怠惰な聖女の代わりに業務を担っていた私は、たまの気まぐれで働いた聖女の失敗を押し付けられて追放されました。

木山楽斗

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 私は、リルガー様とラルーグ様と話していた。
 なんでも、リルガー様はこの国で最も強い男らしい。あまり想像できないが、とても強いようである。

「ところで、兄上、どうしてこんな所に?」
「ああ、そちらのイルアナさんを探していたのです」
「え? 私ですか?」
「ええ、あなたです」

 ラルーグ様は、私のことを探していたらしい。
 もしかして、何か情報を求めているのだろうか。もうすぐ、レパイア王国との戦いが始まる。その前に、内部の情報を求めることは不思議なことではない。

「あなたには、私とともに作戦会議に参加していただきたいのです」
「作戦会議ですか?」
「ええ、レパイア王国の内部の情報をそこで色々と教えていただけますか?」
「ええ、それは構いませんよ」

 ラルーグ様は、私が予想した通りのことを言ってきた。
 それなら、別に構わない。私はもう、自らの情報を渡すことに躊躇いはないため、いくらでも話すとしよう。

「それにしても、ラルーグ様が自ら私を探すなんて、どうしたのですか? 使用人に頼めばよかったのではないでしょうか?」
「確かに、兄上がわざわざ城内をうろつくのは不思議ですね。いつもは、動くのが面倒だと言いそうなのに……」
「え? いやあ、気まぐれですよ」

 そこで、私とリルガー様は疑問を覚えた。
 わざわざ第一王子が、私を探しに来たのは少し不自然である。
 笑って誤魔化されたが、何か意図があるはずだ。しかし、考えてもあまりわからない。どんな理由でも、彼が動く意味があるとは思えないのだ。

「さて、リルガー。私は、彼女とともに行きます。どうか、ご武運を」
「ええ、必ずエルグレンド王国を勝利に導きます」

 ラルーグ様は、リルガー様に激励の言葉をかけた。
 その表情を見て、私はあることを理解した。彼がここに来た意図が、わかったのである。

 恐らく、彼は弟の顔を見に来たのだ。口では色々と言っていたが、実は弟が心配だったのだろう。
 それが表情からわかる程、ラルーグ様は穏やかな顔をしている。飄々としていた王子が見せた確かな感情は、弟への思いだったのだ。

「ふふ……」
「どうかしましたか?」
「いえ……リルガー様、無事に帰って来てくださいね」
「え、ええ、もちろんです」

 彼の心がわかって、私は少し嬉しくなった。
 ラルーグ様にも、弟を思いやる確かな心がある。それがわかって、なんだか安心したのだ。
 私にとって、リルガー様は命の恩人である。その命の恩人に、非常な兄がいなくてよかったと思ったのだ。
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