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7.かつての王は

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「なるほど、あなたは実家ではかなり苦しい立場にあったということか……」
「まあ、そういうことになりますね……」

 私は、ロナード様にカルランド公爵家での扱いについて話した。
 冷遇されていた私の境遇に、彼は同情してくれているようだ。
 恐らく、彼にも色々とあったはずである。私の扱いなどにも、何か思う所があるのかもしれない。

「……さて、それじゃあ、次は俺の話だな」
「はい、聞かせてください」
「そうだな……まずは、先代の王の話からするとしようか」
「先代の王、ですか?」

 ロナード様の言葉に、私は驚いた。まさか、話がそこから始まるとは思っていなかったからである。
 先代の王のことは、知らない訳ではない。賢王といわれるレオルード様程ではないが、別に評判が悪いような王様でもなかったはずだ。

「父上の代は、王位を巡ってそれなりに血みどろの争いがあったらしい。三兄弟だったらしいんだが、父上は兄と弟をそれぞれ追い詰めて王位を勝ち取ったそうだ」
「そうだったんですね……」
「まあ、この辺りは都合がいいように書き換えられているからな。兄の方は病死、弟の方は事故死となっている。ただ、そんな都合のいいことがある訳がないと思っている奴も多いだろうけどな」
「そうですか……」

 ロナード様がさらりと放った王家の秘密に、私はかなり驚いていた。
 なんというか、とても怖くて悲しい話である。兄弟同士で王位を争うなんて、どうしてそんなことをしてしまったのだろうか。
 そう考えた直後、私は自分のことを思い出した。私とホルルナも仲は悪い。一歩間違っていれば血みどろの争いが起こった可能性もある。いや、これからもないとは言い切れない。

「父上から、俺達はそのような話を聞いていた。俺と兄貴の仲は良かった。だけど、別に俺達の仲が良いからといって、争いが起こらないとも限らないだろう?」
「それは……」
「誰かが俺達を擁立して対立を始めるかもしれない。そういう火種がつくのは厄介だ。俺も兄貴も争いなんてものは好きではない。だから、俺は絶対に何も起こらないようにしようと思ったのさ」
「何も起こらないように、ですか?」
「俺が無能でだらしない弟であったら、誰も俺の側につかないだろう? 争いなんて起こるはずはない。兄貴の元に、全ての権力が集中する」

 私の目をしっかりと見ながら、ロナード様はそう言ってきた。
 やはり、彼はだらしない無能ではなかったらしい。ロナード様は、道化を演じていたのである。平和な未来のために。
 様々な人物から罵倒されることを覚悟で、彼はその道を選んだ。それは、とても立派なことであると思える。
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