16 / 16
16.明るい未来へと
しおりを挟む
「……俺の役目も、これで一区切りという訳か」
「カルードお義兄様……?」
カルードお義兄様は、ゆっくりと天を仰いでいた。
それはもしかしたら、アルリシアお姉様のことを思い出しているのかもしれない。お義兄様は、お姉様との約束で私を守ってきてくれたのだから。
それが約束したからという理由だけではないことは、わかっている。しかしそれでも、そのことが深く関係していることは確かだろう。
「……セルーグ、イルネシアのことをどうかよろしく頼む」
「カルード兄様? 頭を上げてください」
そこでカルードお義兄様は、セルーグ殿下にゆっくりと頭を下げた。
その行動には、その場にいた誰もが驚いている。カルードお義兄様がそのようなことをするのは、とても珍しいことであるからだ。
しかしそれは紛れもなく、カルードお義兄様がセルーグ殿下を認めてくれた証明である。私はそれを理解して、セルーグ殿下と視線を合わせた。
「カルードお義兄様、セルーグ殿下との婚約を認めてくださるのですね?」
「ああ、セルーグであるならば心配はないと俺も判断した」
「カルード兄様、そう言っていただけるのは光栄です」
カルードお義兄様は、穏やかな表情をしていた。
今まであった私を守るという意識が、少し薄らいだということなのだろう。
その表情を見て、私はかなり安心していた。お義兄様がある種の呪縛から解放されたというなら、私としても嬉しいものである。
「……しかし、これで俺の役目が終わったとも思ってはいない」
「え?」
そんなことを思っていると、カルードお義兄様の表情が元のように少し強張った。
それに私とセルーグ殿下は、再び顔を見合わせた。周囲にいるクレリナ嬢やザベルス殿下、スヴェルツ殿下も動揺しているようだ。
「当然のことながら、アルリシアとの約束がこれで果たせたなどとは思っていない。例え誰と結婚しようと、イルネシアが俺の義妹であることは変わらないしな」
「あ、えっと、それはそうですけれど……」
「セルーグ、お前のことは俺がずっと見ている。それを忘れるなよ」
「も、もちろん、忘れはしませんが……」
カルードお義兄様は、すっかりいつもの調子に戻っていた。先程までの殊勝な態度は、既に見る影もない。
それはお義兄様らしいと言えば、お義兄様らしいことではあった。しかし、いくらなんでも過保護過ぎるのではないだろうか。私には、セルーグ殿下という守ってくれる人もできた訳だし。
「まあ、お兄様は変わりませんか……イルネシアお姉様も、セルーグ兄様も大変そうですね」
「そ、そうかもしれませんね……」
「まあ、僕としてはそうやって気を引き締めてくれる人がいることは、ありがたいことでもありますけれどね」
「セルーグ殿下……」
セルーグ殿下は、私に対して笑みを向けてきた。
それに私も、笑顔で応える。やはり彼は、とても頼りになる人だ。私はそれを改めて認識していた。
そんな彼となら、きっと明るい未来を切り開いていける気がする。カルードお義兄様の介入などもあるかもしれないが、それでもそれは変わらないだろう。そう思いながら、私はセルーグ殿下と笑い合うのだった。
END
「カルードお義兄様……?」
カルードお義兄様は、ゆっくりと天を仰いでいた。
それはもしかしたら、アルリシアお姉様のことを思い出しているのかもしれない。お義兄様は、お姉様との約束で私を守ってきてくれたのだから。
それが約束したからという理由だけではないことは、わかっている。しかしそれでも、そのことが深く関係していることは確かだろう。
「……セルーグ、イルネシアのことをどうかよろしく頼む」
「カルード兄様? 頭を上げてください」
そこでカルードお義兄様は、セルーグ殿下にゆっくりと頭を下げた。
その行動には、その場にいた誰もが驚いている。カルードお義兄様がそのようなことをするのは、とても珍しいことであるからだ。
しかしそれは紛れもなく、カルードお義兄様がセルーグ殿下を認めてくれた証明である。私はそれを理解して、セルーグ殿下と視線を合わせた。
「カルードお義兄様、セルーグ殿下との婚約を認めてくださるのですね?」
「ああ、セルーグであるならば心配はないと俺も判断した」
「カルード兄様、そう言っていただけるのは光栄です」
カルードお義兄様は、穏やかな表情をしていた。
今まであった私を守るという意識が、少し薄らいだということなのだろう。
その表情を見て、私はかなり安心していた。お義兄様がある種の呪縛から解放されたというなら、私としても嬉しいものである。
「……しかし、これで俺の役目が終わったとも思ってはいない」
「え?」
そんなことを思っていると、カルードお義兄様の表情が元のように少し強張った。
それに私とセルーグ殿下は、再び顔を見合わせた。周囲にいるクレリナ嬢やザベルス殿下、スヴェルツ殿下も動揺しているようだ。
「当然のことながら、アルリシアとの約束がこれで果たせたなどとは思っていない。例え誰と結婚しようと、イルネシアが俺の義妹であることは変わらないしな」
「あ、えっと、それはそうですけれど……」
「セルーグ、お前のことは俺がずっと見ている。それを忘れるなよ」
「も、もちろん、忘れはしませんが……」
カルードお義兄様は、すっかりいつもの調子に戻っていた。先程までの殊勝な態度は、既に見る影もない。
それはお義兄様らしいと言えば、お義兄様らしいことではあった。しかし、いくらなんでも過保護過ぎるのではないだろうか。私には、セルーグ殿下という守ってくれる人もできた訳だし。
「まあ、お兄様は変わりませんか……イルネシアお姉様も、セルーグ兄様も大変そうですね」
「そ、そうかもしれませんね……」
「まあ、僕としてはそうやって気を引き締めてくれる人がいることは、ありがたいことでもありますけれどね」
「セルーグ殿下……」
セルーグ殿下は、私に対して笑みを向けてきた。
それに私も、笑顔で応える。やはり彼は、とても頼りになる人だ。私はそれを改めて認識していた。
そんな彼となら、きっと明るい未来を切り開いていける気がする。カルードお義兄様の介入などもあるかもしれないが、それでもそれは変わらないだろう。そう思いながら、私はセルーグ殿下と笑い合うのだった。
END
109
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される
夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。
さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。
目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。
優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。
一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。
しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~
放浪人
恋愛
公爵令嬢セラフィナは、異母妹イゾルデの策略により、婚約者である王子アラリックから「悪役令嬢」の汚名を着せられ、婚約破棄と同時に辺境への追放を宣告される。絶望の中、彼女を待ち受けていたのは、冷酷無比と噂される「氷の辺境伯」カシアンとの政略結婚だった。死をも覚悟するセラフィナだったが、カシアンは噂とは裏腹に、不器用ながらも彼女を大切に扱い始める。戸惑いながらも、カシアンの隠された優しさに触れ、凍てついた心が少しずつ溶かされていくセラフィナ。しかし、そんな彼女たちの穏やかな日々を、過去の陰謀が再び脅かそうとする。果たしてセラフィナは、降りかかる不遇を乗り越え、カシアンと共に真実の愛と幸福を掴むことができるのか? そして、彼女を陥れた者たちに訪れる運命とは――?
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました
黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」
衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。
実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。
彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。
全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。
さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる