54 / 107
第五章:心に留まる
52
しおりを挟む「俺の家さ、こっから歩いて十五分くらい
なんだ。だから、ぱぱっ、とカレーだけ喰っ
て戻ってくればそんなに時間はかからないと
思う」
「でっ、でも、ここを離れて満くんの家に
行くなんて……。お母さんも心配だし、お家
の方に悪いし」
満留はトートバッグを抱えながら難色を示
した。満の厚意はすごく有難いし、特製ビー
フカレーは是非食べてみたい。けれどやはり、
母を残してここを離れるのは気が引けた。
「じゃあさ、お母さんに連絡してみたらど
うかな?それか、看護婦さんに伝えておくと
か。お握りとパンだけじゃ栄養偏ると思って
カレーに色んな具を入れたんだ。だから、
どうしても満留さんに食べさせたい。でっか
い鍋に作ったから、俺一人じゃ喰いきれ
ねぇし」
さて、どうしたものか?と、思案する満留
を覗き込みながら、満が言葉を並べる。その
目は縋るように真剣で、とても無碍に断るこ
となど出来なかった。
「わかった、ちょっと待って。聞いてみる」
満留はごそごそと、トートバッグの中から
携帯を取り出すと、アプリを起動した。そう
してトークの中から「お母さん」を選ぶ。
『お友達がカレーを作ってくれたらしいん
だけど、ちょっと食べに行って来ていいかな』
と、簡単なメッセージを送ると、まもなく
母から返事が来た。
『たのしんで』
という、ひと言。
数秒遅れて、ピンクのうさぎがピースをし
ているスタンプが届く。それは母が良く使う
スタンプで、満留はほっと胸を撫でおろした。
もしかしたら眠っているかも知れないと思
ったけれど、枕元に置いてある携帯の音が耳
に届いたようだ。
「大丈夫そうだな。行こうか」
満留の安堵した表情から返事を悟ったのか、
満がくるりと背を向けて歩き出す。
「えっ、ちょっと待って!」
満留は慌てて立ち上がると、遠ざかってゆく
満の背中を追いかけた。二人が中庭を通り過ぎ
る瞬間、さわ、と生ぬるい風が草木を撫でる。
満のカレーを食べたら、すぐに戻ってこよう。
そう思いながら彼の隣に追いついた満留を
見送るように、朱赤の花が揺れていた。
敷地を出て川沿いを右に歩き始めると、満
は前を向いたまま口を開いた。
「途中でコンビニ寄ってもいいかな?大通
りを出てすぐのところにあるんだけど」
「う、うん。それはぜんぜん構わないけど。
何買うの?」
ポケットに両手を突っ込んだままの満を見
上げると、こちらを向いた満と視線が重なる。
彼は年下だけれども、満留よりも頭一つ分
以上身長差がある。こうして私服の満と歩け
ば、年の差など傍目にはわからないだろう。
「満留さんはさ、カレーの付け合わせって
らっきょう派?それとも福神漬け派?」
唐突にそんなことを訊くので、満留は一瞬
答えに詰まってしまう。らっきょうも、福神
漬けも好きだけれど、母が食卓に並べるのは
いつも福神漬けだった。
0
あなたにおすすめの小説
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる