妹が私に言う「悪役令嬢」がなんのことだかさっぱりわかりません。

木山楽斗

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1.目覚めた妹

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 妹のメルティアが階段から転げ落ちたと聞いた時は、肝が冷えた。
 その時点で、大事である訳だが、詳しく話を聞いた私はさらに気落ちすることになった。メルティアが頭を打って意識を失っていたからだ。

「悪役令嬢、ミレティア……」
「……うん?」

 そんなメルティアが無事に目覚めてから、一日が経った。
 念のため安静にしていた彼女も、今日から普通の生活を再開する。それを聞いた私は、妹の元を訪ねた。

 お医者様の見立てにより、特に問題がある訳ではないということはわかっている。
 ただ、記憶に幾分かの混乱があるとのことだった。そういうことで心配だったのだが、私の顔と名前は一致しているなら、問題ないように思える。
 しかし、私は彼女が発したもう一つの単語が気になっていた。今彼女は、「悪役令嬢」と言ったはずである。それは一体、何なのだろうか。

「メルティア、悪役令嬢とは何かしら?」
「え?」
「いえ、今あなたは確かに悪役令嬢と言ったわよね。それは何なのかしら?」
「あ、えっと、その……」

 私の質問に対して、メルティアは言葉を詰まらせていた。
 私は何か、答えにくいことを言ってしまったのだろうか。そうだとしたら、悪いことをしてしまった。メルティアは病み上がりなのだから、あまり難しいことはさせたくない。

「ごめんなさい。言いたくないことなら別にいいのよ。深堀しようとは思わないわ。若い子というものは、独特な言葉を使うわよね。その一環かしら」
「え? いや、私と――お、お姉様は一つしか違わないのでは?」

 メルティアは、私との年齢差についても正しく認識していた。
 やはり、記憶の混乱については問題ないといえるのだろうか。その辺りについては、一度確認しておいた方が良いかもしれない。

「それであなたは、もう大丈夫なのかしら?」
「あ、その、一応動けはします」
「痛みはまだあるのかしら?」
「えっと、少しは……」

 メルティアは、少しぎこちない態度だった。
 以前までの彼女からは感じられなかった緊張感というものがある。
 その微妙な態度を見てしまうと、記憶の混乱が結構深刻なものだと思ってしまう。まさか、私との思い出などを忘れてしまったのだろうか。

 そうだとしたら、辛いものである。妹の中から私が消えてしまったなんて、思いたくはない。
 しかし、これは仕方ないことでもある。メルティアだって、望んでこうなった訳でもない。私は現実を受け止めるしかないのだろう。

 物事というものは、前向きに考えるべきだ。後ろ向きに考えると、気分まで落ち込んでしまう。
 忘れてしまったというなら、思い出してもらえば良い。思い出してもらえないなら、新しい思い出を作っていけば良い。そう考えるべきだろう。
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