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私は、母という力強い味方に勇気をもらい、最後の一押しをしようと父の方を見た。
ところが、父の顔が先ほどと変わっていた。
悪い方に。
「あの、お母様もこうおっしゃってますし、アレックス様と結婚していいですよね」
「だめだ」
あと一歩というところまで来ていたはずなのに、なぜか父の態度は硬化していた。
「何故なんですか、お父様。理由を説明してください」
「グレッグ、さすがにひどいわよ。断る理由なんて何一つないじゃないの!」
グレッグとは父のことだ。
母も加勢してくれて、父を責める。
「わからないのか、パトリシア」
パトリシアとは母の名だ。
風向きがおかしな方向になった。
私はしばらく2人を見守ることにした。
「えぇ、分からないわね。エミリアは大好きな人と結婚出来る、彼は優秀だから我が家の将来も安泰。何がダメなの」
母はうんざりしたように、父をなじっている。
「エヴァンワーズ家の人間だ」
父は呟いた。
「どんな悲惨な過去があったのか私は知らないわ。でも若い2人が幸せになって両家の新しい歴史を作ってくれるはずよ」
意外なことに、母もなぜ父がエヴァンワーズ家を目の敵にしているのか知らないらしい。
「君はそういうと思っていたよ、パトリシア。大好きなエドガーと親戚になれるし、エドガーの若い頃にそっくりな男が義理の息子になるのだから」
えー、何それ知らなかった。
お気楽に生きてきてそうな母だけど、アレックス様の父である、現エヴァンワーズ公爵エドガー様に恋をしていた過去があったらしい。
今父と結婚してるってことは、失恋したんだろうな。
私は興味津々で、邪魔にならないよう話を聞いていた。
そしてアレックス様はお父様に似ているらしい。
エドガー様はお腹も出てないし、頭もふさふさなので私は胸をなでおろした。
「何を言っているのか分からないわ、グレッグ」
母は今までの勢いをなくして、戸惑っている様子だ。
「君はいつもエドガーのくじを引いていて、私のくじを引いたことなんて一度もなかったじゃないか」
父は寂しそうにつぶやいた。
なるほど。
父もかつては近衛騎士団の3番隊隊長として活躍していた過去がある。
その時母は父のくじを引かずに、エドガー様のくじを引いていたと。
つまりその頃の母は、エドガー様推しだったということだろう。
「グレッグ、そんなことを気にしていたの」
母は父に近づいて父の手を握った。
「エドガーが結婚して、傷心の君は私の申し出を泣く泣く受け入れた」
「ねぇ、グレッグ。私は外国人でしょう。あの頃は外務大臣に就任した父に連れられて、この国の社交界に出たばかりだった。だから、この国のくじ引きのシステムがわからなかったのよ。カンデスにはなかったの。それでお友達になった方が私の分もくじを引いてくださっていたの。私は全て彼女にお任せして、彼女が持ってきてくれたくじをいつも受け取っていた。私は思っていたわ。当選するのは1番隊隊長だけど、本当は3番隊隊長がいいのになって。どうして3番隊隊長のくじが当たらないのかしらって」
俯いていた父は顔を上げて、母を見ている。
「そのお友達は3番隊隊長のことが好きだったらしいわ。だから彼女と私がかぶらないように私のくじを1番人気の隊長のものにしていた。今となっては過去のことだけれど、あの頃に戻れるなら、私は3番隊隊長のくじを引き続けるでしょうね」
父の顔が嬉しそうに輝いた。
両親は見つめ合い、2人の世界に入っていこうとしている。
私は咳払いをした。
「私の結婚許してくれますね」
良い雰囲気のところ悪いけど、それだけは確認しておかなければならない。
「承諾の返事をしておくよ。あとはお前が決めなさい」
私は父から、待ち望んでいた答えを引き出すことに成功した。
再び両親がイチャイチャし出したので、私は部屋から出た。
ところが、父の顔が先ほどと変わっていた。
悪い方に。
「あの、お母様もこうおっしゃってますし、アレックス様と結婚していいですよね」
「だめだ」
あと一歩というところまで来ていたはずなのに、なぜか父の態度は硬化していた。
「何故なんですか、お父様。理由を説明してください」
「グレッグ、さすがにひどいわよ。断る理由なんて何一つないじゃないの!」
グレッグとは父のことだ。
母も加勢してくれて、父を責める。
「わからないのか、パトリシア」
パトリシアとは母の名だ。
風向きがおかしな方向になった。
私はしばらく2人を見守ることにした。
「えぇ、分からないわね。エミリアは大好きな人と結婚出来る、彼は優秀だから我が家の将来も安泰。何がダメなの」
母はうんざりしたように、父をなじっている。
「エヴァンワーズ家の人間だ」
父は呟いた。
「どんな悲惨な過去があったのか私は知らないわ。でも若い2人が幸せになって両家の新しい歴史を作ってくれるはずよ」
意外なことに、母もなぜ父がエヴァンワーズ家を目の敵にしているのか知らないらしい。
「君はそういうと思っていたよ、パトリシア。大好きなエドガーと親戚になれるし、エドガーの若い頃にそっくりな男が義理の息子になるのだから」
えー、何それ知らなかった。
お気楽に生きてきてそうな母だけど、アレックス様の父である、現エヴァンワーズ公爵エドガー様に恋をしていた過去があったらしい。
今父と結婚してるってことは、失恋したんだろうな。
私は興味津々で、邪魔にならないよう話を聞いていた。
そしてアレックス様はお父様に似ているらしい。
エドガー様はお腹も出てないし、頭もふさふさなので私は胸をなでおろした。
「何を言っているのか分からないわ、グレッグ」
母は今までの勢いをなくして、戸惑っている様子だ。
「君はいつもエドガーのくじを引いていて、私のくじを引いたことなんて一度もなかったじゃないか」
父は寂しそうにつぶやいた。
なるほど。
父もかつては近衛騎士団の3番隊隊長として活躍していた過去がある。
その時母は父のくじを引かずに、エドガー様のくじを引いていたと。
つまりその頃の母は、エドガー様推しだったということだろう。
「グレッグ、そんなことを気にしていたの」
母は父に近づいて父の手を握った。
「エドガーが結婚して、傷心の君は私の申し出を泣く泣く受け入れた」
「ねぇ、グレッグ。私は外国人でしょう。あの頃は外務大臣に就任した父に連れられて、この国の社交界に出たばかりだった。だから、この国のくじ引きのシステムがわからなかったのよ。カンデスにはなかったの。それでお友達になった方が私の分もくじを引いてくださっていたの。私は全て彼女にお任せして、彼女が持ってきてくれたくじをいつも受け取っていた。私は思っていたわ。当選するのは1番隊隊長だけど、本当は3番隊隊長がいいのになって。どうして3番隊隊長のくじが当たらないのかしらって」
俯いていた父は顔を上げて、母を見ている。
「そのお友達は3番隊隊長のことが好きだったらしいわ。だから彼女と私がかぶらないように私のくじを1番人気の隊長のものにしていた。今となっては過去のことだけれど、あの頃に戻れるなら、私は3番隊隊長のくじを引き続けるでしょうね」
父の顔が嬉しそうに輝いた。
両親は見つめ合い、2人の世界に入っていこうとしている。
私は咳払いをした。
「私の結婚許してくれますね」
良い雰囲気のところ悪いけど、それだけは確認しておかなければならない。
「承諾の返事をしておくよ。あとはお前が決めなさい」
私は父から、待ち望んでいた答えを引き出すことに成功した。
再び両親がイチャイチャし出したので、私は部屋から出た。
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