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第4章、揺れる波紋
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「いや、彼らは敵じゃない」
ジリジリと追い詰められた事を感じていた最中、口を開いた青年、ミズキの一言に彩音達は騒然とした。ミズキは剣を鞘に納め、そして三人の前に出るように歩み出る姿に一同はギョッとし
「彼らは敵では無い。すぐに武器を下ろしてくれ」
そんなミズキの声に兵士が戸惑うように武器を下ろしていく中、彼の一言で兵達が武装を解く様子にギン達も状況が理解出来ずに呆然としていた。やがて兵達から戦意が解かれた事に彩音が手を下ろすとそれを察したギンも短剣を下ろし、ホルダーに収める。
やがて、振り返ったミズキにそれぞれの視線が向くと
「ここまで来ればベス兵も追ってはこられないでしょう」
「ええと、ミズキ、これは一体?」
「お話すべきでしょうが、まずは付いてきて頂けますか」
彼だけがこの状況の意味が分かっているような表情をしており、門へ向かい歩き出す姿に三人は返答する間もなく彼の後を追うように門をくぐったのだった。
門をくぐり、いわゆる城下町と呼ばれる町に入った彩音はミズキの後を追いながら町中を見渡す。数多くの人が行き来し、小さな子どもから女の人まで色んな人の姿が見えた。笑う声、走る音、色んな音が聞こえてくる。
そのまま彼の後をついていけば、やがてこの国の象徴とも言えるであろう城が次第に近づき何の躊躇もなく門をくぐる彼に彩音は驚いた。
訳が分からないまま私達はミズキの後をついていた。
彼がなんの躊躇もなく敷地内に、城内に入っていったことに驚きを隠せない。しかし衛兵が来る様子もなく落ち着かない様子で辺りを見渡し、やがてとある間に辿り着くと彼は足を止めた。
「あの」
「すみません。あの場でお話するのは少し、まだベスの兵士が潜んでいないとも言い難く」
「それはそうなんだけど……」
と困惑のまま返し「あの……」と問いかけようとした時
「ミズキ様――――!」
遠くから男性の叫び声が聞こえ、どこからか初老の男性が現れた。兵の身につける鎧とは違う、武装のない男性はミズキの前で止まっては息を切らせながら
「ご無事だったとは……うっ、うぅぅ……!」
ミズキの姿を見るなり中年の男性は目尻に涙を浮かばせ嗚咽を繰り返す。「うぅぅ、わたくしは、わたくしは……!」と泣いてみせる中、彩音はこの状況が何なのか確かめなくてはならないとミズキに問いかけた。
「あの、ミズキ?」
「あ、申し訳ございません」
と状況に気づいたミズキは彩音達へ身体ごと向け
「貴方がたのおかげで、私は生きてこの町に戻って来られました。何と礼を申し上げればいいか」
「それは、気にしなくていいんだけど……。ミズキ『様』って……?」
「あぁ、それもそうですね。そのような不格好な姿で申し訳ありませんが、ここまで送り届けて下さった御三方には名乗らねばなりませんね」
とミズキは三人の姿へそれぞれ目を向けた後、一呼吸置いて
「今まで素性を明かせず失礼しました。私はこのリレミア王国の第一王子、ミズキ・リレミア・ヴィンヘルムと申します」
「…………」
ミズキが名乗り、正体を明かしたことによってその場が静まり返る中初老の男性が「ミズキ様、この方達は」と問い
「この方達が助けてくださったのです」
「そうでございましたか。申し訳ございません。あなた方にはなんとお礼を言ったらよいか」
「えっ、えぇえええ!?」
やがて、全てを察したギンが声を上げ「ミズキさん、この国の第一王子だったんですか!?」と彩音とシズクへ視線を向ける。そんな視線に気づいたシズクが答え
「確かに驚きましたが……」
「黙っていてすみません」
ギンは彩音の方へ視線を向けると、彼女も驚いている事自体は間違いなさそうでありながら、やがて「まあ……そんな感じはしてた」との発言に唖然とし
「一人称『私』の丁寧な口調、汚れていようとその姿は少なくとも平民ではなく貴族じゃないかとは思ってた。それなら何者かに狙われる事自体も説明はつくし」
「…………」
「だけど、まさかこの国の王子とまでは流石に思わなかった……」
「君じゃないか、他人に安易に身分を明かすなといつも言っているのは」
彩音とギンが困惑を口に出し合う中、ミズキは視線を感じていた初老の男性に向けて向かって告げる。それに男性は「ということは、この者達はミズキ様が王子である素性を知らないままここまで連れてこられた、ということですか……?」と投げかけ、ミズキは頷いてみせる。
「信じられません」
「確かに、少し前に行商隊からこの国の王子が行方不明だという噂は聞いたけど……」
「わたくし、ミズキ様の教育係を仰せつかっておりますレイムと申します」
やがて、初老の男性はそう彩音達に向け名乗ると
「この度は王子を助けていただき誠に感謝致します」
「一体何があったんですか」
「確か、あの鎧は隣国、べス王国の兵と言ってましたよね」
その問いにやがてレイムは答えた。
「ミズキ様を始め、我々リレミア王国はこのランドール大陸の国王が集まる国会議の為ベス王国にいました。その帰る途中、べス王国の兵に襲われたのです」
ベス兵から王子ミズキを守る途中、護衛部隊は全滅しレイムを庇うようにミズキは孤立しベス兵を引き付けた。そのおかげでレイムと残された近衛兵は無事城まで戻ることが出来たものの、ベス兵を引き付けたミズキの行方はそこで途切れたと話す。
そしてその続きを話すようにミズキが明かし
「レイムの話通り、ベス兵の狙いが私であることは明確でしたから、引き付けたまではいいのですが追い詰められてしまいまして」
「…………」
「後がなくなった私は一か八かをかけて川に飛び込んだ、というわけです」
「それで、流れついた所を俺たちが偶然見つけた……ということですか」
なぜベス兵はリレミア王子を襲ったのか。
そうギンが疑問を呟くと、ミズキと顔を見合せたレイムが口を開く。
「元よりベス王国は、ランドール大陸の多くを占める大国です。リレミア王国もまた元はベス王国の一部でした。しかし会議の帰りに奇襲を仕掛けてきたとなると、やはりあの噂は本当だったのやもしれません」
「噂?」
「レイムの話通り、元はここリレミア王国はベス王国の一部だったのです。しかし独立を機に条約を結び、それによってもう戦は起きないはずだった」
しかしその条約は破られ奇襲を受けた。
少し前より聞いていた『最近ベス王国が不穏な動きを見せている。独立国を再びベス王国として取り戻さんと戦争を企てているのではないか』という噂も踏まえ
「全てベス王国の計画ではないか、と考えられる」
「ベス王国が、かつての自領土を取り戻そうと王子の暗殺を企てた、ってことですか」
「戦争は、なんとしても避けなければならない」
「……彩音さん、もしこの話が本当なら大変なことでは?」
事の内容を知ったギンは彩音に問いかけ、それにシズクも同意を示すように口を開いた。
「私もギンと同じ意見です。暗殺が企てられていたのなら、王子か健在と知る以上間違いなくまた襲ってくると考えられます。それが国に広まれば、リレミア王国とベス王国の戦争は避けられないでしょう」
「国が戦争になれば、私達も狙われかねません。早々にこの大陸からの離脱を……」
「……仮に、そのべス王国の兵士とやらがここに襲撃してきた場合ここは勝てるの?」
「それは……わかりません」
不意に呟いた彩音の問いにミズキは答え、それに彩音は黙り込む。それにギンは疑念を感じ、やがてなんとなく、少女の考えている事が分かってしまった。
「彩音さん、まさか……」
「…………」
「忘れてはいませんよね? あの時の事を」
「忘れてなんかないさ」
そう彩音は答え、グッと手を握り込むと
「出来れば二度と見たくない。関わりたくもない。だけどここでミズキ達を見捨てることもしたくないんだ」
「…………」
「私達がここに来たのは、このタイミングでミズキに会ったのはただの偶然じゃなく何か意味があると思いたい。何よりも……ミズキが悪い人には見えないんだよ」
「…………」
「だから、手助けしたい。何も知らない私達に、何が出来るか分からないけど……」
「父……前国王が亡くなってから、条約を結んだはずの他国の動きが変わり中でもべス王国が一番に動き出しました」
「今は、ミズキ王子を先頭にこの国の治安は保たれています。が不安定となっているのも確かで、もし本当にベス王国が戦争やミズキ様暗殺を企てているのなら攻め込まれるのも時間の問題です」
「せめて各領地を治める領主や貴族と防衛対策を立てられればいいのだけど……」
ミズキの言葉が不意に止まり、疑問を持った彩音に対して察したレイムが眉を下げて口にする。
「リレミア王国は各領地を治めている領主や貴族がいます。しかし王子は戦いを望まない傾向の為、度々意見の合わない貴族と衝突が起きていまして」
「…………」
「戦争ともなれば、更にその対応について衝突が起きそうです」
「今、国内は不安定な状況です。もともと大きな国ではないため他国より戦力が小さいのもありますが」
元より好戦的な国家であるべス王国は、いずれ他の国も侵略しようと考えている可能性もありちょっとやそっとで収められるような問題などではないとミズキは嘆く。中には逆に不意をつき、べス王国を侵略してしまえば解決する、という者もいるようで
「ですが私はそのようなことはしたくありません。出来れば戦いも避けたい」
「現時点では、攻め込まれたときに国を守ることに精一杯で、国家戦力差では全面戦争ともなれば我が国に勝ち目はないでしょう」
やがて、レイムは三人に向け
「あの、御三方。助力していただけるのはとても助かるのですが、我々は貴方がたの事をよく知らないのです。ミズキ様を助けて頂いた中でこう申し上げるのも何ですが、貴方がたが敵でない証拠がない以上協力を頼むことは……」
「それは最もな意見ですが、敵でない証明など、どう話せばいいのです?」
レイムに向けたシズクの返答にレイムは黙り込み
「……御三方は、旅の者なのですよね?」
「そうですね」
「その、ご出身は?」
その問いに三人は目を丸くし、ギンとシズクが黙り込む中二人の空気を察した彩音が場を繋ぐように口を開いた。
「み、皆生まれも育ちもバラバラなんですよ。私は日本という……ここからすっごい遠い島国から来たんです。ギンもシズクも、私が旅をしてた時に会って……」
やがて、二人の様子を伺うように言葉を選んでは
「えっと、二人はその色々と事情があって……」
「話せないのなら、無理に話す必要もないでしょう」
とミズキが間に入った時、シズクが「シトラ大陸です」と口を開きその発言に彩音とギンが目を丸くするも、それを聞いたミズキは考え
「日本、シトラ大陸……どちらも聞いた事のない国だ」
「ここへ来たのは特別な理由はなく、ただ地図を広げた彩音さんが気まぐれで指さした場所がこの大陸だったのです」
立ち寄った村の人にこの王城と城下町は是非見るべきだと教えられたので、それを見て帰るつもりだったとギンは告げる。
「このランドール大陸はリレミアを含めべス王国、アルデバラン王国、クレモア王国計4つの国で成り立っており、その中ででもリレミアは一番新しい国なんです」
「だからこそ小さけれど活気があると」
「一度、互いに整理すべきです」
シズクの声にそれぞれは視線を向ける。
彩音側とリレミア王国側、彩音達を仲間として協力を仰いでいいものかどちらにとっても慎重な判断が必要だと時間を置くこととなり、答えが出るまで王城に留まることとなった。
「私にはわかりません」
そんな中、そんな呟いたシズクに「何が?」と彩音が問いかけると
「彼……この国の王子に対してそこまでする理由が。確かに出会った以上無関係とは言い難いでしょうが赤の他人ですよ。私からすると、これまでもですが貴方の行動は理解に苦しみます」
「…………」
「貴方が私達と違う感性の持ち主であることは充分理解しています。しかしこれは、これまでのように賊を相手にするのとはまた訳が違ってきます。だからこそこの話については慎重な判断が必要だと思うのです」
「理由を答えろと言われれば、正直、自分でもわかんない」
「……え?」
そんな彩音からの返答にシズクだけでなく、ギンも目を丸くすると
「俺達と違う貴方はミズキ王子を助けたい、という善意でのことだとばかり思ってたのですが」
「確かにミズキの事は助けたいって思う。けどそれが善意なのかどうかと聞かれると分からない。だけどミズキが危ない目に合わされようとしてるのなら、やっぱり助けたいって思うんだ」
「…………」
「ミズキ王子を狙ってきたベスという国は、このランドール大陸内でも好戦的な国で、この大陸の歴史内で起きた戦争のほとんどがベス絡み。そんなやり方に納得いかなかった一部の土地が独立したのがリレミア王国だそうです」
独立後も大陸全土を巻き込んでの戦争は無かったものの、リレミア以外の他国も多々べス王国からの攻撃を受けており、小さな争いは頻繁に起きそのほとんどがべス王国による領土拡大によるものだという。
翌日、再び三人はミズキとレイムの前にいた。
「私とレイムの意見としては、やはり命の恩人でもある三人にお力添え頂けると心強いという結論となり……。そちらの結論をお聞かせ頂けますか?」
「私達は……」
と答えを口にしようとした時、扉が開くと一人の兵士が慌ただしく飛び込んでくる。
「ミズキ様! リレミア領土内にべス王国の兵士がいるとの報告がありました!」
「なんだって!?」
「今のところ目撃近くの村に被害は受けていませんが、偵察部隊によると進路からしてリレミア城に近付いているとのことです! 偵察部隊より報告を受けた騎士団が警告に出ましたが……」
三十分の時が経ち、改めて報告が入るもそれは思わしくない方向へと向かっていた。これ以上城から兵を出す事は厳しいと悩ませるレイムに対してミズキは意を決し「やはり僕も出よう」と告げる。
その声にレイムは唖然とミズキへ顔を上げると
「僕が生きていることは、既に向こうの耳にも入っているだろう。だとすれば、町に不要な被害を起こさない為にも目的たる王族が出る必要がある」
「しかし、前王無き今ミズキ様まで失っては」
「最低限の兵は連れていく。それでも相手を考えると心もとないけれど」
「私達も行くよ」
ふと声がし振り返ると彩音達三人の姿があり、そんな三人の姿を見たミズキは「お願いします!」と意を決し、出せるギリギリの軍と彩音達と共に城から郊外へと向かった。
ジリジリと追い詰められた事を感じていた最中、口を開いた青年、ミズキの一言に彩音達は騒然とした。ミズキは剣を鞘に納め、そして三人の前に出るように歩み出る姿に一同はギョッとし
「彼らは敵では無い。すぐに武器を下ろしてくれ」
そんなミズキの声に兵士が戸惑うように武器を下ろしていく中、彼の一言で兵達が武装を解く様子にギン達も状況が理解出来ずに呆然としていた。やがて兵達から戦意が解かれた事に彩音が手を下ろすとそれを察したギンも短剣を下ろし、ホルダーに収める。
やがて、振り返ったミズキにそれぞれの視線が向くと
「ここまで来ればベス兵も追ってはこられないでしょう」
「ええと、ミズキ、これは一体?」
「お話すべきでしょうが、まずは付いてきて頂けますか」
彼だけがこの状況の意味が分かっているような表情をしており、門へ向かい歩き出す姿に三人は返答する間もなく彼の後を追うように門をくぐったのだった。
門をくぐり、いわゆる城下町と呼ばれる町に入った彩音はミズキの後を追いながら町中を見渡す。数多くの人が行き来し、小さな子どもから女の人まで色んな人の姿が見えた。笑う声、走る音、色んな音が聞こえてくる。
そのまま彼の後をついていけば、やがてこの国の象徴とも言えるであろう城が次第に近づき何の躊躇もなく門をくぐる彼に彩音は驚いた。
訳が分からないまま私達はミズキの後をついていた。
彼がなんの躊躇もなく敷地内に、城内に入っていったことに驚きを隠せない。しかし衛兵が来る様子もなく落ち着かない様子で辺りを見渡し、やがてとある間に辿り着くと彼は足を止めた。
「あの」
「すみません。あの場でお話するのは少し、まだベスの兵士が潜んでいないとも言い難く」
「それはそうなんだけど……」
と困惑のまま返し「あの……」と問いかけようとした時
「ミズキ様――――!」
遠くから男性の叫び声が聞こえ、どこからか初老の男性が現れた。兵の身につける鎧とは違う、武装のない男性はミズキの前で止まっては息を切らせながら
「ご無事だったとは……うっ、うぅぅ……!」
ミズキの姿を見るなり中年の男性は目尻に涙を浮かばせ嗚咽を繰り返す。「うぅぅ、わたくしは、わたくしは……!」と泣いてみせる中、彩音はこの状況が何なのか確かめなくてはならないとミズキに問いかけた。
「あの、ミズキ?」
「あ、申し訳ございません」
と状況に気づいたミズキは彩音達へ身体ごと向け
「貴方がたのおかげで、私は生きてこの町に戻って来られました。何と礼を申し上げればいいか」
「それは、気にしなくていいんだけど……。ミズキ『様』って……?」
「あぁ、それもそうですね。そのような不格好な姿で申し訳ありませんが、ここまで送り届けて下さった御三方には名乗らねばなりませんね」
とミズキは三人の姿へそれぞれ目を向けた後、一呼吸置いて
「今まで素性を明かせず失礼しました。私はこのリレミア王国の第一王子、ミズキ・リレミア・ヴィンヘルムと申します」
「…………」
ミズキが名乗り、正体を明かしたことによってその場が静まり返る中初老の男性が「ミズキ様、この方達は」と問い
「この方達が助けてくださったのです」
「そうでございましたか。申し訳ございません。あなた方にはなんとお礼を言ったらよいか」
「えっ、えぇえええ!?」
やがて、全てを察したギンが声を上げ「ミズキさん、この国の第一王子だったんですか!?」と彩音とシズクへ視線を向ける。そんな視線に気づいたシズクが答え
「確かに驚きましたが……」
「黙っていてすみません」
ギンは彩音の方へ視線を向けると、彼女も驚いている事自体は間違いなさそうでありながら、やがて「まあ……そんな感じはしてた」との発言に唖然とし
「一人称『私』の丁寧な口調、汚れていようとその姿は少なくとも平民ではなく貴族じゃないかとは思ってた。それなら何者かに狙われる事自体も説明はつくし」
「…………」
「だけど、まさかこの国の王子とまでは流石に思わなかった……」
「君じゃないか、他人に安易に身分を明かすなといつも言っているのは」
彩音とギンが困惑を口に出し合う中、ミズキは視線を感じていた初老の男性に向けて向かって告げる。それに男性は「ということは、この者達はミズキ様が王子である素性を知らないままここまで連れてこられた、ということですか……?」と投げかけ、ミズキは頷いてみせる。
「信じられません」
「確かに、少し前に行商隊からこの国の王子が行方不明だという噂は聞いたけど……」
「わたくし、ミズキ様の教育係を仰せつかっておりますレイムと申します」
やがて、初老の男性はそう彩音達に向け名乗ると
「この度は王子を助けていただき誠に感謝致します」
「一体何があったんですか」
「確か、あの鎧は隣国、べス王国の兵と言ってましたよね」
その問いにやがてレイムは答えた。
「ミズキ様を始め、我々リレミア王国はこのランドール大陸の国王が集まる国会議の為ベス王国にいました。その帰る途中、べス王国の兵に襲われたのです」
ベス兵から王子ミズキを守る途中、護衛部隊は全滅しレイムを庇うようにミズキは孤立しベス兵を引き付けた。そのおかげでレイムと残された近衛兵は無事城まで戻ることが出来たものの、ベス兵を引き付けたミズキの行方はそこで途切れたと話す。
そしてその続きを話すようにミズキが明かし
「レイムの話通り、ベス兵の狙いが私であることは明確でしたから、引き付けたまではいいのですが追い詰められてしまいまして」
「…………」
「後がなくなった私は一か八かをかけて川に飛び込んだ、というわけです」
「それで、流れついた所を俺たちが偶然見つけた……ということですか」
なぜベス兵はリレミア王子を襲ったのか。
そうギンが疑問を呟くと、ミズキと顔を見合せたレイムが口を開く。
「元よりベス王国は、ランドール大陸の多くを占める大国です。リレミア王国もまた元はベス王国の一部でした。しかし会議の帰りに奇襲を仕掛けてきたとなると、やはりあの噂は本当だったのやもしれません」
「噂?」
「レイムの話通り、元はここリレミア王国はベス王国の一部だったのです。しかし独立を機に条約を結び、それによってもう戦は起きないはずだった」
しかしその条約は破られ奇襲を受けた。
少し前より聞いていた『最近ベス王国が不穏な動きを見せている。独立国を再びベス王国として取り戻さんと戦争を企てているのではないか』という噂も踏まえ
「全てベス王国の計画ではないか、と考えられる」
「ベス王国が、かつての自領土を取り戻そうと王子の暗殺を企てた、ってことですか」
「戦争は、なんとしても避けなければならない」
「……彩音さん、もしこの話が本当なら大変なことでは?」
事の内容を知ったギンは彩音に問いかけ、それにシズクも同意を示すように口を開いた。
「私もギンと同じ意見です。暗殺が企てられていたのなら、王子か健在と知る以上間違いなくまた襲ってくると考えられます。それが国に広まれば、リレミア王国とベス王国の戦争は避けられないでしょう」
「国が戦争になれば、私達も狙われかねません。早々にこの大陸からの離脱を……」
「……仮に、そのべス王国の兵士とやらがここに襲撃してきた場合ここは勝てるの?」
「それは……わかりません」
不意に呟いた彩音の問いにミズキは答え、それに彩音は黙り込む。それにギンは疑念を感じ、やがてなんとなく、少女の考えている事が分かってしまった。
「彩音さん、まさか……」
「…………」
「忘れてはいませんよね? あの時の事を」
「忘れてなんかないさ」
そう彩音は答え、グッと手を握り込むと
「出来れば二度と見たくない。関わりたくもない。だけどここでミズキ達を見捨てることもしたくないんだ」
「…………」
「私達がここに来たのは、このタイミングでミズキに会ったのはただの偶然じゃなく何か意味があると思いたい。何よりも……ミズキが悪い人には見えないんだよ」
「…………」
「だから、手助けしたい。何も知らない私達に、何が出来るか分からないけど……」
「父……前国王が亡くなってから、条約を結んだはずの他国の動きが変わり中でもべス王国が一番に動き出しました」
「今は、ミズキ王子を先頭にこの国の治安は保たれています。が不安定となっているのも確かで、もし本当にベス王国が戦争やミズキ様暗殺を企てているのなら攻め込まれるのも時間の問題です」
「せめて各領地を治める領主や貴族と防衛対策を立てられればいいのだけど……」
ミズキの言葉が不意に止まり、疑問を持った彩音に対して察したレイムが眉を下げて口にする。
「リレミア王国は各領地を治めている領主や貴族がいます。しかし王子は戦いを望まない傾向の為、度々意見の合わない貴族と衝突が起きていまして」
「…………」
「戦争ともなれば、更にその対応について衝突が起きそうです」
「今、国内は不安定な状況です。もともと大きな国ではないため他国より戦力が小さいのもありますが」
元より好戦的な国家であるべス王国は、いずれ他の国も侵略しようと考えている可能性もありちょっとやそっとで収められるような問題などではないとミズキは嘆く。中には逆に不意をつき、べス王国を侵略してしまえば解決する、という者もいるようで
「ですが私はそのようなことはしたくありません。出来れば戦いも避けたい」
「現時点では、攻め込まれたときに国を守ることに精一杯で、国家戦力差では全面戦争ともなれば我が国に勝ち目はないでしょう」
やがて、レイムは三人に向け
「あの、御三方。助力していただけるのはとても助かるのですが、我々は貴方がたの事をよく知らないのです。ミズキ様を助けて頂いた中でこう申し上げるのも何ですが、貴方がたが敵でない証拠がない以上協力を頼むことは……」
「それは最もな意見ですが、敵でない証明など、どう話せばいいのです?」
レイムに向けたシズクの返答にレイムは黙り込み
「……御三方は、旅の者なのですよね?」
「そうですね」
「その、ご出身は?」
その問いに三人は目を丸くし、ギンとシズクが黙り込む中二人の空気を察した彩音が場を繋ぐように口を開いた。
「み、皆生まれも育ちもバラバラなんですよ。私は日本という……ここからすっごい遠い島国から来たんです。ギンもシズクも、私が旅をしてた時に会って……」
やがて、二人の様子を伺うように言葉を選んでは
「えっと、二人はその色々と事情があって……」
「話せないのなら、無理に話す必要もないでしょう」
とミズキが間に入った時、シズクが「シトラ大陸です」と口を開きその発言に彩音とギンが目を丸くするも、それを聞いたミズキは考え
「日本、シトラ大陸……どちらも聞いた事のない国だ」
「ここへ来たのは特別な理由はなく、ただ地図を広げた彩音さんが気まぐれで指さした場所がこの大陸だったのです」
立ち寄った村の人にこの王城と城下町は是非見るべきだと教えられたので、それを見て帰るつもりだったとギンは告げる。
「このランドール大陸はリレミアを含めべス王国、アルデバラン王国、クレモア王国計4つの国で成り立っており、その中ででもリレミアは一番新しい国なんです」
「だからこそ小さけれど活気があると」
「一度、互いに整理すべきです」
シズクの声にそれぞれは視線を向ける。
彩音側とリレミア王国側、彩音達を仲間として協力を仰いでいいものかどちらにとっても慎重な判断が必要だと時間を置くこととなり、答えが出るまで王城に留まることとなった。
「私にはわかりません」
そんな中、そんな呟いたシズクに「何が?」と彩音が問いかけると
「彼……この国の王子に対してそこまでする理由が。確かに出会った以上無関係とは言い難いでしょうが赤の他人ですよ。私からすると、これまでもですが貴方の行動は理解に苦しみます」
「…………」
「貴方が私達と違う感性の持ち主であることは充分理解しています。しかしこれは、これまでのように賊を相手にするのとはまた訳が違ってきます。だからこそこの話については慎重な判断が必要だと思うのです」
「理由を答えろと言われれば、正直、自分でもわかんない」
「……え?」
そんな彩音からの返答にシズクだけでなく、ギンも目を丸くすると
「俺達と違う貴方はミズキ王子を助けたい、という善意でのことだとばかり思ってたのですが」
「確かにミズキの事は助けたいって思う。けどそれが善意なのかどうかと聞かれると分からない。だけどミズキが危ない目に合わされようとしてるのなら、やっぱり助けたいって思うんだ」
「…………」
「ミズキ王子を狙ってきたベスという国は、このランドール大陸内でも好戦的な国で、この大陸の歴史内で起きた戦争のほとんどがベス絡み。そんなやり方に納得いかなかった一部の土地が独立したのがリレミア王国だそうです」
独立後も大陸全土を巻き込んでの戦争は無かったものの、リレミア以外の他国も多々べス王国からの攻撃を受けており、小さな争いは頻繁に起きそのほとんどがべス王国による領土拡大によるものだという。
翌日、再び三人はミズキとレイムの前にいた。
「私とレイムの意見としては、やはり命の恩人でもある三人にお力添え頂けると心強いという結論となり……。そちらの結論をお聞かせ頂けますか?」
「私達は……」
と答えを口にしようとした時、扉が開くと一人の兵士が慌ただしく飛び込んでくる。
「ミズキ様! リレミア領土内にべス王国の兵士がいるとの報告がありました!」
「なんだって!?」
「今のところ目撃近くの村に被害は受けていませんが、偵察部隊によると進路からしてリレミア城に近付いているとのことです! 偵察部隊より報告を受けた騎士団が警告に出ましたが……」
三十分の時が経ち、改めて報告が入るもそれは思わしくない方向へと向かっていた。これ以上城から兵を出す事は厳しいと悩ませるレイムに対してミズキは意を決し「やはり僕も出よう」と告げる。
その声にレイムは唖然とミズキへ顔を上げると
「僕が生きていることは、既に向こうの耳にも入っているだろう。だとすれば、町に不要な被害を起こさない為にも目的たる王族が出る必要がある」
「しかし、前王無き今ミズキ様まで失っては」
「最低限の兵は連れていく。それでも相手を考えると心もとないけれど」
「私達も行くよ」
ふと声がし振り返ると彩音達三人の姿があり、そんな三人の姿を見たミズキは「お願いします!」と意を決し、出せるギリギリの軍と彩音達と共に城から郊外へと向かった。
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セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
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ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
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妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
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妻から手紙が来た。
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「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
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