上 下
45 / 122
幕間:竜姫

41

しおりを挟む

 言うと、右京は娘を抱き上げ、つかつかと
母屋の出口へと向かう。そうして、娘を下ろ
し、くるりと部屋を振り返ると、二本の指を
口元に添え、呪文のような言葉をぼそぼそと
口にした。その瞬間、部屋中に竜巻のような
疾風が舞い起こり、それが鋭い刃となって畳
や御簾を切り裂いてしまう。その様を目の当
たりにした娘は、驚きに口を塞いだ。

 「……こっ、これは」

 「鎌鼬かまいたちを召喚したのじゃ。安心せい。主
の箏には傷ひとつつけておらん。して、主の
本当の名は何と申すのじゃ?」

 突然、名を聞かれた娘はぽかんと口を開け
たまま右京をみつめる。右京はやれやれと肩
を竦めると、娘の頬に手を添えた。

 「儂は右京じゃ。人の姿の時は村雨右京と
名乗っておる。主の名は?」

 「天音あまねと申します」

 「天音。天の音色か。主に相応しい名じゃ。
天音、人とあやかしの宿命を越えて、永遠に
添い遂げることを誓おう。儂と共に生きてく
れるか?」

 真摯な眼差しで言った右京の手に、天音は
自らのそれを重ねる。そうして一度目を閉じ
ると、再び目を開けて言った。

 「わたくしも、妻として永遠に添い遂げる
ことを誓います」

 その言葉に微笑すると、右京は妻となった
ばかりの天音の唇に、深く、甘い口付けを落
としたのだった。
しおりを挟む

処理中です...