短歌集『虚仮の轍』

凛七星

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「ほなまた」と祭のあとのそのせなに告げて別れて恋はエンスト



祭の夜あなたを見失わぬよう湯帷子ゆかたの袖をふれあわせてる



「風鈴のように生きたし」願う夜の遠くの祭囃子にゆれて



幼子が手足ばたばた駆けめぐる寝床で夢の中の祭を



早乙女の手つきもどこかぎこちなく笠の紅緒も芝居がかりて






大阪天神祭 五首

西鶴も近松も観し祭の燈今宵いくつの恋の焦がるる



船渡御のゆき交う橋へ赴けば川面をゆらす大阪締めが



梅雨明けて浪花みやげの箱寿司は祭の案内状のようで



街角は祭がきたと知らされる浴衣姿のうちわ娘に



ゆるやかにうすものを着て見え透いた嘘つくひとと流される夏






夜を染める花火の炎したたりて男とおんな喃語重ねし



背を向けて透綾の襟元なおす手を止めて引き寄せ祭の夜ふけ



糖菓子の甘さのような口づけは女のずるさが隠し味か



祭の夜明けゆくときのほのかなるつゆの残り香しどけなくあり



毒々しいろの氷に匙つつき道なき恋の夏がすぎゆく



「離れなや」祭にうかれる吾子を追ふ若き母みな今宵うつくし



りんご飴の紅が染めるすっぴんのきみの唇わが名を呼びて



ソーダ水の弾ける泡のようだね祭のときのきみの若さよ



閉めきった窓のカーテン舞うような気がした遠くの祭囃子に



はなやかな祭が終わる寂しさは期限切れした恋と似ている



凛七星(りん しちせい)
京都生まれ。在日朝鮮人三世。
祖父は在日本朝鮮人連盟、在日本朝鮮人総聯合会で中央委員、京都本部長を歴任。父は左派哲学者の立場で1970年代から祖国・朝鮮民主主義人民共和国の主席・金日成崇拝と独裁政治体制を批判し数々の著書を出す。
作者は近年、日本各地の路上にあふれ出た劣悪な差別行動やヘイトスピーチに対するカウンターを起こし活動をしてきた中で、短歌や和歌を詠み始める。
過去に角川全国短歌大賞、全日本短歌大会、NHK全国短歌大会、天神祭献詠短歌大賞、和歌の浦短歌賞、後鳥羽院和歌大賞・短歌大賞、蒲郡俊成短歌大会、古今伝授の里短歌大会などで受賞。
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