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23.関係性の表現
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「……ヘリクス、俺とラナシア嬢は別にそういった関係ではない」
数秒の沈黙の後、ジオルト様がヘリクス君の質問に答えてくれた。
彼は少々、ばつが悪そうな表情をしている。それはあまり見たことがない表情だ。
「彼女とは単純な友人関係――というには、少々事情が入り組んでいるな。ヘリクス、君は先の王家での事件を知っているか? いや、知らない訳もないか」
「……ああ、そうでした。ラナシア様という名前は、どこかで聞いたことがあったと思っていました。先の事件で聞いていたのでしたね」
ジオルト様の言葉に、ヘリクス君は目を丸くしていた。
それは私が王家との一件に関わっていたという事実に驚いているから、ということなのだろう。
ただ、流石にわかった。その驚き方は演技だ。ヘリクス君は、どうやら私のことを知っていたらしい。
それでも知らない振りをしているのは、気遣いということだろう。
悪戯に先の件のことを聞いたりするのは、失礼だとヘリクス君は思っているのかもしれない。
それはなんとも立派で、紳士的な振る舞いだった。そこらの貴族達よりも、彼はずっと大人だといえる。
「俺と彼女は、その事件をきっかけに知り合った。そして利害の一致故にともに戦った仲だ。いわば戦友とでもいえるだろうか」
「戦友、ですか……」
「……ラナシア嬢、何か不満かね?」
ジオルト様の表現を、私は思わず反芻していた。
それを指摘されて、少し焦ってしまう。別にジオルト様の発言を止める意図などはなかったのだが。
しかし彼に気付かれた以上、答えるしかない。戦友という表現は、私からしてみれば少々不服なのだ。
「あまり穏やかなものではないと思いまして。そもそも私は、ジオルト様と並び立っていたとも思っていません。あの件において、私は助けられた立場です。ジオルト様には色々と尽力していただきましたから」
「あの件はあくまで、あなたが主導で行ったことだと俺は認識している。つまり俺の立場は補助的なものだったということだ。あなたなくして、あのようなことはできなかっただろう。そういう意味では確かに、戦友というのは正しくないのかもしれないな」
私が戦友という表現を嫌ったのは、実の所もう少し複雑な心境が理由だった。
ただ結局の所、今の私達の関係性は友人などそういったものだ。その事実は変わることがない。
それが少しだけ、物悲しかった。仕方ないこととはいえ、私としては少々腑に落ちないのだ。
「……よくわかりませんが、お二人は仲がよろしいのですね」
少し言い合っていた私達に対して、ヘリクス君は笑顔で言葉を発した。
本当に、彼は大人であった。つまらないことで意地を張ってしまっていた自分が恥ずかしくなる程に。
ジオルト様も、また少しばつが悪そうだ。彼の方も自分の発言などを恥じているのかもしれない。
数秒の沈黙の後、ジオルト様がヘリクス君の質問に答えてくれた。
彼は少々、ばつが悪そうな表情をしている。それはあまり見たことがない表情だ。
「彼女とは単純な友人関係――というには、少々事情が入り組んでいるな。ヘリクス、君は先の王家での事件を知っているか? いや、知らない訳もないか」
「……ああ、そうでした。ラナシア様という名前は、どこかで聞いたことがあったと思っていました。先の事件で聞いていたのでしたね」
ジオルト様の言葉に、ヘリクス君は目を丸くしていた。
それは私が王家との一件に関わっていたという事実に驚いているから、ということなのだろう。
ただ、流石にわかった。その驚き方は演技だ。ヘリクス君は、どうやら私のことを知っていたらしい。
それでも知らない振りをしているのは、気遣いということだろう。
悪戯に先の件のことを聞いたりするのは、失礼だとヘリクス君は思っているのかもしれない。
それはなんとも立派で、紳士的な振る舞いだった。そこらの貴族達よりも、彼はずっと大人だといえる。
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「戦友、ですか……」
「……ラナシア嬢、何か不満かね?」
ジオルト様の表現を、私は思わず反芻していた。
それを指摘されて、少し焦ってしまう。別にジオルト様の発言を止める意図などはなかったのだが。
しかし彼に気付かれた以上、答えるしかない。戦友という表現は、私からしてみれば少々不服なのだ。
「あまり穏やかなものではないと思いまして。そもそも私は、ジオルト様と並び立っていたとも思っていません。あの件において、私は助けられた立場です。ジオルト様には色々と尽力していただきましたから」
「あの件はあくまで、あなたが主導で行ったことだと俺は認識している。つまり俺の立場は補助的なものだったということだ。あなたなくして、あのようなことはできなかっただろう。そういう意味では確かに、戦友というのは正しくないのかもしれないな」
私が戦友という表現を嫌ったのは、実の所もう少し複雑な心境が理由だった。
ただ結局の所、今の私達の関係性は友人などそういったものだ。その事実は変わることがない。
それが少しだけ、物悲しかった。仕方ないこととはいえ、私としては少々腑に落ちないのだ。
「……よくわかりませんが、お二人は仲がよろしいのですね」
少し言い合っていた私達に対して、ヘリクス君は笑顔で言葉を発した。
本当に、彼は大人であった。つまらないことで意地を張ってしまっていた自分が恥ずかしくなる程に。
ジオルト様も、また少しばつが悪そうだ。彼の方も自分の発言などを恥じているのかもしれない。
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