100回首を吊った俺は義妹とやり直す

へったん愛好家

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4,修羅の男

突入

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 カツカツと通路内を歩く俺たちの足音が響く。不気味だと感じるぐらいに静かだ。

「こっちだ。まずはこの部屋から探すぞ」

 カイトの案内で連れられた部屋はそこまで大きくない小教室のような場所であった。扉を少しだけ開けて中を見れば、何人かの男が雑魚寝しているのが確認できる。

 おもむろにカイトは懐から何かを取り出した。何やら手榴弾のような物だが……。

「行くぞ」

 フユカが居ないことを確認したのか、カイトは戸を閉めてまた先へ進み出した。

「あれは何ですか?」
「睡眠薬と麻酔薬が入ってる炸裂弾だ」

 しれっとエグい物を放り込んでいた。ミアの顔が引き攣る。俺も内心驚愕していた。流石は裏世界の武器商人である。トンデモ兵器を躊躇なく使用していくのが面白い。

 と、その場を離れようと歩き出した俺たちだったが、またすぐに足を止めて物陰に身を隠すことになった。

 まず、ミアが最初に怪訝な顔つきになった。何があったのか聞こうと思ったところでカイトも照明弾を取り出す。2人が警戒態勢理由は明白である。敵が現れたのだ。どうやら2人とも僅かな物音で敵の襲来を察知したらしい。

「ここは私がやります」
「ハルキ。俺たちは援護だ」
「了解」

 手始めにカイトが物陰から銃口だけを出し、襲来者の居るであろう方向を適当に定めてから数回引き金を引く。

 何やら騒いでいる声が聞こえてきた。俺はカイトの手にあった照明弾を受け取るとピンを抜き、遠くの壁に向かって投げてから、さっき投げた方向とは反対側を振り向く。

 鈍い音と共に照明弾が爆発した音が鳴り響く。その音が鳴ったのとほぼ同時にミアは物陰から飛び出した。その後を俺とカイトも追う。

 照明弾によって目を潰された襲来者は大混乱に陥っていた。口々に何かを喚きながら暴れている。その無駄な動きのせいで、トンファーを構えたミアが近づいていることにまるで気がついていない。

 ゴチン、ガチンと生々しく鈍い音。トンファーを使った正拳をモロに受けて顎を砕かれた男が蹲った。それをカイトが踏みつけていく。俺も力の限り踏みつけた。骨が折れる音が聞こえたが無視する。

「えいっ!」
「ぐうお!?」

 持ち手ではなく棍棒部分を持って脳天を殴りつけたらしく、ミアの可愛らしい掛け声と共に頭を抱えて前のめりに男が倒れた。

「邪魔!」

 そして顔面にヤクザキック。男は意識を失ったらしく、変な態勢で吹き飛んで受け身も取れずに地面へ転がっていった。非常に既視感のある攻撃方法だが、一体誰に似たのだろう。

 頬を掻く俺をよそに、ミアは残った男に対してもトンファーをぶつけてノックアウトした。いつの間にか持ち手部分を握っており、高速でトンファーを半月型に回転させて腕を骨折させている。

 トンファーは攻防一体の武器だと聞いていたが、彼女が使ったら攻めが異常に強くなるようだ。

 骨折させられて声を上げそうになっている男に対しては容赦なくカイトが拳銃をぶち込む。膝の皿を正確に撃ち抜く辺りが恐ろしい。

 ものの数分で巡回していたであろう男たちは全滅した。一部、主にカイトによって拳銃で撃ち抜かれた者は助からないだろうが……。

「カイト。次はどこだ?」

 しかし今は気にしていられない。フユカを発見しなくてはならないのだ。クソ野郎の後始末を呑気に考える時間はない。

「こっちだ」

 今度は距離が近いらしく、カイトは走って先導する。それなりの荷物を持っていても足が速い彼に苦笑しながらも後を追った。

 途中ばったりと巡回の者に鉢合わせになったが、何の戸惑いもなく放たれたカイトの凶弾によって一瞬で片が付き、また違う部屋に辿り着いた。今度は印刷室のような場所だ。

 中には女が1人。フユカではない。悪人のような顔つきではないので、おそらくコウが親の借金なり立場なりを利用して手に入れた下僕だろう。

「拳銃貸してくれ」
「ああ。気をつけろよ」

 カイトから拳銃を受け取り、俺は部屋の戸を力任せに蹴破る。もの凄い音と共に扉がぶっ壊れた。

 轟音でビクリと跳ね上がった女の背を取ると、首根っこを掴んでダッシュ。そのまま壁に押し付けて、さらに拳銃の照準をピタリと女の背中に合わせる。

「動くな」
「ひっ」
「この廃墟に“フユカ”と呼ばれる女が居るはずだ。そいつの居場所を知ってるなら今すぐに吐け。言わないなら3秒後に撃つ」

 小説やテレビドラマので見る脅しはこんな感じだったか、なんて考えているとこの女が知ったら困惑を通り越して無になるだろう。

 ガタガタと震える女。タイムリミットが迫っているので俺には余裕がない。そこまで長い沈黙には耐えられない。

 5秒経っても言葉を口にしない女にしびれを切らし、俺は静かな声で秒数を口にする。

「3……2……1……」
「ま、待って。言います。言いますからっ」
「早くしろ」

 秒数を重ねる毎に声のトーンを落とすと、女は俺が本気で撃つと思ったのだろう。慌てて居場所を吐くと口にした。

「さ、3階の多目的室です。息がくるしっ、助け……」
「あ? ……おお、すまない」

 ここで気絶させるのはもったいない。場所を知ってるなら案内させてしまった方が良い。

 首を掴む手を緩めてやると、女は咳き込みながら地面にへたり込んだ。

 俺の意図を察したらしく、カイトとミアも部屋に入ってくる。さらに怖い顔をした人が増えて女は絶望的な表情を浮かべているがスルーである。

「案内しろ。良いな?」
「ひゃ、ひゃい!」

 もう1回銃口を向けて脅す。今度はカイトの見下ろす視線も追加されているので迫力は倍増だ。女はシャキッと立ち上がり、部屋を出てフユカが居るであろう場所まで案内を始めた。

 カイトに拳銃を返した俺は、小走りで先へ向かう女の後を追うのだった。
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