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ストナン伯爵家
しおりを挟むゲリュック校からの帰り道、私は馬車の小窓から外を眺めていた。
「エレノア様、良かったんですか?リリー先生には申し訳ないですが、バーバラ嬢は性悪ですよ。掴みかけた婚約もだめになりそうですし、この先の人生は下り坂でしょうね」
リンダは部屋の隅に控えていて、私とリリー先生の話を聞いていたのだ。
「バーバラに会ってみましょうか」
決意して、私は口に出した。
「えっ!あんな罵声を浴びせてきた相手とお会いになるんですか?私なら二度と近づきたくないです」
「もちろん私だって好んで会いたいとは思わないし、あの罵声には驚いたわ。夜会で遠巻きから大声で噂されることはあっても、真正面から罵倒されたのは初めてだったし、悪意を向けられるのには慣れない。でもリリー先生に頼まれたし。それになんだか気になって」
あの夜、罵倒してきたバーバラの表情は今もすぐに思い出すことができる。
言葉ほど、表情は凶悪ではなく、戸惑っているように見えた。
「物好きですねぇ」
リンダはため息交じりに呟いた。
屋敷に帰ると、さっそくバーバラ宛に手紙を書き、訪問したい旨を伝えた。
すぐに返事が返ってきて、翌週ストナン伯爵邸を訪問することになった。
ストナン伯爵邸のタウンハウスは王都の北にあった。
門を入るときれいに整備された庭が続き、赤茶色のレンガに白い窓枠がかわいらしい邸宅が見えてくる。
出迎えた執事の案内に従って歩いて行く。
内装や調度品は白を基調としていて、洗練された雰囲気だ。
出迎えにきたバーバラは怪訝そうな顔をしていた。
罵倒した相手が訪ねてきたのだ、怪しんでいるのだろう。
お茶の用意を終え侍女が出て行くと、部屋には私とバーバラと2人きりになった。
ちょうど喉が渇いていたので、ひと口お茶をいただく。
口に含むと、爽やかな柑橘系の香りが広がった。
「どういったご用件かしら?クープマン公爵令嬢」
焦れた様子でバーバラが話を切り出してきた。
「エレノアで結構よ。私もバーバラとお呼びしても?」
微笑んで伝えると、バーバラは面食らって戸惑い、うなずいた。
バーバラは話を促すようにこちらを見ている。
私は内心困っていた。
リリー先生の話を聞き、勢いに任せてバーバラに会いに来てしまったけれど、何を話すか決めていなかったのだ。
時間は何日もあったのに、その場の雰囲気で話せばいいと、当日の自分(つまり今の自分だ)に丸投げしていた。
けれど今、何も浮かばない。
話題を見つける時間を稼ぐため、もう1度紅茶に口をつけた時、応接室の扉が開き2人の女性が入ってきた。
珍しいプラチナブロンドが目を引く貴婦人と、彼女に似た私たちと同世代の少女。
身なりや背格好から考え、ストナン伯爵夫人とバーバラの妹・ネリーだろうと見当をつけた。
「屋敷が匂うので、異臭のもとを探りに来たら、この部屋だったわ。卑しい血の入った下賤な者が貴族面して乗り込んでくるなんて、このストナン伯爵家がどれほど由緒正しい家か知らないようね。先先代の時代なら、屋敷に足を踏み入れた瞬間、八つ裂きにされていたわ」
ストナン伯爵夫人と思われる人物は、応接室に入ってくるなりこちらを睨み付け、話しだした。
声はこちらに届いている。
「全くですわね。類は友を呼ぶというのは本当でしたのね。下賤な者は下賤な者同士つるむのですわ。ハンス様がおかわいそう。由緒正しいジョリバック家がお父様の気まぐれで汚されてしまうなんて」
ネリーと思われる少女は、殺意のこもった目でバーバラを睨み付けていた。
バーバラは2人が入ってきてから、感情のない表情で正面を見つめている。
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