怠惰な聖女の代わりに業務を担っていた私は、たまの気まぐれで働いた聖女の失敗を押し付けられて追放されました。

木山楽斗

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 リルガー様は、王都を守る騎士団と交渉することを選択した。
 あちらに聞こえるように、魔法で通信を行い、私を助けてくれた騎士と話し合うのだ。

「こちらは、エルグレンド王国の第二王子であるリルガーだ。そちらと交渉したいと思い、通信を繋げさせてもらった」
『……こちらは、レパイア王国騎士団ゾルガイル。一体、何用でしょうか?』

 私と助けてくれた騎士は、ゾルガイルという名前であるらしい。
 名前も知らないあの心優しい騎士は、リルガー様の言葉に少し顔をしかめている。あくまでも、戦うつもりなのだろうか。

「こちらの戦力は、エルグレンド王国とレパイア王国を合わせたものといっても過言ではない。そちらに勝ち目はないだろう」
『……確かに、そうかもしれません。ですが、それで我々にどうしろというのですか?』
「降伏してください。刃を収めてくれるなら、危害は加えないと約束しましょう」

 リルガー様は、ゾルガイルさんに堂々と宣言した。
 その言葉を彼が信じるかどうかは、わからない。だが、彼もわかっているはずだ。この戦いに勝ち目はないと。

『我々は、祖国のために命をかけるつもりです。例え、敵わぬとしても、最後の一人まで戦い抜く所存です』
「立派な心掛けだと思います。ですが、あなた達がそうする程の価値があるとは思いません」
『我が国を愚弄するというのですか?』
「レパイア王国の王族は、自らが助かるために国を犠牲にするつもりなのでしょう? そのような王族のために、あなた達が命を散らす必要などありません」

 リルガー様は、語気を荒くしてそのように言い放った。
 その言葉には、彼の意思が籠っている。誇り高き騎士達を助けたい。その意思が、確かに伝わってくる。それが、ゾルガイルさんに伝わっていると信じたい。

『……』

 そこで、ゾルガイルさんは後ろを向いた。その先には、部下の騎士達がいるだろう。
 彼は、私に手を差し伸べる程、優しい人物である。そんな彼は、部下達を犠牲にしたくないと思っているのだろう。

「部下を犠牲にすることを、あなたは許容できますか?」
『それは……』

 その動きを、リルガー様は見逃さなかった。
 部下のことで、ゾルガイルさんを攻めることにしたようだ。
 それは、とても酷なことである。自分の命ならともかく、他者の命を犠牲にすることは、彼にはできないだろう。

『……わかりました。そちらの提案を受け入れましょう』
「ありがとうございます」

 ゾルガイルさんは、苦悶の表情を浮かべながら、リルガー様の提案を受け入れた。
 その決断に、あちらの騎士団は揺れている。命をかけるつもりだったからだろう。
 しかし、部下から責められることがわかっていても、彼はその提案を受け入れたのだ。私を助ける程優しい騎士は、部下の命を捨てることを許容できなかったのだろう。
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