100回首を吊った俺は義妹とやり直す

へったん愛好家

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4,修羅の男

戦鬼

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「ハルキ、上から敵だ」
「数は2人ぐらいかな……私も手伝いましょうか?」
「いや、階段なら俺1人で良い。閉所での戦闘は得意なんだ」

 通路をこうして歩いていくうちに知ったことがある。カイトとミアは非常に耳が良く、かつ勘も冴えている。

 現在俺たちが進んでいるのは廃墟の2階から3階へ向かう階段である。女を先頭に立たせて歩いているが、時折現れる巡回の男を叩きのめすために後方へ下げている。

「げ、お前はっ」
「何だこいつら。侵入者か?」

 ご対面だ。俺は困惑している男をロックオン。階段を駆け上がって男の足首を掴み、電撃を流しながら思いっきり自分側へ引いて頭を打たせて気絶させる。念のために心臓付近への正拳を忘れない。

 少しの猶予があった方の男は懐からナイフを取り出したが、凶器を手にするまでの判断が遅すぎた。

 そもそも、階段という高低差のある場所でナイフを使った攻撃をするのには少々時間が必要だ。高さの分、威力は当然出やすくなるが、反面回避も容易になる。下手したらキックの方がリーチや取り回しに優れる可能性すらある。

「遅いんだよ」
「がっ!?」

 右脚での中段回し蹴り。高低差によって、実際に俺の脚が命中するのは男の膝裏だ。ガクッと膝カックンを受けた人のように態勢を崩した今がチャンスだ。一気に攻め入る。

 ナイフを持っている手を殴って凶器を叩き落とし、ガラ空きとなった腕をそのまま掴んで一思いに背負う。そして、そのまま階下へ向かって全力で投げ飛ばした。1本背負いだ。

 通常の背負投よりも高さがあるため大ダメージを負っただろう。階下へ落ちた男はピクリとも動かない。

 最初に気絶させた男も階下へ蹴り落とすと、俺はカイトの後ろに隠れて震えている女に視線を送った。早く案内に戻れ、と。

 戦闘が発生する度に俺たちに対する警戒心が上がっていくのは仕方のないことだが、ずっと怯えっぱなしで案内が遅くなったら困る。

 再び女を先頭にして階段を登る。それなりに登ったところで階下から物音がしたが、俺が照明弾を投げた後にミアが発煙筒を追加で放った。下の方で悲鳴と怒号が聞こえるが無視する。

 階段を登り切り、3階へと入る扉を女が開けた。そして、彼女が尻餅をついた。何やらガタイの良い男が扉の側に居たらしく、女の姿を見て怪訝そうな表情だったのだが、俺たちを発見するとすぐに憤怒の表情へと早変わりした。

 が、男が何かアクションを起こすことはなかった。理由は簡単で、カイトが発砲したからである。

「ひ、ひいっ!?」

 正確に拳銃で眉間を撃ち抜いたカイト。女は腰が抜けたらしく、悲鳴を上げて目尻に涙を溜めている。ぶっちゃけ俺もカイトが少し怖い。主に拳銃の腕前が。

 また立たせようと思ったが、腰が抜けている上に今にも泣き出しそうな女に案内を任せるのは酷だろう。俺は女と目線を合わせるためにしゃがみ込むと、「多目的室は近いのか?」と聞く。

 女はコクコクと頷いた。そして、親切にも扉の先を指差してくれた。

「1番奥ですぅ……」
「そうか。なら、もう案内は良い。ここで休んでろ」
「あうっ」

 頸にチョップを落として気絶させ、階段から落ちないようにするために扉の奥に寝かせた。

 俺たちの会話が聞こえたのか、1番奥にあるであろう部屋から男がゾロゾロと出てきた。俺たちの姿を確認すると、口汚い言葉を発しながら武器を手に走ってくる。ちょっとアニメの悪役みたいで、場違いながら俺は笑ってしまう。

 ミアが照明弾を投げた。さらにカイトも手持ちの催涙スプレーを投げつけると、宙を舞う容器を拳銃で撃ち抜いて中身をその辺に散布する。俺も最後の発煙筒を放った。

 光によって目を潰され、催涙スプレーの成分によってくしゃみが止まらなくなり、よしんば目が開けるようになっても周りは煙に包まれて視界が奪われる。地獄でしかないだろう。

「お先に失礼しますねっ」
「あ、おい……足速いな」
「俺たちも行こう、ハルキ」

 煙の中から出てきた男を狩るため、我先にと駆け出したミア。俺とカイトも先ほどと同じように後を追った。

 既に何人かはミアのトンファーによって薙ぎ倒されている。五里霧中状態で慌てて煙内から出てきた瞬間を狩っているので、きっと彼らは何があったか一切分からずに意識を落としていることだろう。

 相変わらずキレの良いトンファーを使用した正拳が男の顔面に刺さるのを見ると、何だか哀れにすら思えてきた。

 発煙筒の出す煙が収まってきた。同時にスプレーの成分の効果も薄まってきたらしい。酷い顔をしているが、やっとこさ目を開けた男たちが現れた。涙と鼻水でグチャグチャになっているのが笑える。

 数は10ちょっと。全員が何かしら凶器を持っているが、別の大した問題にはならない。

 警戒して動かない男たちに最後の照明弾を転がした。「まだ残っていたのか」とカイトは感心し、「性格悪い……」とミアはボヤく。

 再び閃光が炸裂した。爆発する前に目を閉じ、さらに両腕で顔を覆ったことですぐに動けるようになった俺は一気に男たちの懐へ潜り込んだ。

 手始めに1番手前の男2人の心臓付近に渾身の左右ストレート。電気ショック効果も相まって絶大な破壊力を得た鉄拳は、いとも簡単に男たちの意識を奪い取ってしまった。

 倒れ込む男に銃弾を撃ち込んだのを音だけで確認し、俺は未だに視力を潰されてまともに動けない男に思いっきりヤクザキックをぶちかます。狙うのは当然ながら金的だ。難しいなら鳩尾でも良い。

「げえっ」
「うごぉ!?」

 金的にヤクザキックがクリティカルヒットした男は泡を吐いて倒れる。鳩尾を蹴られた男は腹を押さえているが、まだ意識は刈り取れていない。激痛こそ与えられるが、これ1発で意識を刈るのは場所を考えないと難しいのである。

 とは言え、当たりどころが悪ければ普通に動けなくなる。現に鳩尾に蹴りを入れた男は呻くだけで攻撃には移れていない。蹴りというのは隙が大きい攻撃だが、そのリスクに見合った破壊力を生み出せる。確実に痛めつけたい時には有効だ。

「退けっ」

 蹲っている男に再度ヤクザキックをぶつけて吹き飛ばした。今度は顔面に入っている。再起不能間違いなし。

 残った男も片付けようとするが、俺が行動する前にカイトとミアが殲滅を始めていた。

 ミアは相変わらずトンファーを使った正拳を使っている。攻撃方法はシンプルだが、まともに受けた男たちは皆重傷を負っている。具体的にはどこかしらに骨折を患った。ミアの持つトンファーは鉄製であり、掠るだけでも大ダメージを受ける代物だ。

 見るからに腕を折られた男も居る。肋骨を折られたのか、血を吐いている男も見られる。ミアも随分な戦闘上手だなと感じた。やる時はやる性格ということだろう。

 カイトはカイトで拳銃を駆使して男を難なく屠っている。戸惑いも躊躇いを感じていないらしく、無表情で拳銃の引き金を引き続けるその姿は悪魔のようだ。流石は裏世界の住人。

 何もただ撃つだけではなく、時には銃身を手に持ってトンファー的な使用方法で頭蓋骨をへし折っている。拳銃の床というのはレンチのように扱うことも出来るぐらいに硬い。脳天にでも受けたらあっという間にお陀仏で間違いない。

 遮る障害は取り除いた。あとは進むのみ。俺は走って1番奥にある部屋に繋がるであろう扉の前に向かう。

「フユカっ!」

ガン!

 扉を手荒く開け放つ。

「兄さん……!」
「お前、まさか……そんなバカな!」

 扉の先に居たのは愛する義妹と、彼女を床に押し倒そうとしているコウ。そしてそれを見守る数人の一際屈強な男が数人。

 あと数秒遅かったら何があったらと思うとゾッとする。しかし、間に合った。ギリギリだが、それでも間に合ったらしい。

 ミアとカイトも俺の隣に並ぶ。ミアはフユカが一応無事であったのを見てホッとしている。カイトは対して表情を変えてないように見るが、俺にはほんのちょっとだけ口角が上がっているのが見えた。

「見つけたぞ。クソ野郎共……」

 バチバチと拳から電流が迸る。俺のやり場のない怒りに呼応するように電流の出力も上がっていく。拳を強く握れば握るほど、電流の出力が上がるらしいことを今知った。

 許さない。こいつは。こいつらだけは。

「覚悟しろよ……」
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