さつきの花が咲く夜に

橘 弥久莉

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第五章:心に留まる

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 書類選考から始まり、小論文、グループ面
接、二次選考を通過した満留は、至極緊張し
た面持ちで最終面接に臨んでいた。

――広い室内にずらりと並ぶ面接官は、五人。


 想像していたよりも和やかな雰囲気だった
ものの、その中でひときわ威圧感のある空気
を放っていたのが、現在の上司である柳怜子
だ。

 きりりとひっつめたお団子ヘアに角ばった
赤色のメガネ。そのメガネの向こうから満留
を見つめる眼差しは睨んでいるようにも見え
て、思わず身体に震えがきたのを憶えている。

 けれど、他の面接官が志望動機の深掘りや、
大学業界全体の在り方なんかを訊ねる中で、
彼女だけは奇妙な質問を満留に投げかけた。

 「桜井満留さん。あなた、うちの学生じゃ
ありませんよね?」

 「はっ、はい。恵都女子大学を卒業予定
です」

 「では、ここの大学にアルバイトで来た
ことは?」

 「申し訳ありません。京山大学でのアル
バイト経験はありません」

 「そう。……ないのね」


――どうしてそんなことを訊くのだろう?


 在学中の大学名は、エントリーシートに
記載してあるはずだ。満留は書類に目を落と
したまま、口を噤んでしまった柳をじっと
見つめた。やがて、顔を上げると彼女は面接
官という本来の役割を思い出したかのように
質問を続けた。

 「では、ご自分のどんな面がこの職業に向
いていて、どんな面が仕事をする上でマイナ
スとなるか。自己分析を聞かせてください」

 「はい!」

 満留は彼女の質問に姿勢を正すと、昂然と
した顔を向け、語り始めたのだった。


――あれはいったい、何だったのだろう?


 いまさらながら、あの時のことを思い出し
た満留は笑んだままの柳を見つめる。四十半
ばと思えないほど白く滑らかな肌に、鋭角的
だけれども均整の取れた顔立ちは、見せ方を
変えれば、『美人』の部類に入るに違いない。

 「どうかした?」

 呆けたように、自分を見つめている満留に
彼女は、すぅ、と笑みを引っ込める。

 満留は慌てて「いえ」と首を振ると、会話
の最後を思い出した。が、何と答えてよいか
わからず、首を捻る。その顔を横目で捉え、
やれやれといった顔をすると、柳はキャップ
を外し、リップを塗り始めた。

 「まあこれを機に、少しは妹崎先生を意識
してみることね。逃がした魚は大きかった~
なんてことになったら悲しいでしょう?年の
割に若く見えたって、あっという間に三十路
を過ぎちゃうものなんだから」

 「……ですよね」

 年が明ければ二十七歳という現実を突きつ
けられ、満留は、あはは、と乾いた笑いをする。

 その乾いた笑いを掻き消すように四時限目の
終わりを告げるチャイムが鳴ったので、二人は
急いで化粧室を出、教務課へと戻っていった。



――結局、面接時のことを訊ねる機会はその後
も訪れることはなく、満留の記憶からも遠く薄
れていった。







 「じゃあお母さん、ちょっと行ってくるね」

 「……はい。いってらっしゃい」

 目を覚ましてはいるものの、ふわふわと夢
の中を漂っているような顔をした母にそう言う
と、満留は静かに病室のドアを閉めた。

 そうして、いつものようにランドリー
コーナーで洗濯機を回し、中庭へと向かう。
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