2 / 73
2.容赦なき剣
しおりを挟む
「誰だか知らないが、邪魔をしないでもらおうか。こっちは今、立て込んでいるんだよ」
「……」
「澄ました顔しやがって……気に食わねぇ!」
何も言わない青年にイラついたのか、野盗の一人がナイフを片手に彼に襲い掛かっていった。
そんな野盗に対して、青年はゆっくりと携帯していた剣を引き抜いた。刀身が黒いその剣を、青年は襲い掛かる野盗に対して振るう。
「ぎゃあああ!」
野盗は、いとも容易く切り裂かれていた。それは恐らく、青年の動きが想像以上に早かったからだろう。
辺りに鮮血が飛び散り、野盗がゆっくりと倒れる。そんな野盗に目もくれず、青年はその剣を翻す。
「この野郎!」
「調子に乗っているんじゃねぇぞ!」
仲間の死に怒ったのか、野盗達は一斉に青年に襲い掛かった。
だが、そんな彼らにも青年は怯まない。一歩も動かずに、野盗達を待ち構えたのである。
「ぐおっ!?」
「あぎゃあっ!」
青年は野盗を次々となぎ倒していく。その剣技は、見事なものだ。人数で優位になっているはずの野盗達をものともしない。
「なっ、なんなんだ。こい……ごっ!?」
「ち、ちくしょう!」
驚く野盗達に対して、青年は一切の容赦情けを見せなかった。困惑していた野盗は彼に切られて、そのままこと切れたのだ。
実力の差は、圧倒的だった。青年は、僅か数分の間に、野盗を片付けてしまったのである。
「……」
青年の周りには、野盗の死体が転がっていた。しかし、彼はそんなことは気にせず、ゆっくりと私の方に歩いていく。
その過程で、彼はその漆黒の剣を鞘に収めた。少なくとも、私にその剣で攻撃しようという気はないようだ。
「……大丈夫か?」
「え? あ、はい……おかげさまで」
青年に声をかけられて、私は震える声で返答をすることしかできなかった。
色々とあり過ぎて私はまだ混乱している。だが、とりあえず彼に助けられたということは事実だ。何はともあれ、まずはお礼を言うべきだろう。
「助けていただき、ありがとうございます」
「お前は何者だ?」
「え?」
私のお礼に対して、青年は質問を返してきた。
なんというか、結構冷たい。それに、私は少し驚いた。
だが、確かにそれは当然の疑問かもしれない。私が誰か、それは明かしておく必要はあるだろう。
「えっと、私はアーティア・マルネイドといいます」
「そうか」
私の言葉に、青年は短くそう答えた後、考えるような仕草をしていた。
何を考えているのか、それはわからない。わからないので、私はその内に彼の様子を観察する。
先程から気になっていたが、彼の服装はそれなりのものだ。平民にしては、少々高価な気もするし、彼はもしかしたら結構いい身分なのかもしれない。
ここは、メーカム辺境伯の領地だ。そこに現れた彼。それらのことから、私は彼の正体に思い至った。だが、そんなことがあるのだろうか。
「……すまなかったな」
「え?」
「俺は、フレイグ・メーカムだ。お前の婚約者ということになるか」
「や、やっぱり……」
私の疑問の答えは、すぐに出た。どうやら、私の予想の通りだったようだ。
彼こそが、フレイグ・メーカム。冷酷無慈悲といわれている辺境伯なのである。
「俺の領地でこのような問題が起こったことは失態だ。改めて、謝罪させてもらう。すまなかったな」
「いえ、それは……」
フレイグ様は、動揺している私の目をしっかりと見ながらそう言ってきた。
しかし、これは恐らく彼が謝罪するようなことではない。野盗達の話を総合すると、これはマルネイド侯爵家が糸を引いていたことだからだ。
「立てるか?」
「あ、ごめんなさい。実は、腰が抜けていて……」
「そうか。なら、少しだけ我慢しろ」
「え?」
説明を考えていると、彼は私をゆっくりと抱き上げてきた。
所謂、お姫様抱っこの形だ。腰の抜けている私を、彼は軽々と持ち上げたのである。
「しっかりと掴まっていろ」
「は、はい……その、重くありませんか?」
「ああ」
「そ、そうですか……」
フレイグ様は、私を抱きかかえたまま歩き始めた。よくわからないが、安全な場所まで行こうということだろうか。
私は、そんな彼の首に手を回しておく。色々と疑問はあるが、とりあえず彼に
運んでもらうことにしたのだ。
「……」
「澄ました顔しやがって……気に食わねぇ!」
何も言わない青年にイラついたのか、野盗の一人がナイフを片手に彼に襲い掛かっていった。
そんな野盗に対して、青年はゆっくりと携帯していた剣を引き抜いた。刀身が黒いその剣を、青年は襲い掛かる野盗に対して振るう。
「ぎゃあああ!」
野盗は、いとも容易く切り裂かれていた。それは恐らく、青年の動きが想像以上に早かったからだろう。
辺りに鮮血が飛び散り、野盗がゆっくりと倒れる。そんな野盗に目もくれず、青年はその剣を翻す。
「この野郎!」
「調子に乗っているんじゃねぇぞ!」
仲間の死に怒ったのか、野盗達は一斉に青年に襲い掛かった。
だが、そんな彼らにも青年は怯まない。一歩も動かずに、野盗達を待ち構えたのである。
「ぐおっ!?」
「あぎゃあっ!」
青年は野盗を次々となぎ倒していく。その剣技は、見事なものだ。人数で優位になっているはずの野盗達をものともしない。
「なっ、なんなんだ。こい……ごっ!?」
「ち、ちくしょう!」
驚く野盗達に対して、青年は一切の容赦情けを見せなかった。困惑していた野盗は彼に切られて、そのままこと切れたのだ。
実力の差は、圧倒的だった。青年は、僅か数分の間に、野盗を片付けてしまったのである。
「……」
青年の周りには、野盗の死体が転がっていた。しかし、彼はそんなことは気にせず、ゆっくりと私の方に歩いていく。
その過程で、彼はその漆黒の剣を鞘に収めた。少なくとも、私にその剣で攻撃しようという気はないようだ。
「……大丈夫か?」
「え? あ、はい……おかげさまで」
青年に声をかけられて、私は震える声で返答をすることしかできなかった。
色々とあり過ぎて私はまだ混乱している。だが、とりあえず彼に助けられたということは事実だ。何はともあれ、まずはお礼を言うべきだろう。
「助けていただき、ありがとうございます」
「お前は何者だ?」
「え?」
私のお礼に対して、青年は質問を返してきた。
なんというか、結構冷たい。それに、私は少し驚いた。
だが、確かにそれは当然の疑問かもしれない。私が誰か、それは明かしておく必要はあるだろう。
「えっと、私はアーティア・マルネイドといいます」
「そうか」
私の言葉に、青年は短くそう答えた後、考えるような仕草をしていた。
何を考えているのか、それはわからない。わからないので、私はその内に彼の様子を観察する。
先程から気になっていたが、彼の服装はそれなりのものだ。平民にしては、少々高価な気もするし、彼はもしかしたら結構いい身分なのかもしれない。
ここは、メーカム辺境伯の領地だ。そこに現れた彼。それらのことから、私は彼の正体に思い至った。だが、そんなことがあるのだろうか。
「……すまなかったな」
「え?」
「俺は、フレイグ・メーカムだ。お前の婚約者ということになるか」
「や、やっぱり……」
私の疑問の答えは、すぐに出た。どうやら、私の予想の通りだったようだ。
彼こそが、フレイグ・メーカム。冷酷無慈悲といわれている辺境伯なのである。
「俺の領地でこのような問題が起こったことは失態だ。改めて、謝罪させてもらう。すまなかったな」
「いえ、それは……」
フレイグ様は、動揺している私の目をしっかりと見ながらそう言ってきた。
しかし、これは恐らく彼が謝罪するようなことではない。野盗達の話を総合すると、これはマルネイド侯爵家が糸を引いていたことだからだ。
「立てるか?」
「あ、ごめんなさい。実は、腰が抜けていて……」
「そうか。なら、少しだけ我慢しろ」
「え?」
説明を考えていると、彼は私をゆっくりと抱き上げてきた。
所謂、お姫様抱っこの形だ。腰の抜けている私を、彼は軽々と持ち上げたのである。
「しっかりと掴まっていろ」
「は、はい……その、重くありませんか?」
「ああ」
「そ、そうですか……」
フレイグ様は、私を抱きかかえたまま歩き始めた。よくわからないが、安全な場所まで行こうということだろうか。
私は、そんな彼の首に手を回しておく。色々と疑問はあるが、とりあえず彼に
運んでもらうことにしたのだ。
42
あなたにおすすめの小説
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました
八代奏多
恋愛
クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。
両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。
おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。
でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!
そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる