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第二話 離婚宣言
しおりを挟む「リリネット王太子妃様の噂、お聞きになって?」
「ええ、聞きましたわ。お可哀想に、初めての子をアンジュレアとかいう下級令嬢に奪われたようで……」
庭園で紅茶を飲みながら言葉を交わす貴婦人たち。
私は彼女らに見つからないよう、慌てて葉っぱの造形ツリーに身を隠す。
「なんでもヒトリ王太子は、そのアンジュレア子爵令嬢に気移りしたようですわよ……」
「まあっ、王太子の気を惹くとは、なんと汚い女なの?」
「アンジュレアの実家は代々貧乏で、舞踏会のドレスすら用意できなかったそうよ」
「そんな女がヒトリ王太子をたぶらかすなんて……」
ああ、やっぱり。
ヒトリのアンジュレアの庇いようは異常だった。
やはり気移りしていたのか。
と自分でも分かっているのに憎しみと悲しみで体中が震える。
「けれども、もしアンジュレアとヒトリ王太子の間に子が出来てしまったらリリネット様のお子――レオン様はどうなるのかしら?」
「当然疎まれるでしょうね、今でこそアンジュレアはレオン様の事を可愛がっているけれど、やはり実の子の方が可愛いでしょう」
貴婦人たちの言葉一つ一つが、私の胸に突き刺さる。
アンジュレアとヒトリの互いに大切にしあっている態度を見ると、じきにアンジュレアは身ごもる。
そんな確信が私の中にあった。
そうなれば、レオンはアンジュレアにとって邪魔者となってしまう。
「それより……ヒトリ様のリリネット様への愛情が冷めているのなら、廃妃となる可能性も否めないわね……」
「いえ、もうすでにヒトリ様はリリネット様との離婚を考えている噂があるわよ」
「そうなれば……未来の王妃はアンジュレアになるってこと?! あのような小娘に?」
婦人たちが怪訝そうな顔でケーキを口に運ぶ。
彼女らにとっては、王太子妃が変わることなど話のネタにしかすぎないだろう。
今でこそアンジュレアを見下しているが、彼女が王太子妃になれば自然と服従する。
そうなれば私は……なんの身分も持たない女となってしまう。
「お前らは噂が好きなようだな」
「っ! ヒトリ王太子様!」
突然自分たちの目の前に現れた――ヒトリ王太子に貴婦人たちは跪いた。
権力のある者に従う彼女らはいずれ、ああやってアンジュレア”王太子妃”にも従うのだろう。
「まあいい、お前らは自分たちの話が盗み聞きされているのを知っていたか?」
「どういうこと……でしょう?」
一瞬の間に、ヒトリ王太子は陰に隠れている私のほうを指さした。
「ぅ……!」
私は思わず傍のツリーにもたれかかった。
まさか見つかるとは思っていなかったのに。
ただ、私の事がどう噂されているか知りたかっただけなのに。
そんな驚きと悲しみが私の心の中にあふれかえる。
「あの王太子妃がこんな汚い真似をするとはなぁ、ははははは」
ヒトリ王太子はケラケラと笑い出した。
まるで私を”馬鹿でまぬけな女”と嘲笑っているように。
「王太子妃として相応しくない行動をとってしまい、誠に申し訳ございません」
……子を奪われた怒りの言葉を飲み込みながら、私はヒトリ王太子に近づき跪いた。
身分の高い者には、必ず従わなければならない。
それは、この上流階級の世界で生きていくための常識である。
「リリネット、貴様は自分が王太子妃だと思っているのか?」
「それはどういうことでしょうか」
貴婦人たちの顔色が変わった。
互いに顔を見合わせながら、私を哀れんだ目で見ている。
「リリネット、貴様は我が妻アンジュレアに無礼を働いた! よって、離婚を言い渡す。そして今日より王太子妃の身分を剥奪する!」
「ひ、ヒトリ王太子様?! 何故? 何故ですか!」
あまりにも突然の離婚宣言に一人の婦人が紅茶カップを落とし、粉々に割れたカップの破片が石畳に広がる。
私は、二度目の絶望感によりその場に立ち崩れた。
初めての子を奪われ、王太子妃の座も剥奪された。
私が何をしたというのだろう。
私がアンジュレアに無礼を働いた?
あの状況で動揺しない母親がどこにいるというのだろう。
「私は……」
涙など枯れて出なかった。
ただ、激しいアンジュレアたちへの憎悪がみなぎり、唇を強く、強く噛みしめた。
口内に血が広がり、痛みが体中を巡る。
ああ、そうだ。
そうだったんだ。
誰も助けてはくれない。
私は誰にも愛されていない。
どうでもいい。
私は王太子妃ではない、利用価値がない、ただの女なのだ……
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