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第1章
ミッション2:名前をつけよう!
しおりを挟む家に帰ると、玄関から母親の声が飛んできた。
「ちょっと! その袋なに!? ……まさか金魚!?」
――はい、出ました。本日のミニボス戦。
タイトル:母親(BOSS:おかんLv.100)。
「もう、池に放しときなさいよ! あんた、そういうの続かないんだから。ほら、前もカエル干からびさせたでしょ!」
母親の口撃コンボ、3HIT。
――精神ダメージ、そこそこ。
「聞いてるの!? いい歳して……あんた、それ、東京まで連れて帰んの? まったく考え無しなんだから!」
「はいはい」
反撃コマンドは“スルー”一択。
これ以上食らうと会話ログがバグるからな。
とりあえず自室へ避難。
金魚の袋をハンガーラックに掛けて、そっとつぶやく。
「ちょっと待ってろ。すぐ戻ってくるからな」
――任務再開、ステルス機能オン。
玄関のフックに手を伸ばし、軽トラの鍵をそっと抜き取った――その瞬間。
「ちょっと権蔵! どこ行くの!」
任務、失敗。母親の索敵範囲、想定以上。
「もう! ガソリン少ないって言ったでしょ! あっ、じゃあついでに注いできてちょうだい。それとね、どうせなら――」
――はい、ラストアタック入りました。
回避行動:靴を履いて玄関脱出、成功。
「ちょっと、権蔵! 待ちなさい!」
背後で響く追撃ボイス。
ダメージ軽減スキル“聞こえないふり”発動。
玄関の戸を閉めた瞬間、追撃は止んだ。
戦闘回避成功。
HP:ギリ残り5%。
さて、束の間の休息――いや、次は物資調達ミッションだ。
親父の軽トラを拝借し、ホームセンターへ急行する。
――そもそも、金魚なんて飼ったことがない。
店員にそれとなく聞きながら、蓋付きの大きな瓶と餌、酸素の出る石を購入。
田舎の夜道を軽トラで戻りながら、なんか、ちょっとワクワクしていた。
だが軽トラを停めて荷物を降ろした瞬間、玄関の戸ががらりと開く。
「ちょっと権蔵! そんな大きい瓶、どこに置くつもり!? ねぇ、まさか部屋!? もう! 水こぼしたらどうすんの!」
――はい、近距離ガミガミきたー!
母親の声、効果範囲:庭先全域。
「ガソリンは!? 注いだ? あとその瓶、割れたら危ないからね!」
母親の口撃、中距離モード(連射型)。
――ダメージ軽減中。スキル“聞こえないふり”を再び発動。
視線を合わせず、荷物を抱えて無言で玄関を駆け抜ける。
母親の声は背後でまだ続いていたが、部屋のドアを閉めるタイミングでフェードアウト。
「ふう……無事帰還ってな」
部屋の片隅に買ってきた瓶を置き、早速水を張る準備を始めた。
口撃の後だからか、ここは別世界みたいに静かだ。
スマホで「金魚 飼い方」と検索する。
「ふむふむ……水道水はカルキを抜いてから……?
はっ、まかせろ。うちは裏山の湧水だ。田舎舐めんな」
瓶に袋の水ごと金魚を移すと、しばらく忙しなく泳いでいた。
その小さな体が水を切るたび、鱗がきらきら光る。
直後、ポワンと音が鳴って、視界にまた“あれ”が現れた。
⸻
【新しい存在が認識されました】
名前:???
品種:??
親密度:0/100
⸻
「おほーっ!! まだ続くのか、これ!」
思わず声を上げると、金魚がこちらを見た。
まるで「なあに?」とでも言いたげに。
⸻
【ミッション:名前をつけよう!】
『この子に名前をつけてください』
⸻
空中に浮かぶ光るパネルには、二つ目のミッションが提示されている。
「だよなー! まずは名前だよな……」
頭の中にいくつか浮かぶ、が……
・さくら
・金魚っち
・きんちゃん
・ギョッちん
「……“さくら”で頼む」
これが一番マシ、だよな。
即興でセンスある名前とか、どうやら俺には無理らしい。
⸻
【登録完了】
『さくら』があなたのパートナーになりました。
【親密度が上昇しました】
0/100 → 5/100
⸻
その瞬間、瓶の水面がふっと輝いた。
淡い桃色の光が水中を漂い、金魚――いや、さくらがゆっくりと尾を振る。
まるで嬉しそうに。
「おおっ、5も上がった!?」
つられてこっちのテンションも上がる。
さっきまでの“口撃戦”で削られたHPが、ちょっとだけ回復した気がした。
⸻
【オーナー設定】
あなたの名前を教えてください。
※以後、名前の変更はできません。
⸻
「オーナー……? 名前って、プレイヤー名?」
マジでゲームしてるみたいだ。
じゃあ、とりあえずいつも使ってるやつにしとくか。
⸻
【以下の選択肢から選んでください】
①ゴンゾー
②ゴンゾー♡
③ゴン⭐︎ゾー
→その他の選択肢へ
⸻
「えっ? 選択肢とは……?」
思わずツッコミを入れる。
⸻
【確認】
その他の選択肢も確認しますか?
⸻
「……まぁ、一応見せてくれ」
⸻
【その他の選択肢】
④ゴンザレス
⑤黒翼ノ堕天使
⑥破滅の刀剣
⑦オートミール仮面
以上
⸻
「ぬおおおっっ!! えっ!? これ、全部俺の昔のプレイヤー名じゃね!?」
瓶の中で、さくらがぷくっと泡を吐いた。
それはまるで、笑っているように見えた。
「てか、なんで知ってんだよ。怖ぇわ!!……もういい、①で頼む!」
⸻
【最終確認】
オーナー名:ゴンゾー
よろしいですか?
⸻
「実質それしかねーだろ」
――なんだこれ、ほんとに何のゲームだよ。
⸻
【登録完了】
『ゴンゾー様』が設定されました。
【親密度+2】(現在7/100)
【初期設定が完了しました】
ようこそ――
『KoiLink』へ。
次のミッション:
『さくらとの絆を深めよう』
⸻
瓶の中で、さくらがくるりと回る。
水面に一瞬、桃色のきらめきが走った。
「コイリンク……?」
ふと、空中に浮かぶ文字を読み上げる。
――恋リンク?
「は? 恋愛ゲー?」
思わず眉をひそめた。
どこの世界に、金魚相手の恋愛ゲームがあるんだよ。
「いやいやいや……ないない」
苦笑しながら首を振る。
……でも、ほんの少しだけ、“もしそうだったら”なんてくだらない想像が頭をよぎった。
「まぁ、育成ゲー、だよな」
そう呟いて、ふっと息を吐く。
視界のパネルはいつのまにか消えていた。
ベッドに寝転んで棚に目をやると、瓶の中でさくらが気持ち良さそうに泳いでいる。
「……うん。なんか、いいな」
心地よい静けさに包まれながら、俺の意識はゆっくり沈んでいった。
頭上の空間に、白い文字が点滅していることにも気づかずに――
⸻
【DATA LOADING…】
【PLEASE WAIT】
⸻
(to be continued)
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