Diary ~あなたに会いたい~ 

橘 弥久莉

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【運命の交差点】

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そう言い終えた途端、ゆづるはピタリと

手を止めて、目を見開いた。

初めて“名”を呼ばれたことに気付いたのだろう。

薄く唇をあけたまま、ゆっくりと

俺の目を覗き込んだ瞳は微かに揺れている。

俺は呼吸を楽にするように息を吐くと、

もう一度彼女の名を呼んだ。

「ゆづる。少し、そっちへ行っていいか?」

ピクリと彼女の肩が震えた。返事はない。

俺は、キィと音をさせて立ち上がると、

ゆづるの前に行って膝をついた。

「そんなに似ているのか?俺は…その人に」

低い声で言って、短い色鉛筆を

握りしめたままの、彼女の手を握った。

膝の上に置かれた画をちらりと見れば、

すでに、月明かりを背に浴びた“俺”が、

愛おしそうな眼差しを描き手に向けている。


愛している、愛していると------


聞こえてきそうな画だ。

けれど、果たして、その画の中にいるのは

“俺”なのだろうか?

そんなことを思って、またチクと胸が痛みを

訴えた時だった。ゆづるが口を開いた。

「似ていたり、似ていなかったり。私にも、

 よくわからないわ。でも、この画はあなたよ」

俺の胸の内を察したのか、ゆづるが微笑する。

つう、と細い指先で画の中の俺に触れると、

その指で確かめるように俺の頬に触れた。

俺は「そう」と目を細めて頷いた。

この画がほんとうに“俺”だと言うのなら……

もう、言葉にしなくても伝わっているだろう。

愛していることなど、とっくに伝わっている。

だから-------

俺はその想いを口にする代わりに、

やさしい嘘をついた。

「前にも言ったけど……俺は、その人の

 代わりになれるなら、それで構わないと

 思ってるんだ。だから、俺といて思い出す

 たびに、そんな風に謝らなくていい。

 こうやって、ゆづるといられるだけで

 俺は満足してる。だから……」

俺はそこで言葉を呑むと、

腕を伸ばしてゆづるに触れた。

互いの指が、互いを確かめるように

頬をなぞる。触れた指先から熱が伝われば、

なぜか、締め付けられるように胸が痛んだ。

本当は、ゆづるのすべてが欲しかった。

けれど、それを口にすることはできない。

いま、彼女の瞳に映る自分の“半分”は

別の男かもしれないのだ。

忘れられないその男への恋情を、

俺に重ねているだけで……

それが、俺といる理由かもしれない。

だからいまは、“心”まで望めなかった。

頬に触れていた指で、ゆづるの唇に触れる。

ふっくらとしたそれは、俺を拒まなかった。

静かに目を閉じて、ゆづるが息を止めた。

引き寄せられるように、やさしく唇を重ねれば、

それだけでふわりと甘く、唇が濡れる。

じん、と胸の奥が震えて唇を離せなかった。

俺は何度も、軽く重ね合わせるだけの口付けを

繰り返した。

ふ、と漏れたゆづるの息が、濡れた唇をくすぐった。

息苦しさで開きかけた唇を割って、舌を差し込んでも

彼女は拒まない。応えるように、ぬるりと柔らかな

それが絡みついた瞬間、体の芯が熱く震えた。

俺は深く唇を重ねたまま、ベッドに手をついて

ゆづるを押し倒した。

ふたりの体が羽毛布団の中に沈む。

沈んだ、その時だった。

コロコロと乾いた音を立ててベッドから

数本の色鉛筆が落ちた。

はっ、とキスを止めてゆづるが目を見開く。

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