KoiLink ―さくら育成ログ― ポワンで始まる癒しアプリライフ

Yoiasagi 宵浅葱

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第1章

ミッション13:正規ルート外

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 リヒトさんの豪邸に足を踏み入れた瞬間、俺は悟った。

 ――あ、今日、帰れないな。

 玄関からしておかしい。
 普通に、俺の部屋より広い。
 天井は高く、床は無駄にピカピカで、生活感という概念が見当たらない。

 そして廊下の棚。

 ワイン、日本酒、ウイスキー、見たことのない洋酒が、店みたいにずらりと並んでいる。

「さぁさぁ、今日は飲みまくるよー!」

 リヒトさんは軽い調子で言いながら、次々と酒瓶を抱えてくる。

「……すごい品揃えですね」

「そう? あ、冷えてるワインもあるよ。見に行く?」

 さらっと言われたが、どうやら“見に行く”レベルのワインセラーがあるらしい。

 テーブルには既に、つまみの山。
 そして、いつの間に注文したのか、寿司とピザまで揃っていた。

 宴会準備、完了。

「じゃ、カンパイ、しまショウ……」

 ユージンがグラスを持ち、少し照れたように微笑む。

 「失恋で飲む」だけで絵になるの、なんかズルいな。

「じゃ、じゃあ、ユージンの幸せを願って」

「それから、ゴンゾー君の歓迎も兼ねて」

「カンパーイ!!」

 グラスが触れ合い、宴が始まった。

 ⸻

 最初は、普通だった。

 普通に食べて、普通に飲んで、普通に会話していた。

 異変が出たのは、三杯目あたり。

「……恋は、雅で、残酷デス……」

 来た。

 ユージンがグラスを両手で包み、遠くを見る。

「激シカレトハ、祈ラヌモノヲ……」

 お、和歌か!?

「うんうん……」

 いや、分かるの!?
 俺、通訳いるんだけど。

「……ツラいデス」

「だよねぇ」

「ミヲツクシテモ、アハムトゾ……」

「切ないよねぇ」

 すごい。
 日本語のはずなのに、別の言語圏にいるみたいだ。

 寿司を口に運びながら、俺は静かに視線を逸らした。

 ⸻

 そんな中、ふいにリヒトさんがスマホを操作し始めた。

「せっかくだし、うちの娘たちも見せちゃおうかな~」

 言いながら、画面を横にスワイプすると――

 艶やかで、妖艶で、どこか現実離れした美女たちが次々に現れる。

 あ、これだ。
 コイリンクのオープニングで見たやつ。

「……すご」

「でしょ?」

 リヒトさんが、ちょっとだけ得意そうに笑った。

「まずはこの娘を見て欲しいんだけど……」

 一瞬、目を奪われるような美女が見えたと思ったら――

「ウウッ……」

 ユージンが突然、顔を覆った。

「……抱きタイ……」

 え、急に何?
 やめて、今から美女軍団の解説が始まるとこなのに!!

「彼女、キモチ良かったノニ……」

 あー、話が一気に俗っぽくなったな。
 さっきまでの雅、どこ行った?

「そっか、そっかぁ……」

 リヒトさんはスマホを伏せ、ユージンのグラスに酒を注ぐ。
 ついでに、俺のにも。

「いや、もう十分で……」

「何言ってるの。明日も休みでしょ?」

 止める間もなく、グラスは満たされた。

 こうして、美女軍団の詳細は闇に葬られた。

 ⸻

「そういえばさ」

 今度は、リヒトさんが俺のスマホを覗き込む。

「ゴンゾー君のさくらちゃんだけど――」

 そこで言葉が、止まった。
 何? 怖いんだけど。

「……レベル、? だったよね」

 え? 
 さくらにレベルとか、あったっけ? 

 とりあえずアプリを開くと、リヒトさんが横からさくらをダブルタップした。

 ⸻
【さくら】
 Lv:?
 親密度:22 / 100
 状態:回復中
 ⸻

「ほら。普通は、ここ数字が出るんだけどね」

「あ、ほんとデスネ」

 二人揃って首を傾げる。

「どこで買ったの?」

「買う?」

「さくらちゃんダヨ」

 二人に聞かれて、俺は少し小声になってしまった。

「……金魚すくい、です」

 沈黙。

「え? そんな話、初めて聞いたよ」

「……それ、普通じゃナイデス」

「やっぱり?」

「うん。錦鯉は金魚すくいにいないよ」

「……ですよね」

 じゃあ、なんでいたんだ。
 改めて考え始めた、その時。次の一手が打たれた。

「じゃあ、アプリはどしたの?」

「どこでゲットしましタカ?」

「……えっと、なんか勝手に、入ってました」

 また沈黙。

「へぇ……」

 リヒトさんが、ワイングラスを傾ける。

「そんなことも、あるのかな……」

「あるの……カモ……?」

 しばしの沈黙のあと、話は結局酒に流された。

「まぁ、いっか!」

 そう言ったリヒトさんが、もう一度だけ、さくらの画面を見た。

 その目は、少しだけ、考える人の目をしていた。


(to be continued)
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