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第六章:忍び寄るもの
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母親はつん、とそっぽを向いたかと思うと、
物憂げな微笑を浮かべた。
「一泊四日のフライトから戻ったところよ。
ロスからトンボ返り。疲れてるから静かにし
てくれる?私は部屋で眠るわ」
「別に。言われなくても、騒がねーし」
ふ、と鼻で笑って満もそっぽを向く。
なんだか、その様子が子どものケンカのよ
うに見えてしまうのは、満留だけだろうか?
満留はオロオロと立ち上がったままで、
二人の顔を見比べていた。けれど、再び母親
が自分に目を向けたのでピシリと背を伸ばす。
何を言われるのだろう?と緊張した面持ち
で立ち尽くしていると母親は僅かに目を細め、
抑揚のない声で「どうぞごゆっくり」とだけ
言って部屋を出ていってしまった。満留は、
パタン、とドアが閉まった瞬間、ヘタヘタと
その場に座り込んでしまう。
張りつめた空気から解放され、安堵で腰が
抜けたようになってしまった。
「満留さん?」
慌てて満がテーブルの向かい側から駆け寄
ってくる。その顔はいつもの満のもので、満
留はようやくほっとしたように笑みを見せた。
「びっっくりしたぁ。まさかお母さんにお
会いすると思ってなかったから。緊張で心臓
が止まるかと思っちゃった」
屈託のない笑顔でそう言うと、満も苦笑い
する。一気にその場の空気が柔らかなものに
変わり、満留は差し出された満の手を取った。
「嫌な思いさせて、ごめん。本当に、帰っ
てくると思ってなかったんだ」
「ううん、ぜんぜん。お母さん、綺麗な人
だね。モデルさんみたいだった」
「そうかな?でも、感じの悪い人だったろ。
いっつもあんな感じなんだ」
『それは、満くんも同じくらい感じ悪かっ
たからじゃないかな?』とは言えず、満留は
ちろりと視線を流して小首を傾げて見せる。
万が一自分が満にあんな態度を取られたり
したら、と、想像するとツキンと胸が痛んだ。
「きっと、お母さんは心配したんだよ。
だって、私のことすごくじっくり観察してた
もん。満くんに悪い虫でもついたんじゃない
か、って警戒したんじゃないかなぁ?」
自虐的にそう言うと、満は途端に眉を寄せ
る。短めの前髪の下の整った顔立ちが、わか
りやすく不機嫌なものになった。
「なんだよそれ。満留さんが悪い虫なわけ
ねーじゃん。むしろ俺にとっては……」
そこまで言うと満は、はっ、と言い淀む。
満留が不思議に思って顔を覗くと、照れた
ように鼻筋を擦り、ふい、と目を逸らした。
「それより、カレー、すっかり冷めちゃっ
たな。レンジで温めよっか?」
「あー」
テーブルの上で冷やしビーフカレーと化し
ているそれに目をやって、満留は肩を竦める。
せっかく満が大変な思いをして作ってくれ
たのだから、出来れば美味しくいただきたい。
満留は上目遣いに口を尖らせると、こくり
と頷いた。
「うん。せっかくだから、美味しく食べた
いし、お願いしていいかな?」
「もちろん」
満は頷くと両手に皿を持ち、キッチンへと
向かった。満留はラップを皿にかけ始めた満
を視界の隅に捉えながら、なんとなく部屋の
中を散策し始める。
後ろで手を組み、ゆるりとテレビの横にあ
るキャビネットに近づくと、可愛らしいそれ
らを眺めた。
物憂げな微笑を浮かべた。
「一泊四日のフライトから戻ったところよ。
ロスからトンボ返り。疲れてるから静かにし
てくれる?私は部屋で眠るわ」
「別に。言われなくても、騒がねーし」
ふ、と鼻で笑って満もそっぽを向く。
なんだか、その様子が子どものケンカのよ
うに見えてしまうのは、満留だけだろうか?
満留はオロオロと立ち上がったままで、
二人の顔を見比べていた。けれど、再び母親
が自分に目を向けたのでピシリと背を伸ばす。
何を言われるのだろう?と緊張した面持ち
で立ち尽くしていると母親は僅かに目を細め、
抑揚のない声で「どうぞごゆっくり」とだけ
言って部屋を出ていってしまった。満留は、
パタン、とドアが閉まった瞬間、ヘタヘタと
その場に座り込んでしまう。
張りつめた空気から解放され、安堵で腰が
抜けたようになってしまった。
「満留さん?」
慌てて満がテーブルの向かい側から駆け寄
ってくる。その顔はいつもの満のもので、満
留はようやくほっとしたように笑みを見せた。
「びっっくりしたぁ。まさかお母さんにお
会いすると思ってなかったから。緊張で心臓
が止まるかと思っちゃった」
屈託のない笑顔でそう言うと、満も苦笑い
する。一気にその場の空気が柔らかなものに
変わり、満留は差し出された満の手を取った。
「嫌な思いさせて、ごめん。本当に、帰っ
てくると思ってなかったんだ」
「ううん、ぜんぜん。お母さん、綺麗な人
だね。モデルさんみたいだった」
「そうかな?でも、感じの悪い人だったろ。
いっつもあんな感じなんだ」
『それは、満くんも同じくらい感じ悪かっ
たからじゃないかな?』とは言えず、満留は
ちろりと視線を流して小首を傾げて見せる。
万が一自分が満にあんな態度を取られたり
したら、と、想像するとツキンと胸が痛んだ。
「きっと、お母さんは心配したんだよ。
だって、私のことすごくじっくり観察してた
もん。満くんに悪い虫でもついたんじゃない
か、って警戒したんじゃないかなぁ?」
自虐的にそう言うと、満は途端に眉を寄せ
る。短めの前髪の下の整った顔立ちが、わか
りやすく不機嫌なものになった。
「なんだよそれ。満留さんが悪い虫なわけ
ねーじゃん。むしろ俺にとっては……」
そこまで言うと満は、はっ、と言い淀む。
満留が不思議に思って顔を覗くと、照れた
ように鼻筋を擦り、ふい、と目を逸らした。
「それより、カレー、すっかり冷めちゃっ
たな。レンジで温めよっか?」
「あー」
テーブルの上で冷やしビーフカレーと化し
ているそれに目をやって、満留は肩を竦める。
せっかく満が大変な思いをして作ってくれ
たのだから、出来れば美味しくいただきたい。
満留は上目遣いに口を尖らせると、こくり
と頷いた。
「うん。せっかくだから、美味しく食べた
いし、お願いしていいかな?」
「もちろん」
満は頷くと両手に皿を持ち、キッチンへと
向かった。満留はラップを皿にかけ始めた満
を視界の隅に捉えながら、なんとなく部屋の
中を散策し始める。
後ろで手を組み、ゆるりとテレビの横にあ
るキャビネットに近づくと、可愛らしいそれ
らを眺めた。
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