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第四章:母のいる風景
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「うーん……おばちゃんと待ってる」
満留はにこにこと、やさしい中谷のおばさ
んの顔を思い浮かべながら答えた。
子供も孫もいないらしいおばさんは、満留
のことを「孫みたいなものよ」といって可愛
がってくれるのだ。遊びに行くと、いつも手
作りのクッキーやゼリーを食べさせてくれる。
「ねぇ満留ちゃん。お星様のクッキー焼い
たんだけど、食べてみる?」
「うん、食べる!」
ちょこんとテーブルに座って折り紙をして
いると、おばさんは決まって手作りクッキー
が入った缶を持って来てくれた。青い鳥が描
かれた可愛らしいスチール缶の蓋を開けると、
バニラの甘い香りがふわりと漂って、思わず
頬が緩んでしまう。手に取ってぱくりと口に
放り込むと、口の中でほろほろとクッキーが
崩れて、やさしい甘さが口いっぱい広がった。
「どう?美味しい?」
「美味しい!あのね、折り紙でクッキーと
同じ形のお星様作れるよ」
「本当?じゃあ、おばちゃんに作ってく
れる?」
「うん!」
満留が遊びに行くたびに折り紙をするので、
中谷さんのおばさんちにも満留の作品がそこ
かしこに飾られているのだった。
「じゃあ明日会社に行ったら、おじさんに
伝えておくね」
そう言うと母は、ぎゅっ、と満留を後ろか
ら抱き締めてくれた。満留は母の温もりと愛
情に満たされながら、一日を終えるのだった。
保育園を卒園して小学校に上がると、満留
はいままでより『タクシードライバーのお母
さん』を身近に感じるようになった。
事務所の上に住んでいることもあって、母
に通勤時間というものはない。だから朝七時
半に母と共に事務所へ下りると、車両点検を
する母の姿を車庫の前でしばらく眺めてから
登校するのが満留の日課となっていた。
事務所の隣にあるトタン屋根の車庫には、
青いラインが鮮やかな白のクラウンがずらり
と並んでいる。母と二人、車庫へ歩いてゆく
と、すでに幾人かの社員が各々車両点検を始
めていた。
「おはよう、満留ちゃん!今日もランドセ
ルが眩しいね」
先に車両点検を終えた中谷のおじさんが、
にっかり笑って白い手を振ってくれる。
――赤でもピンクでもなく。
真っ青な空に溶けるような水色のランドセ
ルは満留のお気に入りで、トレードマークで
もあった。満留は「へへっ」と得意げに笑う
と、くるりと回って水色のランドセルを
見せた。
朝の車両点検とアルコール検査、そして体
調チェックを終えるといよいよ出庫の時刻だ。
白い手袋をして母がタクシーに乗り込む時
は、いつも少しだけどきどきした。
「満留、気を付けていってらっしゃい」
「お母さんも、いってらっしゃい!」
タクシーの窓の向こうから、母が満面の笑
みを向ける。互いに「いってらっしゃい」を
言って、走り出す母のタクシーを見送ると、
満留の一日が始まるのだった。
それから授業を終え、学童に向かう途中の
歩道でも、『タクシードライバーのお母さん』
を見つけることが出来た。
母はいつも決まった場所にタクシーを止め、
学童に向かう満留を見送ってくれるのだ。
学校を出て数十メートル歩いた先の、銀杏
並木の下がその場所だった。
「まーるっ」
「おかーさん!」
友達と肩を並べて歩いていると、母が白い
タクシーの窓からにこりと顔を覗かせてく
れる。
長く綺麗な黒髪を後ろで一本に結び、紺鼠
色のパンツスーツに水色のリボンネクタイを
締める母は他の誰よりもカッコよく、働くお
母さんは満留の自慢だった。
満留はにこにこと、やさしい中谷のおばさ
んの顔を思い浮かべながら答えた。
子供も孫もいないらしいおばさんは、満留
のことを「孫みたいなものよ」といって可愛
がってくれるのだ。遊びに行くと、いつも手
作りのクッキーやゼリーを食べさせてくれる。
「ねぇ満留ちゃん。お星様のクッキー焼い
たんだけど、食べてみる?」
「うん、食べる!」
ちょこんとテーブルに座って折り紙をして
いると、おばさんは決まって手作りクッキー
が入った缶を持って来てくれた。青い鳥が描
かれた可愛らしいスチール缶の蓋を開けると、
バニラの甘い香りがふわりと漂って、思わず
頬が緩んでしまう。手に取ってぱくりと口に
放り込むと、口の中でほろほろとクッキーが
崩れて、やさしい甘さが口いっぱい広がった。
「どう?美味しい?」
「美味しい!あのね、折り紙でクッキーと
同じ形のお星様作れるよ」
「本当?じゃあ、おばちゃんに作ってく
れる?」
「うん!」
満留が遊びに行くたびに折り紙をするので、
中谷さんのおばさんちにも満留の作品がそこ
かしこに飾られているのだった。
「じゃあ明日会社に行ったら、おじさんに
伝えておくね」
そう言うと母は、ぎゅっ、と満留を後ろか
ら抱き締めてくれた。満留は母の温もりと愛
情に満たされながら、一日を終えるのだった。
保育園を卒園して小学校に上がると、満留
はいままでより『タクシードライバーのお母
さん』を身近に感じるようになった。
事務所の上に住んでいることもあって、母
に通勤時間というものはない。だから朝七時
半に母と共に事務所へ下りると、車両点検を
する母の姿を車庫の前でしばらく眺めてから
登校するのが満留の日課となっていた。
事務所の隣にあるトタン屋根の車庫には、
青いラインが鮮やかな白のクラウンがずらり
と並んでいる。母と二人、車庫へ歩いてゆく
と、すでに幾人かの社員が各々車両点検を始
めていた。
「おはよう、満留ちゃん!今日もランドセ
ルが眩しいね」
先に車両点検を終えた中谷のおじさんが、
にっかり笑って白い手を振ってくれる。
――赤でもピンクでもなく。
真っ青な空に溶けるような水色のランドセ
ルは満留のお気に入りで、トレードマークで
もあった。満留は「へへっ」と得意げに笑う
と、くるりと回って水色のランドセルを
見せた。
朝の車両点検とアルコール検査、そして体
調チェックを終えるといよいよ出庫の時刻だ。
白い手袋をして母がタクシーに乗り込む時
は、いつも少しだけどきどきした。
「満留、気を付けていってらっしゃい」
「お母さんも、いってらっしゃい!」
タクシーの窓の向こうから、母が満面の笑
みを向ける。互いに「いってらっしゃい」を
言って、走り出す母のタクシーを見送ると、
満留の一日が始まるのだった。
それから授業を終え、学童に向かう途中の
歩道でも、『タクシードライバーのお母さん』
を見つけることが出来た。
母はいつも決まった場所にタクシーを止め、
学童に向かう満留を見送ってくれるのだ。
学校を出て数十メートル歩いた先の、銀杏
並木の下がその場所だった。
「まーるっ」
「おかーさん!」
友達と肩を並べて歩いていると、母が白い
タクシーの窓からにこりと顔を覗かせてく
れる。
長く綺麗な黒髪を後ろで一本に結び、紺鼠
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