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第三章:嘘をつく理由
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あらためて考えてみれば、それはやはり、愛人とか、
略奪愛とか、そういう類の話になるわけで……
蛍里にとってはとんでもない話だった。
けれど、昼間見た専務の顔も頭から離れない。
(もしかして他に、心に想う方がいるんですか?)
そう訊いてしまった時の、寂しげなあの笑みは、
息が苦しくなるほど蛍里の胸を締めつけていた。
-----もう、考えるのをやめよう。
自分には、どうすることもできないのだから。
そう、気持ちを切り替えると、蛍里はパソコンを
開いた。詩乃守人のサイトを開く。
ちらちらと、淡色の花びらが舞っている。
13作目を読んだまま、まだ感想を送っていなかった。
彼は、待ってくれているだろうか?
知らず、口元に笑みを浮かべると、蛍里はメール
フォームを開き、宛名を書いた。
-----さて、なんと書こう?
物語は、男子校で世界史を教えている女性教師が、
婚約者を持ちながら生徒と恋に落ちてしまうという、
禁断系の話だった。女性の視点で描かれたその
物語は、途中、切ない結末を予想させながら、
最後には胸が熱くなるようなエンディングを見せて
くれた。彼の綴る物語は、どれも読後感が爽やか
なのだ。蛍里は少しの間考えてから、キーボードを
打ち始めた。
“詩乃 守人様
「白いシャツの少年」、読みました。
頑なに、生徒への想いを否定していた主人公が、
彼のひたむきな愛情によって、少しずつ自分を
赦していくさまが、読んでいて共感できました。
「どうにもならない」、と始めから諦めてしまえば、
何ごとも上手くはいかないのですね。
顔合わせの席に彼が乗り込み、主人公をさらって
行くシーンは、とても胸が熱くなりました。
わたしもこんな恋がしてみたい。
詩乃守人さんの作品を読むと、
いつもそういう気持ちにさせられます。
HOTARUより”
もっとたくさん、書きたいことがあったような気も
したが、あまりに想いを全部詰め込んでしまうと
彼が重くなってしまう。蛍里はそこで送信ボタンを
押した。すっ、と画面が切り替わる。
“作品をお読みいただき、ありがとうございます。”
と、いつものメッセージが表示される。
蛍里はパソコンの電源を切り、机に突っ伏した。
数日後、彼から返事が届くだろう。いつものように、
彼らしい繊細な言葉で、蛍里の想いに答えてくれる。
-----自分の心には彼がいる。
だから、専務の顔を思い出して胸が苦しくなるのは、
きっと単なる同情に違いない。
蛍里は瞼の中の専務を消し去ろうと、努力した。
略奪愛とか、そういう類の話になるわけで……
蛍里にとってはとんでもない話だった。
けれど、昼間見た専務の顔も頭から離れない。
(もしかして他に、心に想う方がいるんですか?)
そう訊いてしまった時の、寂しげなあの笑みは、
息が苦しくなるほど蛍里の胸を締めつけていた。
-----もう、考えるのをやめよう。
自分には、どうすることもできないのだから。
そう、気持ちを切り替えると、蛍里はパソコンを
開いた。詩乃守人のサイトを開く。
ちらちらと、淡色の花びらが舞っている。
13作目を読んだまま、まだ感想を送っていなかった。
彼は、待ってくれているだろうか?
知らず、口元に笑みを浮かべると、蛍里はメール
フォームを開き、宛名を書いた。
-----さて、なんと書こう?
物語は、男子校で世界史を教えている女性教師が、
婚約者を持ちながら生徒と恋に落ちてしまうという、
禁断系の話だった。女性の視点で描かれたその
物語は、途中、切ない結末を予想させながら、
最後には胸が熱くなるようなエンディングを見せて
くれた。彼の綴る物語は、どれも読後感が爽やか
なのだ。蛍里は少しの間考えてから、キーボードを
打ち始めた。
“詩乃 守人様
「白いシャツの少年」、読みました。
頑なに、生徒への想いを否定していた主人公が、
彼のひたむきな愛情によって、少しずつ自分を
赦していくさまが、読んでいて共感できました。
「どうにもならない」、と始めから諦めてしまえば、
何ごとも上手くはいかないのですね。
顔合わせの席に彼が乗り込み、主人公をさらって
行くシーンは、とても胸が熱くなりました。
わたしもこんな恋がしてみたい。
詩乃守人さんの作品を読むと、
いつもそういう気持ちにさせられます。
HOTARUより”
もっとたくさん、書きたいことがあったような気も
したが、あまりに想いを全部詰め込んでしまうと
彼が重くなってしまう。蛍里はそこで送信ボタンを
押した。すっ、と画面が切り替わる。
“作品をお読みいただき、ありがとうございます。”
と、いつものメッセージが表示される。
蛍里はパソコンの電源を切り、机に突っ伏した。
数日後、彼から返事が届くだろう。いつものように、
彼らしい繊細な言葉で、蛍里の想いに答えてくれる。
-----自分の心には彼がいる。
だから、専務の顔を思い出して胸が苦しくなるのは、
きっと単なる同情に違いない。
蛍里は瞼の中の専務を消し去ろうと、努力した。
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