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31.我慢比べ

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「そんな方法で、本当に上手くいくんですか?」

 いつもの屋敷に戻った私は、事情を色々と知ったランパーからそのような言葉をかけられた。
 隣にいるラナーシャも、不安そうな顔をしている。やはり私の作戦は、他の人からみると違和感があるのだろうか。

「上手くいくと、私は思っているわ。少なくとも私には耐えられないもの」
「そういうものなんですか?」
「ええ、カルロム伯爵家に戻ってから、私はずっと冷や冷やしていたもの。透明な毒という存在を知って、相手が殺意を持っているかもしれないと思っていると、ずっと気を張っておかなければならないの」

 お父様と対峙する前から、私は実家でかなり注意を払うことになった。
 例えば自分が触ったものに毒がついていて、それが口に触れてしまったら。そんな考えがずっと頭の隅にあって、かなり気を張っていたのだ。
 それが長い間続いたらどうなるか、それは想像もしたくないことである。

「私が来たという事実もあるし、夫人はまずマグナスが透明な毒を持ち帰っているかもしれないという疑念にかられると思うわ。それから恐らく、毒が仕込まれているかもしれないという疑念にかられるでしょう。その疑念がずっと続いていくというのは、夫人にとってもきついはず……」
「でもそれは、マグナス様やハワード様も変わらないんじゃないですか? お二人だって、条件は同じだ」
「ええ、だからこれは我慢勝負になるわね。二人なら大丈夫だとは思っているのだけれど、実際の所これは難しい問題ね」

 マグナスとハワード様が、先に折れてしまうという可能性もある。
 ただ二人は、お互いに事情を知っているという強みもある。故にどちらかというと、こちらに勝機があるのではないだろうか。

「それにそもそも、夫人が図太かったり鈍感だったりしたら、この策は通用しないわね……」
「……色々と穴も多そうですね?」
「失礼ね。これでも結構成功する方法だと思っているのよ? 後、別にこれが失敗したら次の策を考えればいいだけだし」
「まあ、確かに実質的には何もしていない訳ですもんね……」
「ええ、とりあえずやってみることができるから私も提案したのよ」

 この作戦の肝の部分は、難しい準備などが必要ないということだ。
 やってみるだけやってみて、駄目だったら切り替えればいい。その手軽さが売りである。
 とにかく重要なのは、夫人を最終的に落とすことだ。そのためにできることをやっていく。今回の戦いは、きっとそういうものだろう。
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