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エピローグ
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しおりを挟む――キッ。
白いタイル張りの公民館の駐輪場に自転車
を停めると、俺は前カゴから菓子が詰まった
ビニール袋を取り出した。それをひょいと肩
に背負い、建物へ向かう。
『休んでるところ悪いんだけど、生徒さん
に出してあげるお茶菓子、テーブルに置いて
きちゃったのよ』
そう、婆ちゃんから電話が来たのはほんの
少し前のことで、自宅から自転車をすっ飛ば
して来れば、ぽかぽかと暖かな春陽が駐車場
の白線を照らしていた。
入り口をくぐり、やや薄暗い建物内に入る
と、俺はホールの中央にある階段を上った。
休日の公民館は、さまざまな講座や体験講
習が開かれていて、それほど広くない施設内
は賑わっている。二階の廊下を幾人かの人と
すれ違いながら手芸教室が開かれている和室
へ向かうと、ふいに廊下の窓から爽やかな風
が吹き込んできた。その風と共に足元にひら
りと紙が舞い落ちる。
――公民館のチラシか何かだろうか?
そう思いながら紙を拾い上げると、それは
一枚のピンクの折り紙で、すぐにパタパタと
足音が聞こえてきた。顔を上げれば、つぶら
な瞳をした可愛らしい女の子が立っていて、
俺は黙ってそれをその子に差し出す。
「ありがとう、お兄ちゃん」
折り紙を手に、にこりと笑った少女に俺は
「ん」と鼻を鳴らして頷いた。そして、和室
の隣にある図書コーナーを見やると、その子
に話しかけた。
「折り紙で遊んでるの?」
「うん」
「一人で?」
「そう」
「お母さんは?」
「あっちにいるよ。いまね、先生から編み
物教わってるの」
そう言ってその子が指差したのは、婆ちゃ
んが手芸教室を開いている和室で、その子が
生徒さんのお子さんなのだとわかる。俺は、
「そっか」と呟くと、何となく図書コーナー
に戻ってゆくその子の後について行った。
フロアの一角に設けられた図書コーナーに
は、木製の小さな机と可愛らしい椅子がいく
つか並んでいて、そこで子どもが時間を潰せ
るようになっている。
俺は机の側にしゃがみ込むと、椅子に座っ
て折り紙で遊び始めた女の子に話しかけた。
「可愛いキツネさんだね」
ぴょこん、と耳が立っている水色の動物ら
しきそれを手に取って言うと、ふるふると首
を振ってその子が否定する。
「ちがーう。ウサギさんだよ。お耳長いで
しょ?これから女の子のウサギさんも作るの」
「ウサギさんかぁ。ホントだ。耳が長いや」
感心したように頷くと、その子は「へへっ」
と得意そうに笑った。
「これね、手が動くんだよ。ほら」
ウサギの前足を持って上下に動かして見せ
てくれたので、俺は「おぉ」とちょっと大げ
さに驚いて見せる。
「すごいな。よく出来てる。折り紙が得意
なんだ」
そう言うと、その子は花が咲くような笑み
を向けてくれた。
「うん!ママがね、いつも折り紙博士みた
いねって褒めてくれるの。お家にもいっぱい
折り紙が飾ってあるんだよ」
「そっかぁ。お兄ちゃん、ひとつも作れな
いから羨ましいな」
こんな子が妹だったらきっと毎日が楽しく
て、寂しいと思うこともなくなるんだろうな。
ちらり、とそんなことを思いながら頭を撫
でてやると、ぽん、と誰かが俺の頭に手を置
いた。振り返ると、にんまりと笑った婆ちゃ
んが立っている。
何だか照れ臭くて俺は慌てて、すっく、と
立ち上がった。
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