復讐しようとして上手くいかなかった話

菫野

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「髪か、髪なら普通は街の床屋に行くんだけどそうじゃなさそうだな」

エンジュはう~ん、と考えると「奥様の身嗜みを整えている侍女たちに聞いてみるか」と言った。

エンジュの言う通り、フローラ様の侍女たちに会うのか正しかったようで、エンジュは先に部屋に戻り、僕は侍女たちの手によって伸ばしっぱなしの髪をあっという間に整えられた。腰まであった長さは、肩下くらいまでになって頭が軽くなった。
「奥様と旦那様から渡すように言われています」

光沢のある青い髪紐と、ヘアブラシ、手鏡、香油だった。

「ありがとうございます」
僕は頭を下げて、渡されたものを受け取る。

キリッとした眉の侍女が言った。
「旦那様も奥様もとても親切な方です。普通は一介の使用人にここまで手をかけることはないでしょう。貴方の事情は聞いておりますが、くれぐれもお二人の期待を裏切るようなことはしないでください」

確かに僕も僕の両親もここまで使用人に手をかけることはなかったように思う。僕は、エンジュが言っていた「ここで働きたい人はいくらでもいる」という言葉を思い出した。

教わった通りの道順で部屋へ戻ると、すっかり陽が落ちて真っ暗だった。
明かりはどうしたらいいのだろう。
手探りで机を見つけると、先ほどもらった手鏡などを置いた。

右隣の扉を叩いて、エンジュを呼んだ。
「エンジュさん。夜遅くにすみません。あの、明かりはどうしたらいいのでしょう…」

寝る支度をしていたような様子のエンジュは、頭に手をやって、悪い、と言った。
「そうか、部屋の使い方を教えてなかったな」

エンジュの説明は丁寧だった。
明かりは蝋燭にマッチを使って火を灯せばいいこと、寝る前には必ず消すこと。水場は外にある井戸だが、夜に水を汲むのは危ないこと。脱いだ服はここにかけるといいこと。

マッチの使い方から部屋のことを全部教えてもらった。マッチも蝋燭も必需品だから、無くなれば補充棚からもらえるらしい。
僕の部屋にはいま水がないから、今晩はエンジュの部屋にある水を分けてもらって、明日の朝に一緒に汲みに行こうと言ってくれた。

「俺たち下っ端の使用人は朝番、夜番で仕事の時間帯がわかれていて、朝番のやつは4時起きだ。そのぶん仕事が終わる時間も早い。夜番は昼から仕事が始まるけど終わりが遅い。仕事が始まるまではエリュは7時に起きるといい。俺もしばらくエリュと同じ時間に起きるように言われているから安心しな」


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