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4,修羅の男
狩りの時間
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「ふう……」
「ぅあ……っふ」
作戦会議が終わった俺とミアはカイトの武器屋を後にする。俺もだが、ミアも相当に疲れたようで変な声を上げて背骨をバキバキ鳴らしている。
作戦会議は半日にも及んだ。主にカイトとミアの舌戦で時間が経過した。法外の武器を使うことを良しとしないミアと、毒を以て毒を制する思考のカイト。まあ長かった。途中から俺は聞いてなかったが。
最終的にはミアが折れてカイトは拳銃を使用することになった。ちなみに彼が選んだのはトカレフTT-33。ソ連が制作した有名な安全装置の存在しない拳銃である。貫徹力が非常に高いらしい。
「先輩……明日の突入、命の保証はありますか?」
「俺を盾にしたら多少はある」
「先輩を盾にしたらアキに呪い殺されるんですけど」
「じゃあ考えるな。今はフユカを無事に助け出すことだけ考えろ」
「はーい……」
渡された発煙筒と照明弾を恐る恐るバックに入れたミアの表情は暗い。まあ、明日が自分の命日になるかもしれないのだから仕方のないことだ。
カイトの作戦はこうだ。明日の早い時間に廃墟付近に車で行き、見張りを気絶なり拘束なりしたら突入。発煙筒と照明弾を上手く使って武装している半グレ共を突破し、最終的には監禁場所に居るであろうコウとお気に入りを撃滅。そしてフユカを救出。
ザックリ言ってしまえばこんな感じである。問題はどうやって武装した半グレ集団を蹴散らすかだ。発煙筒と照明弾だけではとても突破は難しい。
作戦次第ではどうにでもなるとカイトは言っていたが、その作戦は中々にイカれている。
「本当にあれで上手く行くんですかね?」
「さあな。賭けるしかないだろ」
作戦自体は至ってシンプルだ。こちらの間合いに相手が入るまでひたすら潜伏し、奇襲できる形になったら一挙攻め入るという物である。非常にシンプルなのだが、こっちの精神が一瞬でも緩んだらあっという間に御陀仏という代物であり、正直言って実行したくない。
「情報操作で俺たちに犯罪歴が残らないようにするらしいから、気絶にこだわる必要がないのはありがたいけどな……」
「そう思うのは先輩とカイトさんだけですよ」
一撃必殺が基本の俺にとっては、ほんの少し力をセーブすれば良いだけの戦闘になる。気絶させたらあとは放置で良いところは唯一楽だと思える部分だ。
文句をウダウダ言っても仕方ないので、それ以上は愚痴らずに俺は歩いて裏路地を抜けた。
決行は明日。ここまで来たらやる以外の選択肢はない。ただ前へ進み、フユカを助け出すために動くだけである。余計なことは考えなくて良い。
「時間は分かってるな?」
「5時に裏路地前でしたね。もう腹を括りますよ」
「そうか。巻き込んですまないな」
「いいえ、気にしないでください。ここで死んだらそれが運命だったと受け入れますから」
最後には微笑んだミアと別れた。その背中が見えなくなるまで見送ると、俺も家路へと着くのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌朝
「来たな。ほら、乗れ」
集合場所で待機していたカイトの運転する車に乗り込む。先にミアは到着していたらしく、既に車内の椅子で仮眠を取っている。
彼女の隣に座って扉を閉めると、シートベルトを締めないうちにカイトが車を発進させた。
フユカが行方不明になって今日で3日目。タイムリミットとして設定した今日に彼女を救出できなければ、フユカの身がかなり危なくなる。
「ハルキ。これを」
「うわ、とと……」
カイトから何かを投げ渡された。慌ててキャッチしたそれはゼリー飲料である。バナナ味だ。
「飲んどけ。飯、食べてないだろ?」
彼の気遣いに感謝しながら容器のキャップを外す。優しい味が口いっぱいに広がる。
軽い朝食を食べながら、俺はカイトに質問をした。フユカの監禁場所の特定は? と。
「……悪い、そこまでは出来なかった。その代わりに監禁場所にされそうな部屋を幾つか割り出してある」
十分だ。それだけ分かっていれば時間をそこまで使わなくても済む。
廃墟が遠目に見えてきた。俺は隣で寝ているミアの頭を叩いて眠りから覚ます。戦闘の場はすぐそこだ。
車が止まった。俺は扉を開けて飛び降りる。飛び降りた理由は簡単だ。降りる直前にこちらへ向かってくる人影を確認したからである。
低い姿勢で走って車の影に入り、その辺に落ちている小石幾つかを拾うと牽制のために人影へ向かって投げつける。
怯んだ。それを確認すると、一気に人影へ詰め寄った。
「オラァ!」
ドスッ! と拳が肉にめり込む。俺たちの乗っていた車に近寄ろうとしていたのは見張りと思われる男だった。
肋骨目がけて打ち込んだ渾身の左ストレートを受けた男は声もなく気絶する。心臓に近かったこともあって一撃で意識を刈り取れた。もたれ掛かるようにして倒れる男の身体を蹴って地面に叩き付ける。
ミアがドン引きしているが、こっちはフユカを掠われたことに対するストレスやら何やらが溜まって爆発しそうなのだ。本日対処するバカ共には覚悟を決めてもらいたい。
「カイト」
「ああ、着いてこい」
始めよう。狩りの時間だ。
「ぅあ……っふ」
作戦会議が終わった俺とミアはカイトの武器屋を後にする。俺もだが、ミアも相当に疲れたようで変な声を上げて背骨をバキバキ鳴らしている。
作戦会議は半日にも及んだ。主にカイトとミアの舌戦で時間が経過した。法外の武器を使うことを良しとしないミアと、毒を以て毒を制する思考のカイト。まあ長かった。途中から俺は聞いてなかったが。
最終的にはミアが折れてカイトは拳銃を使用することになった。ちなみに彼が選んだのはトカレフTT-33。ソ連が制作した有名な安全装置の存在しない拳銃である。貫徹力が非常に高いらしい。
「先輩……明日の突入、命の保証はありますか?」
「俺を盾にしたら多少はある」
「先輩を盾にしたらアキに呪い殺されるんですけど」
「じゃあ考えるな。今はフユカを無事に助け出すことだけ考えろ」
「はーい……」
渡された発煙筒と照明弾を恐る恐るバックに入れたミアの表情は暗い。まあ、明日が自分の命日になるかもしれないのだから仕方のないことだ。
カイトの作戦はこうだ。明日の早い時間に廃墟付近に車で行き、見張りを気絶なり拘束なりしたら突入。発煙筒と照明弾を上手く使って武装している半グレ共を突破し、最終的には監禁場所に居るであろうコウとお気に入りを撃滅。そしてフユカを救出。
ザックリ言ってしまえばこんな感じである。問題はどうやって武装した半グレ集団を蹴散らすかだ。発煙筒と照明弾だけではとても突破は難しい。
作戦次第ではどうにでもなるとカイトは言っていたが、その作戦は中々にイカれている。
「本当にあれで上手く行くんですかね?」
「さあな。賭けるしかないだろ」
作戦自体は至ってシンプルだ。こちらの間合いに相手が入るまでひたすら潜伏し、奇襲できる形になったら一挙攻め入るという物である。非常にシンプルなのだが、こっちの精神が一瞬でも緩んだらあっという間に御陀仏という代物であり、正直言って実行したくない。
「情報操作で俺たちに犯罪歴が残らないようにするらしいから、気絶にこだわる必要がないのはありがたいけどな……」
「そう思うのは先輩とカイトさんだけですよ」
一撃必殺が基本の俺にとっては、ほんの少し力をセーブすれば良いだけの戦闘になる。気絶させたらあとは放置で良いところは唯一楽だと思える部分だ。
文句をウダウダ言っても仕方ないので、それ以上は愚痴らずに俺は歩いて裏路地を抜けた。
決行は明日。ここまで来たらやる以外の選択肢はない。ただ前へ進み、フユカを助け出すために動くだけである。余計なことは考えなくて良い。
「時間は分かってるな?」
「5時に裏路地前でしたね。もう腹を括りますよ」
「そうか。巻き込んですまないな」
「いいえ、気にしないでください。ここで死んだらそれが運命だったと受け入れますから」
最後には微笑んだミアと別れた。その背中が見えなくなるまで見送ると、俺も家路へと着くのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌朝
「来たな。ほら、乗れ」
集合場所で待機していたカイトの運転する車に乗り込む。先にミアは到着していたらしく、既に車内の椅子で仮眠を取っている。
彼女の隣に座って扉を閉めると、シートベルトを締めないうちにカイトが車を発進させた。
フユカが行方不明になって今日で3日目。タイムリミットとして設定した今日に彼女を救出できなければ、フユカの身がかなり危なくなる。
「ハルキ。これを」
「うわ、とと……」
カイトから何かを投げ渡された。慌ててキャッチしたそれはゼリー飲料である。バナナ味だ。
「飲んどけ。飯、食べてないだろ?」
彼の気遣いに感謝しながら容器のキャップを外す。優しい味が口いっぱいに広がる。
軽い朝食を食べながら、俺はカイトに質問をした。フユカの監禁場所の特定は? と。
「……悪い、そこまでは出来なかった。その代わりに監禁場所にされそうな部屋を幾つか割り出してある」
十分だ。それだけ分かっていれば時間をそこまで使わなくても済む。
廃墟が遠目に見えてきた。俺は隣で寝ているミアの頭を叩いて眠りから覚ます。戦闘の場はすぐそこだ。
車が止まった。俺は扉を開けて飛び降りる。飛び降りた理由は簡単だ。降りる直前にこちらへ向かってくる人影を確認したからである。
低い姿勢で走って車の影に入り、その辺に落ちている小石幾つかを拾うと牽制のために人影へ向かって投げつける。
怯んだ。それを確認すると、一気に人影へ詰め寄った。
「オラァ!」
ドスッ! と拳が肉にめり込む。俺たちの乗っていた車に近寄ろうとしていたのは見張りと思われる男だった。
肋骨目がけて打ち込んだ渾身の左ストレートを受けた男は声もなく気絶する。心臓に近かったこともあって一撃で意識を刈り取れた。もたれ掛かるようにして倒れる男の身体を蹴って地面に叩き付ける。
ミアがドン引きしているが、こっちはフユカを掠われたことに対するストレスやら何やらが溜まって爆発しそうなのだ。本日対処するバカ共には覚悟を決めてもらいたい。
「カイト」
「ああ、着いてこい」
始めよう。狩りの時間だ。
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