子を奪われた王大子妃は王女に転生して復讐を誓うことにした

獄○○に封印された人

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第一話 突然に

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 ――レオン
 そう名付けた私の子は、青色の瞳を輝かせながら微笑んでいた。
 頭を撫でれば、嬉しそうにキャッキャと声をあげる。
 私は24歳にして授かった初めての子が愛おしくて堪らなかった。 
 ずっと傍に居続けたいと思った。

 ……それなのに。

 ***

「アンジュレアは子が出来ないのだから譲ってやってもいいだろう」
「お願いします、リリネット様!」

 産後の重い体を引きずりながら来客を迎えると、そこには目を腫らした女と、私の夫――ヒトリ王子がいた。
 ヒトリの左腕にしがみつき、嗚咽を漏らしながら号泣する女。
 糸がほつれ、あちらこちらに染みがある汚いドレスを身にまとった彼女は、「子が欲しい」とかすれ声でつぶやき続ける。

「ヒトリ様、これはどういう……」
「見てわからないのか?! アンジュレアがお前の子を譲ってほしいと頼んでいるのだ」

 意味が分からなかった。
 何故、我が子を他人に譲る母親がいると思ったのか。
 それに、何故ヒトリ王子がアンジュレアという女子おなごの意見に同調していることも信じられない。
 
「お、お願いします! わ、わ、私は子が欲しくて欲しくて堪らないのです!」
「私の子をあなたにあげたりしないわ」
「そ、そんな……お、王大子妃なのだからいいじゃないですか!」

 なんだこの馬鹿な女は。
 確かに私は王太子妃である。
 だがそれが子を奪う理由にはならない。
 私はアンジュレアの馬鹿っぷりに思わずため息をついた。    

「ふざけるなリリネット! 何故そんな強情なのだ? レオンをアンジュレアに譲ることくらいで騒ぎやがって」
「そ、そ、そうよ! ヒトリ王子様が言うのだから……」

 異常なまでにアンジュレアの意見に賛同するヒトリ。
 そしてそれをうたい文句に私のレオンを奪おうとするアンジュレア。
 まさか二人は…… 

「そこまで汚い女だとは思わなかったよ、リリネット。お前がアンジュレアにレオンを渡したら、僕も離婚などはしなかったのになぁ……」
「――っ!」

 前々から行動と発言がかみ合っておらず、もしかしたら他の女を抱いているのかもしれないとヒトリを疑ったこともある。
 だが自分を愛してくれる男性にそんな邪念を募らせてはいけないと、私はヒトリのことを信じる努力をしていた。
 ――私が身ごもった時も、笑顔で心から祝福してくれていたのに。
 ――レオンが生まれたとき、初めての子の誕生に涙を流していたのに。

「すべて、偽りだったのですね」

 私が言葉を終えると、屋敷内が沈黙に包まれた。
 アンジュレアは今にもレオンを欲しそうに私に上目遣いをする。
 私は憎たらしくて堪らなかった。
 ――人の夫を奪い、挙句の果てに子まで横取りすることに対して何ら罪悪感を抱かないアンジュレアが。
 ――婚期を逃した私を甘い言葉で誘い、子まで作らせ離婚を迫るヒトリが。

「なんだその言葉は! 何が偽りだ! 僕はお前を幸せにしてやったんだぞ?!」
「ひ、ヒトリ王子様は優しいお方なのに……どうしてリリネット様はそんなことを言うのです」

 数十秒の沈黙を破ったのは、ヒトリだった。 
 そしてその隣でヒトリを庇い、涙でぐちゃぐちゃの顔で怒りの表情を作るアンジュレア。
 
「……分かった、もういい。衛兵! リリネットの部屋にいる赤ん坊を連れてこい!」

 私が二人に反論しようとした瞬間だった。
 衛兵を動かせる権力を持つヒトリが怒りに満ちた顔で叫び、屋敷の外から10人ほどの衛兵がなだれ込んでくる。

「――やめてっ!」

 自分の子を奪わないで、自分の大切なものを横取りしないで。
 そんな思いを胸に、私は無我夢中でレオンを守ろうと自室に走る。
 何度階段でこけそうになっても、必死に足を動かした。
 
「っ! 痛えなぁ!」

 母性本能が働き、私はゆりかごの中にいるレオンに手を伸ばそうとする衛兵を咄嗟に突き飛ばした。
 突然の事にレオンは驚き泣き声をあげる。

「どけ!」
「やめっ――!」

 ――だが案の定、産後の身体であることもあり私は衛兵たちに押しのけられてしまう。
 アンジュレアたちへの憎悪とレオンを奪われることへの悲しさから私は理性を失っていた。
 

「離して! お願い! 私の子よ!」
「黙れ! ヒトリ王子様の命令に逆らう気か?!」

 撤退しようとする衛兵の最後尾にいる男に私はしがみつき、懸命にレオンを返すことを要求した。
 けれどもそんな私の願いは届かず、男は私を振り払って列に戻っていった。

「どうして……? なぜなの……? う、うぅぅぅ……ああああああああああああ!」

 私の大きな泣き声が、屋敷中に響いた。 
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