。まぁ、ダイヤモンドとは初めて言われたわ。でもサファイアとは言われたことはあった気がするけど。」と言った。
ダイヤモンドの元は炭素だ。地下に埋まった炭素が地層にちょうどいい圧力がかかって原石になる。それが発見され磨かれてやっと輝けるのだからほんの一部に過ぎない。それは彼女の瞳だけではなく彼女自身を表しているように思えた。なんて自分に対して、意味のない逃げ道をつくる。
『僕は相変わらずだな』

家に帰ってあまりにも疲れた身体を労わる。
今日はなんとなく蝋燭で夜を過ごしていた。暗闇に浮かぶ蝋燭の炎がユラユラと揺らめき幻想的だった。そんな雰囲気に呑まれたのかもしれない。僕は彼女に「好きだ」と告げる。しかし、彼女の表情に色々な感情が混じる。僕は嫌われたのかと思ったがそれはないと思う。自分に言い聞かせているだけかもしれないがその表情に嬉しさもある気がした。
でも僕の想いが君を苦しめ、殺すなら、全て消えてくれと願う。
フッと息を吹きかけられた蝋燭の炎のように。
やがて彼女は
「ありがとう、死んでもいいわ。」
と悪戯ぽく笑うのだった。
空の闇が深くなっていく。嫌な胸騒ぎがする。

『待って、行かないで』

僕は何も出来ない。
僕は夢を見ていたのかもしれない。

目が覚めた。外の天気が悪く、入る光が暗かった。いや、違う。まだ今は夜だ。
僕は"それ"を見た瞬間ゾッとした。
彼女は『もう此処にはいれない。』その一言をメモに残し、姿を消した。僕はこの紙切れを破りたくなったが耐えた。彼女の残したものを少しでもいいから置いておきたいと。
気持ちの整理が出来なくてもうどうしようも無かった。僕は彼女を"頼り"にしていたんじゃない。ただ"縋って"いたんだ。
「ごめんなさい。」僕は自分を咎めるよう謝り続ける。

あの日彼女にもらった花が僕の視線を奪う。
「何色か聞くの忘れてた…。」
もういっそのこと枯れてしまえばいいのに。

もう分かっていた。僕が『僕が何を求めているか』を。僕の世界には"色"がなかった。生まれつきの病気なのか全てが白黒で構成されていた。僕にとって不便はなかった。勿論色おにとか色を問われて答えることは出来なかった。だけど、昔から人とコミュニケーションをとることが苦手で嫌いだったし、別にどうでもよかった。なのに、僕は彼女の瞳を見てみたいと思ってしまった。いくら彼女によって世界が彩られても、色づくことはないから。今日もいつものように空を見上げた。暗闇に一つ浮かぶ月が大きく輝いている。嗚呼彼女は月に帰ったのかもしれない。輝夜姫のように。今だけでいい。今だけでいいから泣かせてください。行き場のない気持ちと共に涙を流す。涙でぼやけた月の輪郭をそっと指でなぞってみる。届くはずがないのに触れてみたいと思う。月をどれだけ見つめてもあの日のように僕の月は輝かなかった。美しいと思うのに、何かが足らないと感じる。
月は太陽がないと輝けないんだよ。
何にも届かないちっぽけな僕はそっと月に向かって呟く。
「月が綺麗でした。」と。
(I loved you.)
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