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第5章、惹かれた理由
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郊外に辿り着いた時、既にリレミア兵とベス兵による戦いは起きており目的地に着いたミズキは軍の指揮を執る騎士へ声を上げた。
「レプシス!」
その声に指揮を執っていた騎士の男性は視線を向け、ミズキの姿に気づくと駆け寄る姿に「ミズキ様、どうしてこのような場所へ!?」と驚きの声を上げる。しかしミズキの報告を受け現れたことを聞いては理解し
「このままでは町に被害が及びかねないと判断してね。この国の王族の者として、それだけは避けなければならない。状況を教えてくれ」
「……王国騎士団を中心に対処しておりましたが、如何せん数が多く、騎士団だけでは相手しきれないといった状況です」
「それならこれより僕と、少数ながら城より同行させた王国兵も戦列に加わる。何としても城下町に兵を入れさせてはいけない!」
「はっ!」
やがて、ギンやシズクの活躍もありミズキ達リレミア王国は敵兵を退けることに成功する。完全に退けたことを確認し警戒態勢を解くと
「申し訳ありません。本来王国騎士団が対処せねばならないことなのですが、力不足故に王子の手を煩わせてしまい」
「そんなこはない。よくやってくれた」
やがて、鎧に身を包んだ騎士の男性は「それで、そちらの者達は……」とミズキから三人へ目を向け、それに気づいたミズキは説明するように話す。
「ベス兵に追われていた私を助けて下さった旅の方なんだ。城への帰還まで護衛してくれた他にも今回の報告に対して協力を申し出てくれて」
そしてミズキは三人に向け「彼は、リレミア王宮騎士団現団長のレプシス将軍です」と紹介し、やがてミズキの発言にレプシスの表情は変わる。
「御三方には助けて頂いた恩だけでなく、このリレミア王国の抱える問題の協力を頼もうとしていたんだ。リレミア王国は、戦力は豊かではないから」
「な……お言葉ですが、どこの者か分からぬ旅の者に国の情勢に対する協力を仰ぐなど」
戦力に乏しいことが事実であれ、簡単に任せていいことではないと説得し
「べスのスパイである可能性さえないとは言いきれません。今一度お考え直し下さい」
「三人はこのランドール大陸の外から来た。スパイの可能性は極めて低いよ。それに、まだ答えは聞けていないからね」
王城に戻り、改めてミズキは三人に向けて問う。
その光景はレイムに加えてレプシスは厳しい様子で眺めており
「改めて、協力していただけるのかどうか、答えをお聞かせください」
「私達は……」
彩音はグッと手を握り、意を込めると顔を上げ
「戦いを起こさない為の協力をしたい。ミズキやこの国の人達を見て、そう思った」
「……! ありがとうございます!」
「レイム殿はよろしいのですか」
ミズキが表情を明るくさせる中、レプシスはミズキの傍にいたレイムに投げかけ
「傭兵でもない彼女らにこの国の片棒を担がせて良いのでしょうか」
「この者達がミズキ様を見つけ保護してくださっていなければ、ミズキ様の命は今頃どうなっていたか定かではありません。少なくともその点だけは、頼るに値しない理由として当てはまりません」
「…………」
「彼女らは僕を助けてくれた恩人だ」
付け加えるようにミズキもレプシスに告げ、それにシズクが口を開いた。
「私達は少し前までこの大陸のことを何一つ知りませんでした。各国の特徴、情勢、何なら国名まで。それらは保護したミズキ王子やレイムさんから聞き、知った私達にスパイなんて出来るとお思いでしょうか」
「…………」
「それに、ミズキ王子からの説明の通り私達は旅人、傭兵ですらありません。仮に貴方達を貶めた所で……その後の攻防において、地の利はどう転ぼうと貴方方にある。それでは不十分でしょうか」
「……分かった。ミズキ様のご判断に従おう」
そう言葉では告げど、そこに信頼や信用がないことはその場にいた三人は読み取れた。
正式にリレミア軍としてミズキに協力することとなった三人。彩音がミズキの案内で城内を回っている間、ギンとシズクはレプシスとレイムと同じ場にいた。
「御二方の実力は先の戦いで目にしましたが、あの子供は……」
「信用がない上でこう言うのも何ですが、あの方は戦力としては心もとない。いえ、数えられるものではないと捉えて頂きたいのです」
「何……?」
レプシスは疑うように二人へ目を向けると
「あの人は、変な人なんです。あの人の前でこんな話は出来ないのですが……全面的に戦に協力出来るのは、俺とシズクだけでしょう。あの人には、後方支援をお願いして欲しいのです」
「それはまたおかしなことを言う」
「あの人は、戦のない国の出なのです」
そんなギンの言葉に「戦のない国……?」とレプシスは表情を変えてみせる。それにギンも同じように
「なぜそんな方がこの協力を言い出したのかは定かではありませんが、あの人がそう判断した以上俺達は全力でリレミア王国に協力します。そこだけは違える事はないとお約束します」
「つまり、強さも実力もある御二方があの少女に付き従っているというのか」
何故そのようになったのか想像もつかんが、とレプシスが考えかけたところにギンが答える。
「あの人は、恩人ですから」
「恩人?」
「私達は、強いからあの人についているわけではありません」
ギンもシズクも決して幸福や裕福な人生を歩んできたとは言えず、生きる為に誰かから奪い、奪われなければ生きることさえままならなかったと話していき
「抗う事を許されなかった俺は必死に主から逃げました。やがて見つかり追い詰められ、死を覚悟した時あの人に助けられたのです」
「…………」
「あの時の俺は、人間が嫌いで現れたあの人のことを助けに来たと認識出来なかった。だから本当のことを言うならば、力がなくとも俺を助けようとした事に対して強いものに抗う強さに感心したのではなく」
見ず知らずの者を助ける為に、そんなことをした言動に呆気に取られたと告げた。
「俺がとうに失くした、人を思いやる心や助けたいという気概、それを人の死や痛いのが嫌いな人間がやるなんておかしくないですか。そんな矛盾した姿に何故かもう一度だけ、信じてもいいかもしれないと思わせた」
「だから自身の強さをあの少女の為に使う、と」
「確かに、僕の時もそうだったね。素性も知れないのに、困ってるってだけで」
「しかし、この際だからこそ言っておくべきだと思うが」
そうギンの視線はシズクに向けられ
「さっきも言った通り、俺が認めたのはあの人だけだ」
「はい、理解しています」
「…………」
「何か?」
「……随分とあっさりしてるなと思って」
共に行動を始めてから表情が表に出にくかったとはいえ、あまりに直球な物言いはどうかと一度は踏みとどまった。しかしあまりにも衝撃を受けた気配のない態度に、逆にギンが驚く事態になり
「何を。貴方がそうだというのはこの僅かな間でも理解していますし」
「…………」
「私も貴方も、彼女に救われた身であり、共に行き場もない身でもあります。だからまだ幼い子供の彼女の言葉に乗せられるがまま私達はついてきている」
「私も解放されるまで、多くの人を襲ってきました。あなたの後遺症となったその飛躍的身体能力もですが、獣の力を持つ私でさえ警戒せざるを得ない力を持っています」
「それぞれの事情の元彼女を慕ってはいるが、どこか複雑なようだな」
レプシスが口を挟み、それに二人の会話が止まると
「同じ志の元集ったわけではないが、国の騎士のように、二人がこの場にいるのは”恩人を守りたい"。今はそれでいいのではないか」
「え……?」
「同じ理由でいるのなら、争う理由はあるまい」
現に、二人の活躍による結果は大きいとレプシスは考えながら
「先の理由から、二人はそれなりに戦にも慣れている。ならばこれを機に学んでみてはどうか」
「学ぶ……?」
「何かを守るために必要なのは力だけではない。騎士ほど守ることに忠誠高い存在はいない」
これからリレミア軍として協力するのであれば、その見返りを用意するだけの理由にもなると告げるレプシスには何らかの考えがある、とその場にいた誰もが気づいていた。
「もふもふー」
べス王国の侵攻からリレミア王国を防衛する協力をすることになった三人は城に滞在することとなり、割り当てられた部屋にいた。そんな中、彩音はシズクに生えている翼を触っており
「あの、彩音さん。それ、楽しいですか」
万が一奇襲された場合、彩音一人ではどうにも出来ないとギンとシズクの判断によりシズクと彩音は同室となった。そんな昼にこんな状況となり、これ自体はこれまでも何度もあったことながら今回も困惑した様子でいる。
「楽しいというより幸せだよこれは。人間には再現不可能な幸福を秘めている」
「そこまで褒められたこと、ここ何十年もなかったですね」
「もふもふしてて温かいし、寝る時とかくるまったら温かそう。あったかくて空も飛べて、本当に羨ましいよ!」
「良い事ばかりでもないですけどね」
そんなシズクに彩音は手を離して「そうなの?」と問うと
「猛吹雪などで凍ってしまうと飛べなくなりますし、同じ理由で激しい雨では濡れて重くなるのであまり長く飛べません」
「確かに……」
「服も、翼を通す穴が必要で。人間の服から背中が開いているものを選んだり、穴を開けないといけないのです」
そんな会話の中、ふと「そう言えば」とシズクは話題を変え
「ここに来るまでに寄った村で泊まった時も、この翼を珍しがって村の子供達に囲まれましたね。彩音さんと同じように翼を触りたがり……」
その時もシズクは困惑していたようで
「あんなの初めてで、どうしたらいいのか分からずにいましたが、何もせずとも何故か嬉しそうだったのか不思議でした」
「まあ、人から翼が生えてたら気になるよね」
「村の子供達は、私が怖くなかったのでしょうか」
これまでこの翼とあの鴉の姿に怯えられてきたのに、と不思議がるシズクに
「何故こんなにも違うのでしょうか」
「世界って思ったより広いんだよね」
そう彩音の声にシズクが目を向けると
「外に出ると、自分の国の狭さとつまらなさに気付かされる。例えばシズクがいたあの国で半獣は恐ろしいものだって教えられてきて、そういうものだと思い込まされる」
「…………」
「悪意がなくとも、それが普通だと思ってしまうものなんだよ。けど村の子供達やこの国の人たちは、シズクの種族に関する知識が何も無い」
黙り込むシズクに語りかける声は続き
「つまり、シズクから聞いた事が全てになる」
「……人とろくに話したことの無い私が国情の手伝いだなんて、出来るでしょうか」
「シズクは強いから大丈夫! 悪意を持って接さず、必要な時に正しい形で力を発揮すればきっとシズクなら皆から認められる」
♦
数日後のこと。
彩音はギンを通してレプシスに呼び出され、その場にはミズキの姿もあった。そしてそこで彩音へギンから呼ばれた理由が説明されることとなる。
「レプシス将軍からの提案で、斥候部隊から教えを受けていたんです。その成果を確かめるのと、彩音さんの出来ることを知る為に模擬戦に参加して欲しいそうです」
「三人には対抗形式の模擬戦の中に参加してもらい、その成果を私が判断する」
あくまで模擬戦なので命の心配はないものの、万が一のことは有り得るし相手は訓練を受けた一国の兵。気を抜けるものでもないと三人はその場に立つ。
「彩音さんはあまり前に出ないようにお願いします」
ギンに対して頷き、合図と共に模擬戦が始まった。
それぞれの兵が一斉に駆け出し相手の部隊とぶつかる。兵と兵が競り合っていく中、そこから抜けた兵は彩音の方に向かっていった。
化身したシズクが空から急降下し、彩音に迫っていた兵の武器を掴んでは空中へ浮かせ足を止めるもののそれでも確実に、すり抜けてきた兵が彩音に差し迫っていった。
そしてその瞬間を待ち望むようにレプシスは見ていた。
「ファイア!」
ついに接触しようその時、彩音の手から炎の球が飛び出し一直線に飛んだ。兵士は避けるように後方へ飛び、そんな一連を見たレプシスは「あの少女は魔道士だったか」と理解する。
「しかしこの大陸に通ずる魔法は魔道士が書を唱えることで使えるもの。魔道書なく詠唱してみせるとは、流石外から来た旅人といったところか」
「シズクさんも不思議な力の持ち主ではありますが、特に彼女は摩訶不思議な魔法を使うんだよ」
そこにミズキが現れ
「僕が目にした中でも、あの防御魔法や姿を消す魔法は今まで見たこともない」
やがて、模擬戦は佳境に入り、確実に戦局は動いていた。多くの参加者達はギンが圧倒的強さを持つことに気づいており、シズクも空からの奇襲から武器を奪われることと攻撃しよいにも空中に逃げられてしまうことから相手にするには分が悪いと気づかれていた。
そんな相手側の小隊長は魔法使いである彩音に目を留める。そしてニヤリと笑みを浮かべると
「あの少女を狙え!」
「!」
小隊長の指示から間もなく、空中にいたシズクは兵の動きが変わったことに気づき、その先に彩音がいることから狙いに気づく。すぐに対処しようとすれど、魔道士の攻撃に近づけず
「魔道士の狙いを私に絞らせることで、近づけさせないようにしている。流石にこれだけ派手に暴れれば、三人の中で誰が強く誰が弱いのか分かってしまいますか」
(しかし……)
これが訓練であることを除いても、シズクに焦りはない。
敵将の小隊長や兵たちは右からギンが短剣を持って駆け出したことに気づき、兵士たちは対抗する為ギンの方へ視線を向ける。しかし捉える頃にはその場に姿はなく
「目が追いきれない。速すぎる……!」
更に彩音側でも、距離をとるよう走っていた彩音は足でブレーキをかけ砂埃が舞う中足を止めると魔法で反撃に出る。それは雷魔法、サンダー。
「雷魔法まで使えるのか……!」
「っまて、あの子、どこに消えた?」
雷魔法を避けた兵士の一人が彩音の姿を見失ったことに気づき声を上げた直後、身体に衝撃が走りやがて静かに倒れ込んだ。それに他の兵達も唖然とするも、彼らも順に膝をついていった。
模擬戦が終わり、彩音達の元にミズキとレプシスが現れる。
「見事な模擬戦でした。ギンさんやシズクさんは変わらずながら、何より」
「剣を持っていたとは」
そうミズキの横でレプシスの声が入り、それに彩音は苦笑いしながら「一応模擬戦用の剣を借りておいたんです」と答える。
「魔法を使えても、攻撃を受け止めるのはこっちのほうが都合がいいので護身用みたいなものです」
「剣が使えたのなら、始めから彼らと共に戦えば良かっただろう。わざわざバラバラにならなくとも。現にそれに気づいた相手の部隊はお前に狙いを切り替えていた」
「あはは、使えるといっても素人に毛も生えてないくらいの感じでして。これは訓練用なので若干軽くてまだ持てますけど、実戦用の剣は重くて長い時間持ってられないんですよね」
「だから攻撃ではなく、あくまで防御の為に剣を持っていたと」
やがて、一通りの模擬戦を振り返ったレプシスは「思ったよりは健闘していた」と告げながらも
「しかし、二人と比べるとやはり劣る」
「うっ」
「生半可な強さではかえって足を引っ張るだけとなる」
「だけどレプシス。彼女の魔法は目を張るものがあっただろう?」
「……確かに、初めて目にする魔法でした」
一瞬で姿を消し別の場に現れたり、魔道書なしで魔法を使ったり
「他にも僕達の為になる魔法もある。ですよね、彩音様」
「レプシス!」
その声に指揮を執っていた騎士の男性は視線を向け、ミズキの姿に気づくと駆け寄る姿に「ミズキ様、どうしてこのような場所へ!?」と驚きの声を上げる。しかしミズキの報告を受け現れたことを聞いては理解し
「このままでは町に被害が及びかねないと判断してね。この国の王族の者として、それだけは避けなければならない。状況を教えてくれ」
「……王国騎士団を中心に対処しておりましたが、如何せん数が多く、騎士団だけでは相手しきれないといった状況です」
「それならこれより僕と、少数ながら城より同行させた王国兵も戦列に加わる。何としても城下町に兵を入れさせてはいけない!」
「はっ!」
やがて、ギンやシズクの活躍もありミズキ達リレミア王国は敵兵を退けることに成功する。完全に退けたことを確認し警戒態勢を解くと
「申し訳ありません。本来王国騎士団が対処せねばならないことなのですが、力不足故に王子の手を煩わせてしまい」
「そんなこはない。よくやってくれた」
やがて、鎧に身を包んだ騎士の男性は「それで、そちらの者達は……」とミズキから三人へ目を向け、それに気づいたミズキは説明するように話す。
「ベス兵に追われていた私を助けて下さった旅の方なんだ。城への帰還まで護衛してくれた他にも今回の報告に対して協力を申し出てくれて」
そしてミズキは三人に向け「彼は、リレミア王宮騎士団現団長のレプシス将軍です」と紹介し、やがてミズキの発言にレプシスの表情は変わる。
「御三方には助けて頂いた恩だけでなく、このリレミア王国の抱える問題の協力を頼もうとしていたんだ。リレミア王国は、戦力は豊かではないから」
「な……お言葉ですが、どこの者か分からぬ旅の者に国の情勢に対する協力を仰ぐなど」
戦力に乏しいことが事実であれ、簡単に任せていいことではないと説得し
「べスのスパイである可能性さえないとは言いきれません。今一度お考え直し下さい」
「三人はこのランドール大陸の外から来た。スパイの可能性は極めて低いよ。それに、まだ答えは聞けていないからね」
王城に戻り、改めてミズキは三人に向けて問う。
その光景はレイムに加えてレプシスは厳しい様子で眺めており
「改めて、協力していただけるのかどうか、答えをお聞かせください」
「私達は……」
彩音はグッと手を握り、意を込めると顔を上げ
「戦いを起こさない為の協力をしたい。ミズキやこの国の人達を見て、そう思った」
「……! ありがとうございます!」
「レイム殿はよろしいのですか」
ミズキが表情を明るくさせる中、レプシスはミズキの傍にいたレイムに投げかけ
「傭兵でもない彼女らにこの国の片棒を担がせて良いのでしょうか」
「この者達がミズキ様を見つけ保護してくださっていなければ、ミズキ様の命は今頃どうなっていたか定かではありません。少なくともその点だけは、頼るに値しない理由として当てはまりません」
「…………」
「彼女らは僕を助けてくれた恩人だ」
付け加えるようにミズキもレプシスに告げ、それにシズクが口を開いた。
「私達は少し前までこの大陸のことを何一つ知りませんでした。各国の特徴、情勢、何なら国名まで。それらは保護したミズキ王子やレイムさんから聞き、知った私達にスパイなんて出来るとお思いでしょうか」
「…………」
「それに、ミズキ王子からの説明の通り私達は旅人、傭兵ですらありません。仮に貴方達を貶めた所で……その後の攻防において、地の利はどう転ぼうと貴方方にある。それでは不十分でしょうか」
「……分かった。ミズキ様のご判断に従おう」
そう言葉では告げど、そこに信頼や信用がないことはその場にいた三人は読み取れた。
正式にリレミア軍としてミズキに協力することとなった三人。彩音がミズキの案内で城内を回っている間、ギンとシズクはレプシスとレイムと同じ場にいた。
「御二方の実力は先の戦いで目にしましたが、あの子供は……」
「信用がない上でこう言うのも何ですが、あの方は戦力としては心もとない。いえ、数えられるものではないと捉えて頂きたいのです」
「何……?」
レプシスは疑うように二人へ目を向けると
「あの人は、変な人なんです。あの人の前でこんな話は出来ないのですが……全面的に戦に協力出来るのは、俺とシズクだけでしょう。あの人には、後方支援をお願いして欲しいのです」
「それはまたおかしなことを言う」
「あの人は、戦のない国の出なのです」
そんなギンの言葉に「戦のない国……?」とレプシスは表情を変えてみせる。それにギンも同じように
「なぜそんな方がこの協力を言い出したのかは定かではありませんが、あの人がそう判断した以上俺達は全力でリレミア王国に協力します。そこだけは違える事はないとお約束します」
「つまり、強さも実力もある御二方があの少女に付き従っているというのか」
何故そのようになったのか想像もつかんが、とレプシスが考えかけたところにギンが答える。
「あの人は、恩人ですから」
「恩人?」
「私達は、強いからあの人についているわけではありません」
ギンもシズクも決して幸福や裕福な人生を歩んできたとは言えず、生きる為に誰かから奪い、奪われなければ生きることさえままならなかったと話していき
「抗う事を許されなかった俺は必死に主から逃げました。やがて見つかり追い詰められ、死を覚悟した時あの人に助けられたのです」
「…………」
「あの時の俺は、人間が嫌いで現れたあの人のことを助けに来たと認識出来なかった。だから本当のことを言うならば、力がなくとも俺を助けようとした事に対して強いものに抗う強さに感心したのではなく」
見ず知らずの者を助ける為に、そんなことをした言動に呆気に取られたと告げた。
「俺がとうに失くした、人を思いやる心や助けたいという気概、それを人の死や痛いのが嫌いな人間がやるなんておかしくないですか。そんな矛盾した姿に何故かもう一度だけ、信じてもいいかもしれないと思わせた」
「だから自身の強さをあの少女の為に使う、と」
「確かに、僕の時もそうだったね。素性も知れないのに、困ってるってだけで」
「しかし、この際だからこそ言っておくべきだと思うが」
そうギンの視線はシズクに向けられ
「さっきも言った通り、俺が認めたのはあの人だけだ」
「はい、理解しています」
「…………」
「何か?」
「……随分とあっさりしてるなと思って」
共に行動を始めてから表情が表に出にくかったとはいえ、あまりに直球な物言いはどうかと一度は踏みとどまった。しかしあまりにも衝撃を受けた気配のない態度に、逆にギンが驚く事態になり
「何を。貴方がそうだというのはこの僅かな間でも理解していますし」
「…………」
「私も貴方も、彼女に救われた身であり、共に行き場もない身でもあります。だからまだ幼い子供の彼女の言葉に乗せられるがまま私達はついてきている」
「私も解放されるまで、多くの人を襲ってきました。あなたの後遺症となったその飛躍的身体能力もですが、獣の力を持つ私でさえ警戒せざるを得ない力を持っています」
「それぞれの事情の元彼女を慕ってはいるが、どこか複雑なようだな」
レプシスが口を挟み、それに二人の会話が止まると
「同じ志の元集ったわけではないが、国の騎士のように、二人がこの場にいるのは”恩人を守りたい"。今はそれでいいのではないか」
「え……?」
「同じ理由でいるのなら、争う理由はあるまい」
現に、二人の活躍による結果は大きいとレプシスは考えながら
「先の理由から、二人はそれなりに戦にも慣れている。ならばこれを機に学んでみてはどうか」
「学ぶ……?」
「何かを守るために必要なのは力だけではない。騎士ほど守ることに忠誠高い存在はいない」
これからリレミア軍として協力するのであれば、その見返りを用意するだけの理由にもなると告げるレプシスには何らかの考えがある、とその場にいた誰もが気づいていた。
「もふもふー」
べス王国の侵攻からリレミア王国を防衛する協力をすることになった三人は城に滞在することとなり、割り当てられた部屋にいた。そんな中、彩音はシズクに生えている翼を触っており
「あの、彩音さん。それ、楽しいですか」
万が一奇襲された場合、彩音一人ではどうにも出来ないとギンとシズクの判断によりシズクと彩音は同室となった。そんな昼にこんな状況となり、これ自体はこれまでも何度もあったことながら今回も困惑した様子でいる。
「楽しいというより幸せだよこれは。人間には再現不可能な幸福を秘めている」
「そこまで褒められたこと、ここ何十年もなかったですね」
「もふもふしてて温かいし、寝る時とかくるまったら温かそう。あったかくて空も飛べて、本当に羨ましいよ!」
「良い事ばかりでもないですけどね」
そんなシズクに彩音は手を離して「そうなの?」と問うと
「猛吹雪などで凍ってしまうと飛べなくなりますし、同じ理由で激しい雨では濡れて重くなるのであまり長く飛べません」
「確かに……」
「服も、翼を通す穴が必要で。人間の服から背中が開いているものを選んだり、穴を開けないといけないのです」
そんな会話の中、ふと「そう言えば」とシズクは話題を変え
「ここに来るまでに寄った村で泊まった時も、この翼を珍しがって村の子供達に囲まれましたね。彩音さんと同じように翼を触りたがり……」
その時もシズクは困惑していたようで
「あんなの初めてで、どうしたらいいのか分からずにいましたが、何もせずとも何故か嬉しそうだったのか不思議でした」
「まあ、人から翼が生えてたら気になるよね」
「村の子供達は、私が怖くなかったのでしょうか」
これまでこの翼とあの鴉の姿に怯えられてきたのに、と不思議がるシズクに
「何故こんなにも違うのでしょうか」
「世界って思ったより広いんだよね」
そう彩音の声にシズクが目を向けると
「外に出ると、自分の国の狭さとつまらなさに気付かされる。例えばシズクがいたあの国で半獣は恐ろしいものだって教えられてきて、そういうものだと思い込まされる」
「…………」
「悪意がなくとも、それが普通だと思ってしまうものなんだよ。けど村の子供達やこの国の人たちは、シズクの種族に関する知識が何も無い」
黙り込むシズクに語りかける声は続き
「つまり、シズクから聞いた事が全てになる」
「……人とろくに話したことの無い私が国情の手伝いだなんて、出来るでしょうか」
「シズクは強いから大丈夫! 悪意を持って接さず、必要な時に正しい形で力を発揮すればきっとシズクなら皆から認められる」
♦
数日後のこと。
彩音はギンを通してレプシスに呼び出され、その場にはミズキの姿もあった。そしてそこで彩音へギンから呼ばれた理由が説明されることとなる。
「レプシス将軍からの提案で、斥候部隊から教えを受けていたんです。その成果を確かめるのと、彩音さんの出来ることを知る為に模擬戦に参加して欲しいそうです」
「三人には対抗形式の模擬戦の中に参加してもらい、その成果を私が判断する」
あくまで模擬戦なので命の心配はないものの、万が一のことは有り得るし相手は訓練を受けた一国の兵。気を抜けるものでもないと三人はその場に立つ。
「彩音さんはあまり前に出ないようにお願いします」
ギンに対して頷き、合図と共に模擬戦が始まった。
それぞれの兵が一斉に駆け出し相手の部隊とぶつかる。兵と兵が競り合っていく中、そこから抜けた兵は彩音の方に向かっていった。
化身したシズクが空から急降下し、彩音に迫っていた兵の武器を掴んでは空中へ浮かせ足を止めるもののそれでも確実に、すり抜けてきた兵が彩音に差し迫っていった。
そしてその瞬間を待ち望むようにレプシスは見ていた。
「ファイア!」
ついに接触しようその時、彩音の手から炎の球が飛び出し一直線に飛んだ。兵士は避けるように後方へ飛び、そんな一連を見たレプシスは「あの少女は魔道士だったか」と理解する。
「しかしこの大陸に通ずる魔法は魔道士が書を唱えることで使えるもの。魔道書なく詠唱してみせるとは、流石外から来た旅人といったところか」
「シズクさんも不思議な力の持ち主ではありますが、特に彼女は摩訶不思議な魔法を使うんだよ」
そこにミズキが現れ
「僕が目にした中でも、あの防御魔法や姿を消す魔法は今まで見たこともない」
やがて、模擬戦は佳境に入り、確実に戦局は動いていた。多くの参加者達はギンが圧倒的強さを持つことに気づいており、シズクも空からの奇襲から武器を奪われることと攻撃しよいにも空中に逃げられてしまうことから相手にするには分が悪いと気づかれていた。
そんな相手側の小隊長は魔法使いである彩音に目を留める。そしてニヤリと笑みを浮かべると
「あの少女を狙え!」
「!」
小隊長の指示から間もなく、空中にいたシズクは兵の動きが変わったことに気づき、その先に彩音がいることから狙いに気づく。すぐに対処しようとすれど、魔道士の攻撃に近づけず
「魔道士の狙いを私に絞らせることで、近づけさせないようにしている。流石にこれだけ派手に暴れれば、三人の中で誰が強く誰が弱いのか分かってしまいますか」
(しかし……)
これが訓練であることを除いても、シズクに焦りはない。
敵将の小隊長や兵たちは右からギンが短剣を持って駆け出したことに気づき、兵士たちは対抗する為ギンの方へ視線を向ける。しかし捉える頃にはその場に姿はなく
「目が追いきれない。速すぎる……!」
更に彩音側でも、距離をとるよう走っていた彩音は足でブレーキをかけ砂埃が舞う中足を止めると魔法で反撃に出る。それは雷魔法、サンダー。
「雷魔法まで使えるのか……!」
「っまて、あの子、どこに消えた?」
雷魔法を避けた兵士の一人が彩音の姿を見失ったことに気づき声を上げた直後、身体に衝撃が走りやがて静かに倒れ込んだ。それに他の兵達も唖然とするも、彼らも順に膝をついていった。
模擬戦が終わり、彩音達の元にミズキとレプシスが現れる。
「見事な模擬戦でした。ギンさんやシズクさんは変わらずながら、何より」
「剣を持っていたとは」
そうミズキの横でレプシスの声が入り、それに彩音は苦笑いしながら「一応模擬戦用の剣を借りておいたんです」と答える。
「魔法を使えても、攻撃を受け止めるのはこっちのほうが都合がいいので護身用みたいなものです」
「剣が使えたのなら、始めから彼らと共に戦えば良かっただろう。わざわざバラバラにならなくとも。現にそれに気づいた相手の部隊はお前に狙いを切り替えていた」
「あはは、使えるといっても素人に毛も生えてないくらいの感じでして。これは訓練用なので若干軽くてまだ持てますけど、実戦用の剣は重くて長い時間持ってられないんですよね」
「だから攻撃ではなく、あくまで防御の為に剣を持っていたと」
やがて、一通りの模擬戦を振り返ったレプシスは「思ったよりは健闘していた」と告げながらも
「しかし、二人と比べるとやはり劣る」
「うっ」
「生半可な強さではかえって足を引っ張るだけとなる」
「だけどレプシス。彼女の魔法は目を張るものがあっただろう?」
「……確かに、初めて目にする魔法でした」
一瞬で姿を消し別の場に現れたり、魔道書なしで魔法を使ったり
「他にも僕達の為になる魔法もある。ですよね、彩音様」
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「渡されなかった約束」のための手紙だった。
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