KoiLink ―さくら育成ログ― ポワンで始まる癒しアプリライフ

Yoiasagi 宵浅葱

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第1章

ミッション14:目覚めたら、隣にいた

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 その後の記憶は、ところどころ途切れている。

 ソファに深く沈み込んだ感触。
 誰かが笑っていた気がする。
 グラスが触れる音と、低い話し声。

 そして――
 ゆっくり、世界がほどけていった。

 ⸻


 水の音がした。

 ちゃぷ、ちゃぷ、と
 穏やかで、懐かしい音。

 夢の中で、俺は自分の部屋にいた。
 いつもの六畳、いつもの棚。

 でも、何かが違う。

 水槽の中に――
 さくらが、いない。

「……あれ?」

 胸の奥が、ひやりとする。

 振り返ろうとした、その瞬間。

「ここだよー」

 背後から、やわらかい声。

 振り向くと、そこにいたのは
 着物を着た、小さな女の子だった。

 白銀の髪。
 そこに、紅が一筋だけ混じっている。

 水面に光が反射したみたいな、不思議な色。

「……さくら?」

 女の子は、にこっと笑った。

「うん!」

 その笑顔を見た瞬間、
 胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

 どうしようもなく大事な存在に思える。

「もう、だいじょうぶ!」

 さくらは、俺の服の裾をつまむ。

「げんきになった!」

 声は、水の中みたいにやさしくて、温かい。

「ゴンゾー、ありがとう」

 喉の奥が、少しだけ詰まる。

「……いや、俺は……」

 何か言おうとして、言葉が見つからない。

 さくらは首をかしげて、くすっと笑った。

「ねえ」

「ん?」

「これからも、ずっと一緒でいい?」

 小さな指が、ヒラヒラと俺の服を揺らす。

 考えるまでもなかった。

「……いいに決まってる」

 そう答えた瞬間――
 さくらの身体が、ふわりと光に溶けた。

 水面がきらめいて、世界が白く滲んだ。

 
 ――


 何かが、重い。

 胸のあたりに、ずしりとした感覚。
 息を吸うたび、押し返されるような圧。

 ……あれ?

 これ、夢、じゃないよな……

 ――そっと目を開ける。

 知らない天井。
 知らない匂い。

 身体を起こそうとして、動かない。

 ……ん?

 状況を確認しようと、ゆっくり視線を動かす。

 金髪。
 広い肩。
 なぜか――裸の上半身。

(敵キャラ:至近距離でスポーン!?)

「……っ」

 声が出ない。
 ヤバい。
 がっちりホールドされている。

 抱き枕を逃がさない勢いで、片腕、片足が俺の上に、完全に。

(拘束状態:解除不可)

 恐る恐る身じろぎすると、腕にさらに力がこもった。

「……ダメ」

 掠れた声が、耳元で落ちる。

(ボイスイベント:強制発生!!)

 脳内で警報が鳴り響いた。

 ――無理無理無理無理無理!!!

 全力で体を引こうとするが、腕はびくともしない。

「ちょ、ちょっと待って!!」

 胸の上に乗っている太い腕を、必死にタップする。

「ギブ! ギブだから!!」

「?? ナニカ、問題デスカ?」

 問題しかない。

「なんで! なんでこうなってる!?」

「昨日、ゴンゾーが私を……」

 俺が何?

「でも、途中で寝マシタ」

 途中とか、変な言い方やめてくれ。

「だから、このままデス」

 やめろ、このままって何だよ!
 情報が、まったく整理できない。

 視線を泳がせるが、部屋にいるのは俺とユージンだけ。

 助け、ゼロ。

「……嬉しイ」

 ぽつりと、ユージンが言った。

「誰かが、そばに居ル……」

 昨夜の泣き声とは違う、
 穏やかで、少しだけ本音の混じった声。

 一瞬だけ、言葉に詰まる。

 ――いや、違う。
 その“誰か”は俺じゃなくていいはずだ。

「と、とにかく離してくれ!!」

「え?」

「身体、どいて!!」

「あ、スミマセン」

 ようやく腕と足が外れ、俺はソファの端まで転がるように退避した。

 心臓が、うるさい。

 先に言っておくが、このバクバクはトキメキなんかじゃない。
 
 あれだ。
 緊張、つまり身の危険から解放された後のバクバクだからな!

 頭は真っ白。
 もはや酒は、完全に抜けている。

 これは――
 朝チュンなんかじゃない。

 事故だ。

 正規ルートなんかじゃない。
 絶対に。

(イベントログ:想定外)

 なんか、変な世界に足を踏み入れている気がする。


(to be continued)
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