継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

６１．底知れない憎しみ

「忌々しい……忌々しいぞ、ラフード！　貴様さえいなければ、私の崇高なる計画は完遂するというのに……」

　ラムフェグは、頭を抱えていた。
　その様子は、何かに苦しんでいるような風に見える。
　彼は恐らく、その劣等感を刺激されてしまったのだろう。ラフードに劣る自分、それに耐えきれない。今の状況から考えると、そんな所だろうか。

『……ラムフェグ、お前の計画のどこが崇高なんだ。争いなんて起こしても、意味がない。それが、まだわからないのか』
「意味？　そんなものは必要はない。必要なのは、騒乱だ！　血が流れれば流れる程、私の心は豊かになる。この渇きがいえるのだ！」

　ラムフェグは、自分の思想を嬉々として語っていた。
　それは、危険な思想である。人々が争うことそのものが目的。これ程に恐ろしい者はいないだろう。
　彼という存在の恐ろしさを、私は実感していた。絶対に止めなけばならない。皆がそう言っていた理由が、改めてわかったのだ。

『……やっぱり、お前とはもう分かり合えないのか。馬鹿みたいな思想に取り憑かれやがって……』

　ラムフェグの言葉に、ラフードは少し悲しそうにしていた。
　やはり、兄弟としての情を捨てきるのは難しいのだろう。きっとラフードは、もう一度やり直せるのではないかという希望を抱いているのだ。
　だが、その希望をラムフェグは打ち砕いた。もう戻れる道はないのだと、彼は示したのだ。

「……ラフードとの会話は終わったのか？」
「……ええ、どうやら兄弟であっても、彼を説得することはできないようです」
「そうか……」
『わかっていたことさ。あいつにもう言葉が届かないなんてことは……』
「ラフード……」

　ラフードは悲しそうな顔をしていた。
　そんな彼の姿は見えていないが、フレイグ様も複雑な表情をしている。きっと、ラフードのことを慮っているのだろう。

「……ラムフェグ、もう一度言っておこう。お前の野望はここで終わる。もう二度と、二つの種族の争いは起こさせない」
「貴様も忌々しい奴だな、フレイグ……貴様達二人は、何度も何度もこの私の前に立ち塞がりおって……」

　フレイグ様に対して、ラムフェグはその目を歪ませる。兜に輝く目だけであるというのに、彼の表情はわかりやすかった。本当にフレイグ様やラフードを憎しむような目をしているのだ。
　その目が、私は恐ろしかった。ここまで誰かを憎しむ目を見たのは久し振りである。私の継母のような歪み切った目を、ラムフェグはしているのだ。