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第三話 来訪者
しおりを挟む「さっさと王太子妃の座をアンジュレアに譲ることだな」
ヒトリ王太子はそう言って私を一瞥し、花の香りが漂う庭園から去っていった。
石畳の床に手をつき口から血を流す私を見て、貴婦人たちはヒソヒソと話しながら私から離れていく。
唐突なる離婚宣言に憎悪を募らせている私がいつ怒りを爆発させるか分からないと感じ取ったからだろう。
だがたったいまの離婚宣言で正式に離婚をしたわけではない。
王族の離婚・結婚は貴族議会で決められることとなっている。
それまで私は”王太子妃”なのだ。
「離婚が決定するまで・・・・・・あと十日ほど。それまでにどうにかしてアンジュレアの信頼を失わせないと」
次の貴族議会は十日後。
少なくとも私は今は王太子妃である。
できれば権限があるうちに周りの人間のアンジュレアへの信頼を無くさなければ。
***
「リリネット王太子妃様に面会を申し入れている者がおります」
その日の晩、私の自室に来訪者が訪れた。
護衛の近衛騎士が連れてきたのはーーアンジュレア。
私の子であるレオンを胸に抱きかかえて、笑顔で微笑んでいる。
「お久しぶりでございますっ! リリネット王太子妃様」
元気に挨拶をした彼女は、勝手に近くのソファに座った。
レオンはすやすやと熟睡している。
ーーもう、実母である私のことなど忘れてしまったのだろうか。
「こちらこそお久しぶり。今宵は何用で私の部屋に来たのですか?」
「え、いやいや。そんな大きな用事はありませんよ! とりあえず、少しばかり大きくなったレオンを見せに来てあげたかっただけです。だって~実母でしょう?」
部屋に沈黙が漂う。
この常識はずれで傍若無人な女を、何故ヒトリ王太子は好いてしまったのだ。
そして、ヒトリ王太子はアンジュレアを取り私を捨てた。
唯一の心の支えとなったであろうレオンも、アンジュレアに略奪された。
「・・・・・・わざわざ足を運んでいただいてありがとう。
けれども、レオンは貴女の子よ。私に見せる必要などないわ」
違う、違う。
本当はアンジュレアの子になってしまったレオンを見たくないだけだ。
母親としての愛情はある、だが今更レオンは私のもとに帰ってこない。
レオンの顔を見るたびアンジュレアに対する憎しみと羨ましさがこみ上げてくる。
アンジュレアがいなければ、今頃私が抱きかかえていたというのに。
「いいのですよっ! ほら、どうぞっ!」
そんな私の意見を無視し、アンジュレアはレオンを私に差し出してきた。
傍若無人な、他人の心を尊重しない女は、私に向かって微笑んでいる。
ーーふぇぇぇぇぇぇん・・・・・・ほぎゃぁぁぁぁぁぁ!
次の瞬間、アンジュレアの手に乗っているレオンが泣き叫んだ。
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