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お義兄様
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馭者に急いでもらい、2日半で領地の館に到着した私を、執事のロジャーが出迎えてくれた。
「これはお嬢様、今頃こちらにお帰りになるとは。一体どうなさったのです?」
今はまだ、社交シーズン真っ只中の初夏。
私は王都の屋敷で社交に明け暮れているはず。
急に領地に帰って来たので、ロジャーはかなり驚いていた。
「お姉様に用があって帰って来たの。お姉様はいる?お部屋かしら?」
慣れ親しんだ我が家なので、私はスタスタと中に入り、目的の部屋に向かおうとした。
「リュシー様、私がアデル様を呼んでまいりますので、応接室でお待ちください」
なぜだかロジャーは私を引き止めた。
「そんな回りくどいことしなくていいわ。私が行けばすぐなんだし」
私は歩き出す。
「お待ちください。まだアデル様は休まれておりますので」
(え゛!)
もうすぐ陽が落ちる時間なのに、まだお姉様は起きてきていない?
「お姉様、ご病気なの?大変じゃない!」
「いえ、ご病気と言うわけではなく…。とにかく応接室か、あるいはご自分の部屋にいらしてください」
「分かったわ。それなら応接室にいるわ」
お姉様の身に、一体なにがあったのだろうか。
荷物の整理や部屋の用意をリナに任せ、私は応接室でお姉様が来るのを待つことにした。
1時間ほど待っていると、応接室の扉がノックされ、義兄のジャンが入って来た。
ジャンは去年お姉様と結婚し、私の義兄になった。
社交界ではご婦人方の人気を集め、恋多き男性と呼ばれていたそうだけれど、お姉様と出会ってからは一途にお姉様のことを愛している。
将来的にはカナルソル侯爵位を継いでくれる男性だ。
「お義兄様、お姉様は一緒ではないのですか?」
「あぁ、アデルはまだベッドだ」
お義兄様は気だるそうに答える。
「そんな…。お姉様は一体どうなさってしまったんですか?悪い病気なのですか?」
「いや、元気だ。心配はいらない」
お義兄様はそういうけれど、元気なのに夕方まで起きてこないなんて、絶対におかしいと思う。
「元気ならば、お姉様に会いにお部屋に行っても構いませんか?」
お姉様は結婚して、独身時代の部屋(私の隣の部屋だ)から、若夫婦の部屋に移っている。
そこはお義兄様の部屋でもあるので、お義兄様に許可を求めた。
「悪いが遠慮してくれないか?アデルには今、誰とも会わせたくない」
「なんですか、それ!またお義兄様がお姉様を独占しようという魂胆ですか?私だってお姉様に会いたいのに!」
お義兄様の独占欲はとても強く、何かとお姉様を独り占めしたがる。
そんな彼を私も妹のエマも、少し不満に思っていた。
姉夫婦の仲が良いのは、すばらしいことだと思う。
けれど、私たちだってお姉様に会いたいのだ。
「だが、今アデルは眠っている。私たちは貴族としての義務を果たすのに忙しくてね」
お義兄様は察しろとばかりにこちらを見た。
(そ、そういうこと。そうよね、新婚なんだし)
みるみる私の耳は熱くなる。
姉夫婦はどうやら子作りに励んでいるところのようだ。
邪魔をするなと言いたいらしい。
(それなら、お邪魔をしたら孫の誕生を心待ちにしているお父様とお母様に怒られるわよね…。はっ!でも…)
「お義兄様、とても言いにくいことなのですが、もしもお姉様が産んだ子供がお義兄様の子供ではなかったら、どうなさいますか?」
イザックがお姉様を好きだという問題は、私だけの問題ではないことに気づいた。
夫であるお義兄様の問題でもあるのだ。
つまり、この問題は私とお義兄様の共通の問題。
「どういう意味だ?」
気だるげだったお義兄様の視線が、途端に鋭くなる。
今にも噛み千切られるのではないかという、恐怖を感じる目だった。
「その、怒らずに聞いてくださいね。実はイザックはずっとお姉様のことを愛していました。しかしお姉様が結婚してしまい、私で我慢しようと思ったんです。けれどやはりお姉様への気持ちを諦めきれないと気づき、私との結婚を取りやめ、お姉様を手に入れようとしているようなんです」
口に出すには、辛すぎる言葉だった。
けれどお義兄様が味方になってくれれば、お姉様の説得はスムーズに進むと思った。
「へぇ…。第二王子など、所詮はスペアだ。いなくても大して困らないな?」
お義兄様は真顔で不穏なセリフを吐いた。
急激に部屋の温度が下がったようで、なんだか寒気がする。
「お義兄様!?何をしようとしています?イザックをどうにかしようとするのはやめてくださいね。そうではなくて、私はお姉様に断るように言ってほしくて。もしもイザックがお姉様の愛を乞いに来たら、説得してほしいんです。諦めて私と結婚するようにって」
「悪いが、急用ができた。泊まっていくのは構わないが、私たちの邪魔はしないでくれ」
そう言うと、お義兄様は応接室から出て行ってしまった。
私の願いを聞いてくれたのかどうかは分からない。
(お義兄様は、一体なにをするつもりなのかしら?もしかしてイザックを亡き者にしようと…?)
先ほどの不穏なセリフがどうしても気になる。
私は慌ててロジャーを呼んだ。
「どうなさいましたか?」
ロジャーはすぐに来てくれた。
「お義兄様は、どこに行ったか分かる?」
「部屋にお戻りになったようですが」
「本当ね?もしもお義兄様が何日も出かけるようなことがあったら、私に報告して」
お義兄様が暴走するかもしれない。
しばらく見張りをつけたほうがいいだろうと、私は思った。
「これはお嬢様、今頃こちらにお帰りになるとは。一体どうなさったのです?」
今はまだ、社交シーズン真っ只中の初夏。
私は王都の屋敷で社交に明け暮れているはず。
急に領地に帰って来たので、ロジャーはかなり驚いていた。
「お姉様に用があって帰って来たの。お姉様はいる?お部屋かしら?」
慣れ親しんだ我が家なので、私はスタスタと中に入り、目的の部屋に向かおうとした。
「リュシー様、私がアデル様を呼んでまいりますので、応接室でお待ちください」
なぜだかロジャーは私を引き止めた。
「そんな回りくどいことしなくていいわ。私が行けばすぐなんだし」
私は歩き出す。
「お待ちください。まだアデル様は休まれておりますので」
(え゛!)
もうすぐ陽が落ちる時間なのに、まだお姉様は起きてきていない?
「お姉様、ご病気なの?大変じゃない!」
「いえ、ご病気と言うわけではなく…。とにかく応接室か、あるいはご自分の部屋にいらしてください」
「分かったわ。それなら応接室にいるわ」
お姉様の身に、一体なにがあったのだろうか。
荷物の整理や部屋の用意をリナに任せ、私は応接室でお姉様が来るのを待つことにした。
1時間ほど待っていると、応接室の扉がノックされ、義兄のジャンが入って来た。
ジャンは去年お姉様と結婚し、私の義兄になった。
社交界ではご婦人方の人気を集め、恋多き男性と呼ばれていたそうだけれど、お姉様と出会ってからは一途にお姉様のことを愛している。
将来的にはカナルソル侯爵位を継いでくれる男性だ。
「お義兄様、お姉様は一緒ではないのですか?」
「あぁ、アデルはまだベッドだ」
お義兄様は気だるそうに答える。
「そんな…。お姉様は一体どうなさってしまったんですか?悪い病気なのですか?」
「いや、元気だ。心配はいらない」
お義兄様はそういうけれど、元気なのに夕方まで起きてこないなんて、絶対におかしいと思う。
「元気ならば、お姉様に会いにお部屋に行っても構いませんか?」
お姉様は結婚して、独身時代の部屋(私の隣の部屋だ)から、若夫婦の部屋に移っている。
そこはお義兄様の部屋でもあるので、お義兄様に許可を求めた。
「悪いが遠慮してくれないか?アデルには今、誰とも会わせたくない」
「なんですか、それ!またお義兄様がお姉様を独占しようという魂胆ですか?私だってお姉様に会いたいのに!」
お義兄様の独占欲はとても強く、何かとお姉様を独り占めしたがる。
そんな彼を私も妹のエマも、少し不満に思っていた。
姉夫婦の仲が良いのは、すばらしいことだと思う。
けれど、私たちだってお姉様に会いたいのだ。
「だが、今アデルは眠っている。私たちは貴族としての義務を果たすのに忙しくてね」
お義兄様は察しろとばかりにこちらを見た。
(そ、そういうこと。そうよね、新婚なんだし)
みるみる私の耳は熱くなる。
姉夫婦はどうやら子作りに励んでいるところのようだ。
邪魔をするなと言いたいらしい。
(それなら、お邪魔をしたら孫の誕生を心待ちにしているお父様とお母様に怒られるわよね…。はっ!でも…)
「お義兄様、とても言いにくいことなのですが、もしもお姉様が産んだ子供がお義兄様の子供ではなかったら、どうなさいますか?」
イザックがお姉様を好きだという問題は、私だけの問題ではないことに気づいた。
夫であるお義兄様の問題でもあるのだ。
つまり、この問題は私とお義兄様の共通の問題。
「どういう意味だ?」
気だるげだったお義兄様の視線が、途端に鋭くなる。
今にも噛み千切られるのではないかという、恐怖を感じる目だった。
「その、怒らずに聞いてくださいね。実はイザックはずっとお姉様のことを愛していました。しかしお姉様が結婚してしまい、私で我慢しようと思ったんです。けれどやはりお姉様への気持ちを諦めきれないと気づき、私との結婚を取りやめ、お姉様を手に入れようとしているようなんです」
口に出すには、辛すぎる言葉だった。
けれどお義兄様が味方になってくれれば、お姉様の説得はスムーズに進むと思った。
「へぇ…。第二王子など、所詮はスペアだ。いなくても大して困らないな?」
お義兄様は真顔で不穏なセリフを吐いた。
急激に部屋の温度が下がったようで、なんだか寒気がする。
「お義兄様!?何をしようとしています?イザックをどうにかしようとするのはやめてくださいね。そうではなくて、私はお姉様に断るように言ってほしくて。もしもイザックがお姉様の愛を乞いに来たら、説得してほしいんです。諦めて私と結婚するようにって」
「悪いが、急用ができた。泊まっていくのは構わないが、私たちの邪魔はしないでくれ」
そう言うと、お義兄様は応接室から出て行ってしまった。
私の願いを聞いてくれたのかどうかは分からない。
(お義兄様は、一体なにをするつもりなのかしら?もしかしてイザックを亡き者にしようと…?)
先ほどの不穏なセリフがどうしても気になる。
私は慌ててロジャーを呼んだ。
「どうなさいましたか?」
ロジャーはすぐに来てくれた。
「お義兄様は、どこに行ったか分かる?」
「部屋にお戻りになったようですが」
「本当ね?もしもお義兄様が何日も出かけるようなことがあったら、私に報告して」
お義兄様が暴走するかもしれない。
しばらく見張りをつけたほうがいいだろうと、私は思った。
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