12 / 20
12.殿下が去ってから
しおりを挟む
「……クレイド様、助けていただきありがとうございます」
「いえ、僕は当然のことをしたまでです」
レヴァール殿下が去ってから、私はクレイド様にお礼を述べた。
彼はそれに対して、ゆっくりと首を振る。その表情は、あまり明るくない。
「クレイド様、どうかされたのですか?」
「……僕はただ、打算を持ってこの場に立っただけなのです」
「打算?」
「レヴァール殿下が、こちらに手出しできない状況だから、出て来られたということです。本当に勇気ある者なら、そういったことは考えなかったでしょう。僕はそれが情けないのです」
クレイド様は、なんとも自分に厳しかった。
彼が言わんとしていることが、わからない訳ではない。ただそれはなんというか、ストイック過ぎるのではなかろうか。
「クレイド様、そのように考える必要はありません。クレイド様の判断は、むしろ当然のものです。貴族である以上、最も大切なのは自分の家なのですから」
「わかっています。しかしそれでも、僕はあなたを打算なく助けたかった。そうできるのが、理想の自分なのです」
「理想、ですか……」
当然といえば当然なのかもしれないが、クレイド様も無理なことだとは理解しているようだった。
それでも納得できないというのが、彼の主張ということなのだろう。理想という言葉からは、それが伺える。
「理想というものは、中々叶わないものですよ。私だってそうです。本当はもっと真っ当に婚約して生きていきたかったものですから」
「イルセア嬢……すみません。僕は余計なことを言ってしまいましたね」
「いえ、そういう訳でもありませんよ。クレイド様のことがわかって、少し嬉しいです」
この舞踏会において、クレイド様という人のことが少しわかった。
真面目で紳士的な彼は、どこまでも研鑽を怠らぬ伯爵令息なのだろう。
彼のそういった生き様には、見習うべき所が多くあるように思える。私も侯爵家の令嬢として、常に高き理想を持っておきたいものだ。
「クレイド様、最後にもう一曲私と踊っていただけませんか?」
「え?」
「今回の舞踏会は色々とありましたが、一番の成果はあなたと再会できたことだと思っています。だから私は、この瞬間を胸に刻んでおきたいのです」
「……イルセア嬢がそう望んでくれているのなら、僕としては断る理由はありません。よろしくお願いします」
私の申し出を、クレイド様は快く受け入れてくれた。
舞踏会も、いよいよ終わりだ。クレイド様と過ごせる最後の時間を、存分に楽しむとしよう。
「いえ、僕は当然のことをしたまでです」
レヴァール殿下が去ってから、私はクレイド様にお礼を述べた。
彼はそれに対して、ゆっくりと首を振る。その表情は、あまり明るくない。
「クレイド様、どうかされたのですか?」
「……僕はただ、打算を持ってこの場に立っただけなのです」
「打算?」
「レヴァール殿下が、こちらに手出しできない状況だから、出て来られたということです。本当に勇気ある者なら、そういったことは考えなかったでしょう。僕はそれが情けないのです」
クレイド様は、なんとも自分に厳しかった。
彼が言わんとしていることが、わからない訳ではない。ただそれはなんというか、ストイック過ぎるのではなかろうか。
「クレイド様、そのように考える必要はありません。クレイド様の判断は、むしろ当然のものです。貴族である以上、最も大切なのは自分の家なのですから」
「わかっています。しかしそれでも、僕はあなたを打算なく助けたかった。そうできるのが、理想の自分なのです」
「理想、ですか……」
当然といえば当然なのかもしれないが、クレイド様も無理なことだとは理解しているようだった。
それでも納得できないというのが、彼の主張ということなのだろう。理想という言葉からは、それが伺える。
「理想というものは、中々叶わないものですよ。私だってそうです。本当はもっと真っ当に婚約して生きていきたかったものですから」
「イルセア嬢……すみません。僕は余計なことを言ってしまいましたね」
「いえ、そういう訳でもありませんよ。クレイド様のことがわかって、少し嬉しいです」
この舞踏会において、クレイド様という人のことが少しわかった。
真面目で紳士的な彼は、どこまでも研鑽を怠らぬ伯爵令息なのだろう。
彼のそういった生き様には、見習うべき所が多くあるように思える。私も侯爵家の令嬢として、常に高き理想を持っておきたいものだ。
「クレイド様、最後にもう一曲私と踊っていただけませんか?」
「え?」
「今回の舞踏会は色々とありましたが、一番の成果はあなたと再会できたことだと思っています。だから私は、この瞬間を胸に刻んでおきたいのです」
「……イルセア嬢がそう望んでくれているのなら、僕としては断る理由はありません。よろしくお願いします」
私の申し出を、クレイド様は快く受け入れてくれた。
舞踏会も、いよいよ終わりだ。クレイド様と過ごせる最後の時間を、存分に楽しむとしよう。
291
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜
あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。
追放された彼女の能力は――
魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。
辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、
三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。
一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。
国家結界すら崩壊寸前に――。
「戻ってきてほしい」
そう告げられても、もう遅い。
私を必要としてくれる場所は、
すでに別にあるのだから。
これは、役立たずと呼ばれた令嬢が
本当の居場所と理解者を見つける物語。
『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~
スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」
聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。
実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。
森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。
「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」
捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!
婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです
鍛高譚
恋愛
内容紹介
「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」
王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。
婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。
「かしこまりました」
――正直、本当に辞めたかったので。
これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し……
すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。
そしてその瞬間――
王宮が止まった。
料理人が動かない。
書類が処理されない。
伝令がいない。
ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。
さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。
噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。
そしてついに――
教会・貴族・王家が下した決断は、
「王太子廃嫡」
そして。
「レティシア、女王即位」
婚約破棄して宰相をクビにした結果、
王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――?
これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの
完全自業自得ざまぁ物語。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる