「50kg以上はデブ」と好きな人に言われ、こじらせた女のそれから

国湖奈津

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ダイアナー先輩視点ー 前

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初めて細井と会ったのはサークルの新入生歓迎会だった。

杉山が勧誘してきた女子の中に細井がいた。

「杉山君のおかげで今年も豊作ね」とアコさんは言っていたけれど、月1の飲み会だけ参加になる部員が今年もほとんどだろう。



予想通り5月中旬には1年生のサークル参加者は2,3人になっていた。

もともと参加自由なので特に問題はない。

細井は今もサークルに毎週参加している。

どうやら細井は杉山の彼女らしい。

以前杉山は、彼女は別の学校にいると言っていた。

てっきり別の大学に通っているのだと思っていたが、まだ高校生だったようだ。

その証拠に今日も杉山は細井のことを『姫』と呼んでサークル活動前に2人でいちゃついている。

杉山が自分の彼女のことを公衆の面前で姫呼びするヤツだったとは少し意外だった。





「細井ちゃんと杉山君っていつから付き合ってるの?」

遠慮しない性格のユリさんがズバッと聞いたのは、前期試験終わりの飲み会の時だったか。



「付き合ってるってなんかお付き合いしてるみたいであれですけど、高校生の時に同じオーケストラ部で。それ以来の付き合いです」

答えた細井は戸惑っているようだ。

「え?よくわかんないんだけど、2人付き合ってるよね?」

質問したユリさんも戸惑っている。

「『付き合ってる』って男女交際みたいな意味ですか?彼氏彼女関係?それは無いです。どう見てもそんなわけないじゃないですか。どうしてそんなこと思ったんだろうびっくりです。直樹センパーイ!なんか、ユリさんが私たち付き合ってると思ってたらしい。すごいウケますねー」


部員全員思ってたと思うのだが。

杉山に勧誘されて入った部員の中には、細井の存在のために幽霊部員になっている奴もいるはずだ。

それなのに2人は「ウケる」「ありえない」と言って大笑いしている。



「でもでもさ、杉山君ってば細井ちゃんのこと『姫』って呼んでるでしょ。それに飲み会の後はいつも2人で帰ってるし。あれは何?」

「…そういうことか」


そう言うと、少しテンションの下がった細井はカバンから学生証を取り出した。

「私の名前、細井緋明なんです。オーケストラ部の顧問がアメリカかぶれ(?)で。名前で呼びあったほうが仲良くなってサウンドも良くなるっていう謎の理論を振りかざしてまして。それで部員は全員名前で呼び合ってたんです。だから直樹先輩も私のこと緋明って呼んでただけなんです。僕のプリンセスって意味じゃなくて単なる私の名前です。一緒に帰ってるのは、たまたまアパートが道挟んで隣だからっていうだけです。直樹先輩そういうところは優しいので」



「そうなんだ~。確かに女の子が夜遅くに1人で帰るのは危ないもんね。緋明ちゃんって可愛いけど難儀な名前だね」

ユリさんは納得した様子を見せた。

2人の会話を聞いていた者たちも、目からうろこが落ちたような顔をしていた。

「どうしてこの名前にしたんだって、親には何度も抗議してるんですよ」



細井は真顔で何やら考え込んだ後、杉山を呼びつけた。

良い感じに酔っぱらっている杉山は、ごねていたけれど、細井に引きずられて隣に座らせた。



「直樹先輩、謎がすべて解けました。私達名前で呼び合うのやめましょう」

「謎?」

「そうです。大学に入って以来、女子からの視線を感じたり、私を見てコソコソ話してるような気がすると思うことが多かったんです。気のせいだろうと思ってたんですけど、あれ気のせいじゃなかったんです。たぶん私達付き合ってると勘違いしてる人がユリさん以外にもいると思います」



「道理で今年はモテないと思った。便利だしこのまま勘違いさせとけばいいよ」

杉山は飄々と答えた。

「先輩はいいかもしれませんけど、私が悲惨な目に合うんですよ。雑巾すすいだ水や植木鉢が上から降ってきたりとか、卵を投げつけられたり、手が滑ったってワインを全身にかけられたりするんです。少女漫画だと定番なんですから」

細井は恐ろしい場面を想像しているのか、ぶるぶる震えるような真似をして自分を抱きしめている。

「漫画の読みすぎだろ。それに植木鉢落とすとか、下手したら殺人…」

「うるさい。少女漫画だとヒーローとヒロインは相思相愛なんでヒーローが助けに来るんですよ。でも私たち相思相愛じゃないですから当然先輩助けに来ないでしょ?」

「うん」

「そこは助けるって言えよ。つまり私は1人で壮絶ないじめに耐える大学生活を送らなければならない訳です。可愛い後輩がこんな悲惨な大学生活を送るのを放っておくなんて人道に反する行為ですよ。ちょっと呼んでみてください」



「細井」

「杉山先輩。OK。じゃあこれで行きましょう」

「うわー面倒くさ。呼び方変えても俺が緋明にチューすれば結局勘違いされるだろ」



そう言って杉山は細井に襲い掛かった。



「酔っぱらいの変態―。岸野先輩助けてください」

細井の左隣にいた俺は細井の盾にされ杉山の方にグイッと押された。

杉山ももちろん本気で細井にキスしようとしていたわけではない。
襲うフリをしていただけだったはずだ。

しかし俺が押されたことで、柔らかい唇と唇が触れ合った。

もちろん俺と杉山の唇だ。

「「「キャー!」」」

という黄色い悲鳴が店内に響き、飲み会はこの日最高の盛り上がりになった。

おぞましい体験だったが、それからなぜか細井になつかれた。
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