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大切な人
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俺とルーカスは街で評判の店でサンドイッチを買い、ひと気ない湖のほとりで昼食にした。
サンドイッチは街で評判になるだけあって、ハムとチーズの定番な組み合わせなのに非常に美味しい。ルーカスも一心に食べているからまた二人であの店に行こうと思った。
この湖もマヌエルが穴場だと言っていたように他に人が見当たらないため、今日の用事に丁度いい。
持ってきていた水筒で喉をうるわせて、俺は口を開いた。
「ルーカス、失恋した話を聞いてほしい」
彼は少し目を開いて、続きを促すように頷いた。
「昨日食堂で見かけた副団長がいただろう?あの人がかっこよくて俺は一目惚れしたんだ」
幼馴染相手でも失恋した話をするのは恥ずかしくて、立てた膝に顔を埋めた。
「食事を受け取るだけなのに美しくて、忘れられなかった」
ルーカスは静かに話を聞いてくれている。
「でも、その日の夜にマヌエルが副団長には妻子がいるのだと言っていて、俺は失恋したんだ」
はあ、と深いため息をついて顔を上げた。
「マヌエルの話を聞いて副団長への憧れはさらに強くなったし、騎士団に入団できて心から良かったと思った。でも失恋したんだよ」
俺は泣き笑いのような不細工な顔をしていると思う。
ルーカスは肩が触れそうな距離まで近づいて座った。
「それだけの話なんだけど、男が男に一目惚れだなんて、お前以外に話せるわけがなかった。めちゃくちゃな気持ちを胸に留めて置くことができなかった」
だから話を聞いてくれてありがとう、と続けた。
ルーカスを見ると、彼は困ったように眉を下げた。
やはり男が男に失恋した話は聞き苦しかっただろうか。
「君が副団長に一目惚れしていたことには気がついていた。実は心配していたんだ」
え、と声が出た。
昨夜は眠れたかったんだろう、と彼は続ける。
「僕は、昔からカルラのことが好きでずっと君を見ていた。男に好きだと言われても困るだろうと思って、胸に秘めておこうと。今こんなことを伝えるのは失恋したばかりの君につけ込むようで酷いと思う。でも、嫌でなければ僕と恋人になってほしいんだ」
彼の深い青色の瞳が俺を見つめる。
息を呑んだ。
嫌じゃない。
胸の奥からじわじわと温かいものが込み上げてきた。
ルーカスは子供の頃から病めるときも健やかなるときもずっと俺のそばにいた。遊ぶときも村での仕事のときもずっと一緒だった。
俺の相談事には必ず乗ってくれていた。
彼は俺の夢を尊重してくれていた。
今回の失恋の話だってうんざりしないで静かに聞いてくれたし、嫌なところがひとつもない。むしろ話を聞いてくれているときの態度や、彼の落ち着いた声は好ましいと思う。
顔立ちだって悪くないどころかとてもいい。清潔感のある精悍な顔立ちは村の女の子たちから大人気だった。
嫌じゃないどころか、俺はルーカスが好きだ。
手放したくない。
「…俺は今自覚したが、ずっとお前に恋をしていたのかもしれない。お前にずっとそばにいてもらいたい。お前のことが好きだ。ずっと俺を見ていて欲しい。今さらこんなことに気がつくような俺のことをお前が嫌でないのなら、恋人になってくれないか?」
彼は花が綻ぶように微笑んだ。
「カルラが僕のことを受け入れてくれて嬉しいよ。僕はずっと君の隣にいただろう?鬱陶しがられるかと思うようなこともしてきた。正直、いつか僕のことが嫌になって離れてしまうのではないかと不安だった。君と離れたくなくて騎士団に入った。君のその麦藁色の髪も、飴色の瞳も、何に対しても一生懸命がんばるところも、すべてが愛おしいんだ。君に笑っていてほしい」
鬱陶しいとかそんな風に考えたことなどなかった。俺は美しくて愛しいこの幼馴染を長年不安にさせていたようだ。
うっとりと微笑む彼の唇がとても甘そうに見えて、俺は口付けをした。
「え!…んん!」
戸惑っているような様子にまた愛しさが込み上げてきた。
「はは、ぁっ…ん…!」
思わず嬉しくて笑った瞬間幼馴染の舌が入ってきて口内を蹂躙した。いつの間にか頭に回された手が強くて離れられない。
こんな口付けは初めてで、息が苦しくなった。
「……っは!」
口が離されて空気が入ってきた。
「…ごめん、嬉しくて」
ルーカスは耳まで赤く染めて恥じらったように言う。
確かに仕掛けたのは自分だけども、こんな、こんな!
「だって、お前の唇が美味しそうだったから。勝手に口付けた俺が悪かったけど、お前がこんなキスができるだなんて!経験があるとは知らなかった」
ずっと側にいたはずなのに、自分が知らない間に恋人でもいたのだろうか。
じっとりと見やると、慌てたように弁明をする。
「まさか!こんなこと君が初めてだよ!」
「そうか」
安心して思わず口が緩んだ。
そして自分より少し位置の高い彼の首に両腕を回す。
「俺をお前の恋人にしてくれるか?もう二度とよそ見なんかしない」
彼はとろけるような最上の笑顔で俺の腰に腕を回した。
「喜んで」
サンドイッチは街で評判になるだけあって、ハムとチーズの定番な組み合わせなのに非常に美味しい。ルーカスも一心に食べているからまた二人であの店に行こうと思った。
この湖もマヌエルが穴場だと言っていたように他に人が見当たらないため、今日の用事に丁度いい。
持ってきていた水筒で喉をうるわせて、俺は口を開いた。
「ルーカス、失恋した話を聞いてほしい」
彼は少し目を開いて、続きを促すように頷いた。
「昨日食堂で見かけた副団長がいただろう?あの人がかっこよくて俺は一目惚れしたんだ」
幼馴染相手でも失恋した話をするのは恥ずかしくて、立てた膝に顔を埋めた。
「食事を受け取るだけなのに美しくて、忘れられなかった」
ルーカスは静かに話を聞いてくれている。
「でも、その日の夜にマヌエルが副団長には妻子がいるのだと言っていて、俺は失恋したんだ」
はあ、と深いため息をついて顔を上げた。
「マヌエルの話を聞いて副団長への憧れはさらに強くなったし、騎士団に入団できて心から良かったと思った。でも失恋したんだよ」
俺は泣き笑いのような不細工な顔をしていると思う。
ルーカスは肩が触れそうな距離まで近づいて座った。
「それだけの話なんだけど、男が男に一目惚れだなんて、お前以外に話せるわけがなかった。めちゃくちゃな気持ちを胸に留めて置くことができなかった」
だから話を聞いてくれてありがとう、と続けた。
ルーカスを見ると、彼は困ったように眉を下げた。
やはり男が男に失恋した話は聞き苦しかっただろうか。
「君が副団長に一目惚れしていたことには気がついていた。実は心配していたんだ」
え、と声が出た。
昨夜は眠れたかったんだろう、と彼は続ける。
「僕は、昔からカルラのことが好きでずっと君を見ていた。男に好きだと言われても困るだろうと思って、胸に秘めておこうと。今こんなことを伝えるのは失恋したばかりの君につけ込むようで酷いと思う。でも、嫌でなければ僕と恋人になってほしいんだ」
彼の深い青色の瞳が俺を見つめる。
息を呑んだ。
嫌じゃない。
胸の奥からじわじわと温かいものが込み上げてきた。
ルーカスは子供の頃から病めるときも健やかなるときもずっと俺のそばにいた。遊ぶときも村での仕事のときもずっと一緒だった。
俺の相談事には必ず乗ってくれていた。
彼は俺の夢を尊重してくれていた。
今回の失恋の話だってうんざりしないで静かに聞いてくれたし、嫌なところがひとつもない。むしろ話を聞いてくれているときの態度や、彼の落ち着いた声は好ましいと思う。
顔立ちだって悪くないどころかとてもいい。清潔感のある精悍な顔立ちは村の女の子たちから大人気だった。
嫌じゃないどころか、俺はルーカスが好きだ。
手放したくない。
「…俺は今自覚したが、ずっとお前に恋をしていたのかもしれない。お前にずっとそばにいてもらいたい。お前のことが好きだ。ずっと俺を見ていて欲しい。今さらこんなことに気がつくような俺のことをお前が嫌でないのなら、恋人になってくれないか?」
彼は花が綻ぶように微笑んだ。
「カルラが僕のことを受け入れてくれて嬉しいよ。僕はずっと君の隣にいただろう?鬱陶しがられるかと思うようなこともしてきた。正直、いつか僕のことが嫌になって離れてしまうのではないかと不安だった。君と離れたくなくて騎士団に入った。君のその麦藁色の髪も、飴色の瞳も、何に対しても一生懸命がんばるところも、すべてが愛おしいんだ。君に笑っていてほしい」
鬱陶しいとかそんな風に考えたことなどなかった。俺は美しくて愛しいこの幼馴染を長年不安にさせていたようだ。
うっとりと微笑む彼の唇がとても甘そうに見えて、俺は口付けをした。
「え!…んん!」
戸惑っているような様子にまた愛しさが込み上げてきた。
「はは、ぁっ…ん…!」
思わず嬉しくて笑った瞬間幼馴染の舌が入ってきて口内を蹂躙した。いつの間にか頭に回された手が強くて離れられない。
こんな口付けは初めてで、息が苦しくなった。
「……っは!」
口が離されて空気が入ってきた。
「…ごめん、嬉しくて」
ルーカスは耳まで赤く染めて恥じらったように言う。
確かに仕掛けたのは自分だけども、こんな、こんな!
「だって、お前の唇が美味しそうだったから。勝手に口付けた俺が悪かったけど、お前がこんなキスができるだなんて!経験があるとは知らなかった」
ずっと側にいたはずなのに、自分が知らない間に恋人でもいたのだろうか。
じっとりと見やると、慌てたように弁明をする。
「まさか!こんなこと君が初めてだよ!」
「そうか」
安心して思わず口が緩んだ。
そして自分より少し位置の高い彼の首に両腕を回す。
「俺をお前の恋人にしてくれるか?もう二度とよそ見なんかしない」
彼はとろけるような最上の笑顔で俺の腰に腕を回した。
「喜んで」
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