私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

文字の大きさ
7 / 48

7.娘のために

「お母様、突然ですみません。オルファン侯爵家から出て行きましょう」
「それは……」

 私は、お母様の部屋に来ていた。
 私がまだ小さな頃から、お母様は体調を崩しがちであった。故に大抵の場合は、自室で休んでいるのだ。
 それは、お父様のせいだといえる。あの人は、望まぬ結婚相手であったお母様に対して、いつも厳しい態度だったのだ。

 お祖父様がいなくなってからは、その対応というものは加速していた。
 お父様はホラリーナとその娘であるイルミナをオルファン侯爵家の屋敷に招き入れて、夫人としてのお母様の立場を亡き者にしたのも、その一環といえるだろう。
 そういった心労が重なって、お母様の体調は悪くなる一方だった。

「もちろん、私も出て行くつもりです。イルミナがミルガス様と婚約したので、オルファン侯爵家に留まっておく意味は、最早ありません」
「そう……そういうことなら、私も安心することができるわ」

 正直な所、オルファン侯爵家に留まらせておくことは、お母様にとって良いこととは言い難かっただろう。それでもここにいてくれたのは、私のためであったといえる。
 オルファン侯爵家において、私の味方はほぼいない。使用人達は、私の肩を持ってくれることはあっても、結局は正式な雇用主であるお父様には逆らえない立場であった。
 お母様がいなければ、私はほぼ孤立していただろう。実際に、お母様の存在というものは心強かった。一人きりなら、ここまで戦い抜けなかったかもしれない。

「バルフェルト伯爵を頼りましょう。お母様は、伯爵夫人と懇意にされているのですよね?」
「ええ、より正確には私の母がバルフェルト伯爵夫人と友達で、その縁で私も良くしてもらっているわ。オルファン侯爵家に嫁ぐにあたっても、心配してくれて……」

 お母様は、実家でもあまり良い立場ではなかったそうだ。私と同じく、母親くらいしか味方がおらず、その私にとってお祖母様にあたる人も早くに失った。
 結果として実家との繋がりは、ほぼないようである。オルファン侯爵家と協力するためだったはずの婚約も、お父様が家を継いでからは意味がなくなったそうだ。
 そんなお母様が唯一頼れるのが、バルフェルト伯爵夫人である。お母様にとっては、もう一人の母親と言える程の人物であるそうだ。

「迷惑をかけるのは申し訳ないけれど、今はそのようなことを言っている場合ではないわね」
「そうですね。頼れる者はなんでも頼るべきです……体調の方は、どうですか? 良いようなら、すぐにでもここから抜け出したいのですが」
「今は調子もいいわ」
「わかりました。それなら準備しますから、少々お待ちを」

 お母様に言葉をかけてから、私は家を出る準備を始めた。
 とにかく今は、このオルファン侯爵家から抜け出さなければならない。お父様達のことだ。時間をかければ何かしらの妨害をすることも考えられる。故に迅速な行動が、必要であるといえるだろう。
感想 19

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

手放したくない理由

もちもちほっぺ
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。