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 そもそも王太子殿下には、有力な婚約者候補がいる。
 正式に発表されていないだけで、子供の頃から相思相愛。
 ほとんど決まっているようなものなのだ。

 今更私などが参戦してどうにかなるとは、とても思えない。

 政治的な思惑が絡んでのことか。
 父も嬉しそうな顔はしておらず、苦渋の決断と言うことが表情から見て取れた。

 そうか!
 ここ何代か使われていない制度だけれど、王位継承権第三位までの方々は、重婚が可能だ。
 望めば何人でも妻を持てる。
 歴史的にも3人のお妃様を持つ王や、婚外子を持つ王もいた。

 おそらく父の狙いは私に第二夫人以下のポジションを狙わせて、あわよくば子供をもうけさせ、将来はその子をこの家の跡取りにしようというものだろう。

 我がターガリウス公爵家も建国時の王の異母弟殿下が臣下に下り、公爵位を賜ったことから始まる。

 父のお眼鏡にかなう婿が見つからなかったので、自分で1から調教できる子供を求めているということかもしれない。
 我が親ながら恐ろしい。

 
 父に呼び出されたこともあり、王宮に着いたのは予定よりやや遅れた時刻だった。
 今日が王宮で開催される今季最後の夜会である。
 
 今日私は光沢のある絹を使った、落ち着いたミントグリーンのドレスを選んだ。
 腰までは体のラインにぴったりと沿ったベアトップで、腰から大きく広がるデザインになっている。
 大きな1枚の絹を贅沢に使った一品でとても気に入っている。

 すっかり慣れてしまったけれど、黄金をふんだんに使い、歴代の宮廷画家たちが装飾を施した大広間は、部屋全体が芸術品と言っても過言ではない。
 豪華絢爛な造りになっている。

 集まった人々の煌びやかな装いや、大きなシャンデリアと相まってキラキラと輝いて見える。


 会場を見渡すと仲良しの顔を見つけた。
 挨拶をしに近づいていくと、幼馴染の公爵令嬢ルイーザが満面の笑みで迎えてくれた。
 私たちは共に王女殿下のお話し相手として、子供のころから仲良くしている。

 詳しい因縁は知らされていないのだが、父はルイーザの家、エヴァンワーズ公爵家をライバル視しているようで、私をルイーザの対抗馬として王宮に出仕させたらしい。

 しかし私たちは父の思惑とは裏腹に、仲良しになってしまった。

 彼女こそ、王太子殿下の婚約者候補筆頭であり、王太子殿下大好き人間でもある。

 今日のルイーザは、絹のチュールを幾重にも重ねてふんわりとさせたベビーピンクのドレスを着ている。
 彼女のかわいらしくも華やかな雰囲気が、より一層引き立てられ、とてもよく似合っていた。


 「結婚が決まったのでしょう?」

 開口一番のルイーザのセリフから、エヴァンワーズ公爵家の情報の早さを思い知らされ舌を巻いた。
 私も4時間前に知らされたばかりだというのに、もうルイーザに情報が届いている。
 敵に回したくない相手だ。

 「決まったというか、決まってないというか?」

 私としても良く分からない。
 決まってはいないよね。

 ただ、私の結婚相手について、今日初めて具体的な個人名を父から告げられた。
 私の結婚について我が家の方針は決まり、父もその方向で動くことは決定したと言えるだろう。

 とやけに嬉しそうだけれど、ルイーザはいいのだろうか。
 私も王太子殿下を狙うのだから、ライバルになってしまう。

 親友同士で第1夫人と第2夫人ってどうなの?
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