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第五章:心に留まる
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「おう、ちょうど良かった。ちょっと来て
くれへん?」
「えっ、いまですか?」
「せや」
何の用があるのか、いきなり「ちょっと来
い」と言われた満留は、狼狽した様子で妹崎
と門脇の顔を見比べる。すると、妹崎は顎の
無精ヒゲを撫でながら来て欲しい理由を述べた。
「実はな、京友祭の模擬講義でデジタルホ
ワイトボード使いたいんやけど、仕組みがよ
うわからんのよ。せやから、ちぃと、あんた
に操作の仕方を教わりたいんやけど……あか
んか?」
そう言って、ちろり、と窺うように門脇に
視線を流すので、彼は頷きながら「どうぞど
うぞ」と促すように掌を満留に向ける。その
やり取りは数秒のことで、満留は展開につい
て行けず目を瞬いてしまった。
「いいんですか?門脇さん」
「僕はぜんぜん構わないよ。これ、冷蔵庫
に突っ込んだら業務に戻るだけだし。レセプ
ションが始まる三十分前に戻って来てくれれ
ばOKだから」
「決まりやな。ほな、行こうか」
満留が「じゃあ、ちょっと行って来ますね」
と答えるより先に妹崎が頷き、ビニール袋を
手に入り口に向かってしまう。教務課を出て
行こうとする二人の背中を見ながら、満留は
思わず声を上げてしまった。
「えっ、あの、それっ」
「給湯室やろ?持ってったるわ。代わりに
あんたは二階の講義室の鍵取って来てくれへ
ん?」
「二階って、LL準備室の隣ですか?」
「せや。講義室A-四十五番」
「わかりました」
あたふたしながら答えた満留に、ひらりと
手だけを振って妹崎は門脇と出てゆく。満留
はその背中を見、マイペースな妹崎にため息
をつくと、各講義室の鍵が収められている壁
掛けのキーボックスへと急いだのだった。
妹崎が模擬講義で使用する講義室には、
七十五インチの大型デジタルホワイトボード
が備えてある。書く、映す、共有するをデジ
タル化したデジタルホワイトボードは、資料
のペーパーレス化も図れることから京山大学
では積極的に取り入れていた。けれど、ペン
や手の平で簡単に操作できる仕様でも、デジ
タル機器に慣れない教員は意外に多い。
そんな時は、教務課スタッフがサポートを
することもあるのだけれど……。教務課には
自分を含め六人のスタッフがいるのに、なぜ、
妹崎は自分を指名するのだろうか、と、満留
は廊下を歩きながら内心、首を捻っていた。
妹崎が京友祭で使用する講義室は、一般教
育棟のD棟にあり、教務課からはずいぶん
離れている。くねくねと広い校内を何となく
無言のまま歩いていると、ふいに頭の上から
声がした。
「なんや元気ないな。何考えとるんや?」
その言葉に目を見開き、満留は隣を見上げ
る。すると、思いの外やさしい眼差しが待っ
ていたので、満留は慌てて前を向いてしま
った。
「別に何も。大したこと考えてないです
けど」
そう答えて、すぐに会話のネタを探す。
ちらり、と考えていたのは隣を歩く本人の
ことだから、それを口にする訳にもいかなか
った。
満留は、また沈黙が流れてしまわないよう
に話題を探すと、口を開いた。
くれへん?」
「えっ、いまですか?」
「せや」
何の用があるのか、いきなり「ちょっと来
い」と言われた満留は、狼狽した様子で妹崎
と門脇の顔を見比べる。すると、妹崎は顎の
無精ヒゲを撫でながら来て欲しい理由を述べた。
「実はな、京友祭の模擬講義でデジタルホ
ワイトボード使いたいんやけど、仕組みがよ
うわからんのよ。せやから、ちぃと、あんた
に操作の仕方を教わりたいんやけど……あか
んか?」
そう言って、ちろり、と窺うように門脇に
視線を流すので、彼は頷きながら「どうぞど
うぞ」と促すように掌を満留に向ける。その
やり取りは数秒のことで、満留は展開につい
て行けず目を瞬いてしまった。
「いいんですか?門脇さん」
「僕はぜんぜん構わないよ。これ、冷蔵庫
に突っ込んだら業務に戻るだけだし。レセプ
ションが始まる三十分前に戻って来てくれれ
ばOKだから」
「決まりやな。ほな、行こうか」
満留が「じゃあ、ちょっと行って来ますね」
と答えるより先に妹崎が頷き、ビニール袋を
手に入り口に向かってしまう。教務課を出て
行こうとする二人の背中を見ながら、満留は
思わず声を上げてしまった。
「えっ、あの、それっ」
「給湯室やろ?持ってったるわ。代わりに
あんたは二階の講義室の鍵取って来てくれへ
ん?」
「二階って、LL準備室の隣ですか?」
「せや。講義室A-四十五番」
「わかりました」
あたふたしながら答えた満留に、ひらりと
手だけを振って妹崎は門脇と出てゆく。満留
はその背中を見、マイペースな妹崎にため息
をつくと、各講義室の鍵が収められている壁
掛けのキーボックスへと急いだのだった。
妹崎が模擬講義で使用する講義室には、
七十五インチの大型デジタルホワイトボード
が備えてある。書く、映す、共有するをデジ
タル化したデジタルホワイトボードは、資料
のペーパーレス化も図れることから京山大学
では積極的に取り入れていた。けれど、ペン
や手の平で簡単に操作できる仕様でも、デジ
タル機器に慣れない教員は意外に多い。
そんな時は、教務課スタッフがサポートを
することもあるのだけれど……。教務課には
自分を含め六人のスタッフがいるのに、なぜ、
妹崎は自分を指名するのだろうか、と、満留
は廊下を歩きながら内心、首を捻っていた。
妹崎が京友祭で使用する講義室は、一般教
育棟のD棟にあり、教務課からはずいぶん
離れている。くねくねと広い校内を何となく
無言のまま歩いていると、ふいに頭の上から
声がした。
「なんや元気ないな。何考えとるんや?」
その言葉に目を見開き、満留は隣を見上げ
る。すると、思いの外やさしい眼差しが待っ
ていたので、満留は慌てて前を向いてしま
った。
「別に何も。大したこと考えてないです
けど」
そう答えて、すぐに会話のネタを探す。
ちらり、と考えていたのは隣を歩く本人の
ことだから、それを口にする訳にもいかなか
った。
満留は、また沈黙が流れてしまわないよう
に話題を探すと、口を開いた。
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