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97.混ざる認識
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「疲れた……」
ディゾール様の指導を終えて、私は女子寮に向かっていた。
正直言って、滅茶苦茶疲れている。足元がふらふらだ。
これが毎日続くとなると、かなり厳しい気がする。だが、強くなるためには必要なことだ。頑張るしかないだろう。
「あれ?」
女子寮に辿り着いて歩いていると、見知った顔を見つけた。メルティナがいたのである。
彼女は、とある部屋の前にいた。その部屋は、よく知っている。アルフィアの部屋だからだ。
「……シズカさん?」
「あ、メルティナ、こんにちは……いえ、もうこんばんはかな?」
「そうかもしれませんね」
私の言葉に、メルティナは笑顔を浮かべた。
しかし、彼女はアルフィアの部屋の前で何をしているのだろうか。普通に考えれば、彼女に何か用があるということなのだろうが。
「アルフィアに何か用?」
「え?」
「うん? だって、彼女の部屋の前にいるよね?」
「……」
私の言葉に、メルティナはゆっくりと視線をそらした。心なしか、顔が赤くなっている。ということは、恥ずかしがっているということだろうか。
しかし、何故恥ずかしがる必要があるのだろうか。そう考えて、私はとある可能性に思い至る。
「もしかして……部屋を間違えたとか?」
「恥ずかしながら……はい」
「なるほど……まあ、私も間違えそうになったから、別に笑ったりはしないよ」
「え? そうなのですか?」
メルティナは、私の部屋とアルフィアの部屋を間違えたようだ。
それは、私にも覚えがある。かつては、その部屋で過ごしていたため、ついそちらに行ってしまうのだ。
私の場合は、なんとか途中で違和感に気づけたが、もし気づかなければ、そのままアルフィアの部屋の戸を回していたかもしれない。
「アルフィアさんではなく、シズカさんに会いに行くと思っていたはずなのですが……」
「まあ、そのシズカさんはアルフィアだった訳で……」
「なんというか……時々、訳がわからなくなりますね」
「そうだね……」
私は、アルフィアだった。それは、私にとっても皆にとっても非常に紛らわしいことである。
先日、キャロムも私のことをアルフィアと言っていたし、誰であるかの認識が混ざって大変なことになってしまっているのだろう。
「あれ? ということは、私に用があるということなの?」
「あ、はい。実は、そうなんです」
「そっか……それなら、メルティナの部屋で話す? そっちの方が近いし……」
「確かに、そちらの方が早いですね」
私の提案に、メルティナは頷いてくれた。
現在の私の部屋は、寮の端っこの方にある。余っていた部屋を割り当てられたからだ。
そのため、ここからはメルティナの部屋の方が近いのである。という訳で、私達はそちらで話すことに決めたのだ。
ディゾール様の指導を終えて、私は女子寮に向かっていた。
正直言って、滅茶苦茶疲れている。足元がふらふらだ。
これが毎日続くとなると、かなり厳しい気がする。だが、強くなるためには必要なことだ。頑張るしかないだろう。
「あれ?」
女子寮に辿り着いて歩いていると、見知った顔を見つけた。メルティナがいたのである。
彼女は、とある部屋の前にいた。その部屋は、よく知っている。アルフィアの部屋だからだ。
「……シズカさん?」
「あ、メルティナ、こんにちは……いえ、もうこんばんはかな?」
「そうかもしれませんね」
私の言葉に、メルティナは笑顔を浮かべた。
しかし、彼女はアルフィアの部屋の前で何をしているのだろうか。普通に考えれば、彼女に何か用があるということなのだろうが。
「アルフィアに何か用?」
「え?」
「うん? だって、彼女の部屋の前にいるよね?」
「……」
私の言葉に、メルティナはゆっくりと視線をそらした。心なしか、顔が赤くなっている。ということは、恥ずかしがっているということだろうか。
しかし、何故恥ずかしがる必要があるのだろうか。そう考えて、私はとある可能性に思い至る。
「もしかして……部屋を間違えたとか?」
「恥ずかしながら……はい」
「なるほど……まあ、私も間違えそうになったから、別に笑ったりはしないよ」
「え? そうなのですか?」
メルティナは、私の部屋とアルフィアの部屋を間違えたようだ。
それは、私にも覚えがある。かつては、その部屋で過ごしていたため、ついそちらに行ってしまうのだ。
私の場合は、なんとか途中で違和感に気づけたが、もし気づかなければ、そのままアルフィアの部屋の戸を回していたかもしれない。
「アルフィアさんではなく、シズカさんに会いに行くと思っていたはずなのですが……」
「まあ、そのシズカさんはアルフィアだった訳で……」
「なんというか……時々、訳がわからなくなりますね」
「そうだね……」
私は、アルフィアだった。それは、私にとっても皆にとっても非常に紛らわしいことである。
先日、キャロムも私のことをアルフィアと言っていたし、誰であるかの認識が混ざって大変なことになってしまっているのだろう。
「あれ? ということは、私に用があるということなの?」
「あ、はい。実は、そうなんです」
「そっか……それなら、メルティナの部屋で話す? そっちの方が近いし……」
「確かに、そちらの方が早いですね」
私の提案に、メルティナは頷いてくれた。
現在の私の部屋は、寮の端っこの方にある。余っていた部屋を割り当てられたからだ。
そのため、ここからはメルティナの部屋の方が近いのである。という訳で、私達はそちらで話すことに決めたのだ。
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