後宮に入りましたが、旦那さんが来ないので恋人を探します

国湖奈津

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私が逃げ出そうと思ったのには訳がある。
私には逃げられそうな心当たりがあるのだ。

ここが後宮だとするなら、きっと緊急時用の脱出口が用意されているはずだ。
そして私はカーン王子からもらった指輪を今も首に下げている。

私の予想が確かなら、この指輪はここでも使えるはずだ。
あとは場所を見つけるだけ。

今までは国と国との間に紛争が発生し、人質として囚われていることを考慮して、逃げ出そうとは考えていなかった。
人質の私が逃げだしたら、リナレイに迷惑がかかるかもしれないからだ。

でも今は「好きにしろ」と言われた身の上だ。
好きにさせてもらおうじゃないか。

カーン王子の後宮では、漆喰の壁の中に最初のポイントがあった。
でもこの部屋は壁も床も天井も全てタイルで覆われている。

私はタイルを1つ1つ押してみた。
おそらく、寝室のどこかに抜け穴があると思うので、私は重点的に寝室の壁を押した。

カーン王子の宮でも周囲と全く変わらない壁の中に最初のポイントがあった。
私は根気強く壁を押した。

小一時間力を込めて部屋のタイルを押し続けて、へこむタイルを見つけた。
私はそのタイルをさらに力を込めて押した。これが結構力を使う。

次は床のタイルに穴の開いているものがあればそこに指輪を入れて持ち上げればOKのはず。
私は床に注目した。
これがなかなか見つからなかった。
アクラムに掃除道具を持ってきてもらい、掃除をしながらやっと見つけることができた。

床の穴はタイルの目地に開いていた。
目地にホコリがたまり、穴が見えずらくなっていて見つからなかったようだ。

私が首に下げていた指輪を穴に入れると、思ってた通りぴったりで、床を持ち上げることに成功した。


緊急時用通路は10年間使われていなかったようで、蜘蛛の巣が張っていたし、何せ暗いし怖かったけれど、翌日、私は通路から外に出た。

通路の最後は梯子がかかっていて、梯子を上るとそこは家の中だった。
庶民的な狭い家で、大きな唐櫃だけが置いてあった。

開けてみると中には着古した服が入っていた。
全て男性用だ。

余裕があればここで着替え、身分を隠して外に出られるよう工夫がされているようだ。
その日はいったん帰って、脱出計画を考えた。


「アクラム、私は明日から一か月、日中独りで過ごさなければならないの。リナレイの慣習でね。なので朝食の時に昼食の分も持ってきてほしいのだけど、頼める?」

「かしこまりました」

「それから日中は人と話すこともできないから、部屋には来ないでほしいの。お願いね」
「はい」

私は外で働いてお金を稼ぎ、ワディーナ州のカーン王子の宮まで帰ろうと考えついた。


あのお風呂が気に入ってるからもう少しここにいたいというのもあるし、一度も働いたことがないからこの機会に働いてみたいという気持ちもある。

ここで与えられた服や宝石を換金するという方法も考えたけれど、ここに来た時、私は何も持っていなかった。
スワイマン殿下に借りを作るのは嫌だ。

計画通りお金を貯めてカーン王子の宮に帰りついたら、今度こそカーン王子に恋人を見つけてもらい、幸せな生活を送るのだ!
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