罪の在り処

橘 弥久莉

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第三章:見えない送り主

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 「おまたせしました。いつものカフェ・
トロピカーナとハムとチーズのホットサンド
ね。って、あら、今日は何の話をしてるの?」

 僕の前にグラスと皿を並べると、岬さんは
空いてる席に腰掛ける。僕とマサがこの店で
会うときは、必ずと言っていいほど岬さんも
話に首を突っ込むのだ。

 岬さんは過去にマサの世話になったことが
あるのだが、その時からマサの熱烈なファン
だった。僕はシュワシュワと炭酸が弾ける
ダークラム酒ベースのコーヒーカクテルで喉
を潤すと、くだんの件を掻い摘んで話した。

 「つまり、加害者家族である藤治佐奈さん
の元に差出人を偽った手紙が送られてきたか
ら、手紙が投函された地域に住む被害者遺族
が関係してるんじゃないかって、そう思って
いる訳ね?でも、その被害者遺族の人たちに
結婚して名前が変わった事実を知る術がある
のかしら?」

 岬さんが首を傾げながら、僕とマサの顔を
交互に覗く。いきなり痛いところを突かれた
僕は、腕を組み、「そこなんだよね」とボヤ
いた。

 「まあ、まったくない、とは言い切れない
けどな。偽造した委任状で戸籍謄本を引き出
されたっていう被害が実際にあるし。だが、
俺としては早川永輝が仮釈になったタイミン
グで手紙が届いたという方が気になる。仮釈
が決まると保護観察所から身元引受人に連絡
が行くんだが、その際に他言しないよう口止
めされるんだ。ま、約束は守られないことの
方が多いが、今回に限っては身元引受人であ
る早川すみれが、その情報を義妹以外に漏ら
したとも思えない」

 「手紙が届いたタイミングか。そう言われ
ると、それも気になるよな」

 マサの言葉にそう呟いた僕は、瞬間、ある
ことに思い至り、表情を止める。

 早川永輝が仮釈となった事実は、あの日、
『心のよりどころ』に参加していたメンバー
も耳にしているはずではなかったか?そして、
彼女の元にあの手紙が届いたのは、それから
間もなくのことだった。

 「どうした、吾都?」

 すぐに僕の異変に気付いたマサが、探るよ
うにじっと見つめる。

 「いや、何でもない」

 僕はたったいま浮かんだ思考を掻き消すよ
うに頭を振ると、ストローを手にし、琥珀色
と透明の二色に分かれているコーヒーカクテ
ルをガシガシと掻き混ぜた。

 「あとね、筆跡のことなんだけど」

 ずず、と一気に半分以上を飲み干した僕に、
岬さんがエプロンのポケットから手書き用の
伝票とボールペンを取り出す。そして手紙を
見ながら、例の文章をそこに書き写した。
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