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35.愚かなる選択

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「ホルルナ嬢、結局の所、あなたの望みは何なんだ?」
「当然、お姉様が王妃の座を退くことです」
「それだけか?」
「……何が言いたいのですか?」

 ロナード様は、ホルルナを見ながら笑う。その笑みは、お世辞にもいい笑顔ではない。悪いことを考えている人間の顔だ。

「あなたは、フェルリナに手紙を出しただろう?」
「……まさか」
「その手紙の内容を俺は彼女から教えてもらった。なんでも王妃になりたいそうじゃないか? それがあなたの本当の望みなんだろう?」
「……っ」

 ロナード様の言葉に、ホルルナの視線がこちらに向いた。
 彼女は、私のことを睨みつけてくる。敵意しかないその視線から、私は目をそらさない。

「迂闊だったな。わざわざそんなわかりやすい手紙を出すなんて、愚かとしか言いようがない。妻の手紙が夫の耳に入らないとでも思っていたのか?」
「くっ……」

 私に出した手紙が、ロナード様にも読まれる。その可能性は、簡単に考慮できたはずだ。それを考えなかったホルルナは浅はかだといえる。
 もっとも、彼女の中には私が逆らうという考えがまずなかったのだろう。公爵家において、私は彼女に従順だった。そうならざるを得なかったというだけなのだが、ホルルナはそれを理解していなかったのだろう。

「嫌われ者の王弟殿下にはお姉様がお似合いじゃなかったのか? はっ、俺が王になったから手の平を返すなんて、随分と都合がいいじゃないか?」
「そこまで話したのですか?」
「おいおい、あなたの話しているのは俺なんだ。勝手に矛先を変えるんじゃない」

 分が悪いと感じたのか、ホルルナは私を責めてきた。
 国王であるロナード様には取り入りたいという気持ちがあるため、刃を向けられない。だから、攻撃しやすい私を標的にしているのだろう。
 だが、ロナード様はそれを許さない。ホルルナを強制的に自分と対峙させようとしている。

「まあ、あなたは今まで随分と自分勝手に生きてきたようだが、そろそろ年貢の納め時という奴さ。この辺りで一度自分を顧みた方がいい」
「……何が仰りたいのですか?」
「引き際を弁えた方がいいと言っているのさ。そうした方があなたの身の為だ。こっちには強力な手札がある。それは使わせないでくれ」
「……これ程までに、私を侮辱したお姉様を許すつもりはありません」
「……そうかい」

 ホルルナの言葉に、ロナード様はため息をついた。
 どうやら、彼の持っている手札は本当に使うのを躊躇うようなものであるようだ。
 それに関しては、私も聞かされていなかった。一体、彼は何を持っているのだろうか。
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