転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました(完結)

わたなべ ゆたか

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第四章 円卓の影

一章-4

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   4

 翌朝。俺たちは警備隊の庁舎で一晩を過ごした。
 別に、逮捕されたわけではない。事情聴取とかはあったけど、ティレス一家を拘束して衰弱させた犯人は、ギメランたちだ。
 俺たちが訊かれたのは経緯くらいで、聴取が終わってからは客室を貸してくれるという待遇の良さだった。
 こういうところは、ドラグルヘッドの警備隊にも、是非に見習って頂きたい。
 カーテンの隙間から漏れる朝日で目を覚ました俺は、横に置いてあったガランを指で突いた。


「おはよ……」


〝ああ、朝のようだな、トト。眠気はどうだ?〟


「ああ……ちょっと酷いね。喉の奥が擦れてるし、目の奥にも熱がある感じ」


 俺は答えながら起き上がると、客室を出た。朝食を用意すると言われたし、さっさと食べて、さっさと帰ろう。あとは警備隊に任せるに限る。
 俺が食堂に入ったとき、すでにクリス嬢とエイヴがいた。パンや目玉焼き、ソーセージなど、少々豪華な朝食を食べている。
 俺は二人に挨拶をすると、正面の席に腰を落ち着けた。


「眠気とかは、どうですか?」


「ええ……少々残ってますわ。けれど、部屋が男臭くて」


「ああ……警備隊、男ばかりですからね。飯を食べたら、さっさと帰りましょうか……伯爵に色々と誤解される前に」


 欠伸を噛み殺しながら、俺はパンを頬張った。
 俺の意見に苦笑していたクリス嬢の目が、ふと横にずれた。俺がその視線の先を目で追うと、警備隊の隊員が近寄ってくるところだった。
 俺が振り返ると、警備隊員は妙に畏まった顔で敬礼してきた。


「御食事中のところ、申し訳ありません。昨晩捕らえた容疑者についてですが……取り調べで妙なことを口走っていまして。内容に心当たりがないか、確認してもよろしいでしょうか?」


「どんなことです?」


「その……犯行に及んだ動機についてなんですが。三人とも、『新たな王の命令で』と言っているんです。御領主は残っていますが、王政は廃止されています。新たな王という言葉に、聞き覚えなどありますか?」


「いえ……俺は聞いたことないです」


「わたくしもありませんわ」


「そうですか。失礼しました。なにか思い出したことがありましたら、警備隊まで御連絡頂けると助かります」


「はい。わかりました」


 警備隊員は軍隊式に踵を返すと、そのまま食堂から出て行った。
 容疑者のギメランたちは、オークの魂が取り憑く――というか、乗っ取られた身体だ。
 彼らの状態については、ティアマトから聞いたことがある。幻獣は瀕死か、生命力の弱い生物の身体を乗っ取ることができるらしい。
 その際、元の魂が封印されていた鉱石は、近くに置いておかねばならないようだ。身体を乗っ取っても、魂は封印された鉱石から逃れることはできない、ということだと思う。
 ここで重要なのは、ギメランたちが言った内容が、そのままオークたちの言葉ということだ。


「幻獣たちに、新しい王が出たってことかな……ガラン、どう思う?」


〝わからぬな。王とは、単に立場というだけではないが……人間の世に混じっている間に、新たな認識に目覚めたものがいるやもしれぬ〟


「なるほどね。そいつが、新たな王を名乗ってる可能性があるか」


 俺は少し考えると、警備隊員が立ち去った方を振り返った。
 こんな話を聞いてしまうと、ギメランたちから直接、話を聞きたくなってしま――あ、いかんいかん。下手に関わると、また厄介ごとに巻き込まれそうだ。
 それに――話を聞くなら、別口がある。
 警備隊には渡していない、五つの黒曜石だ。その中にもオークの魂が封印されているから、ガランやユニコーンを介して、奴らと話が出来るはずだ。
 そのためにも、とにかく早く帰ろう。
 そう考えていたら、クリス嬢がなにかを思い出したような顔をした。


「トト、ティレスさんたちのお見舞いに行きませんか? 容体次第ですけれど、お話だけでもしたいと思って」


「あ、そうですね……でも、病院には警備隊がいる気がしますよ。ティレスさんたちから、聴取も取りたいでしょうしね」


「そうでした。お見舞いは無理かしら?」


「一度病院に行って、容体とか話を聞いてから決めればいいと思いますよ。無理なら、そのまま帰ればいいですし」


「それでは、今から行きます?」


「そうで……あ、飯食うまで、待って下さいよ」


 クリス嬢たちと比べて、俺はほとんど朝食を食べてない。パンに適当なものを挟んだ俺は、大急ぎで食べ始めた。

   *

 病院に来た俺たちは早速、受付へと向かった。病床があるからか、早朝だというのに受付には係の職員が座っていた。
 俺が職員にティレスさんのことを聞こうとしたとき、横から警備隊員が駆け寄ってきた。


「すいません。トラストン・ドーベルですか?」


「ええ……どうしてわかったんです?」


「昨晩の件で、あなたとお連れの女性のことは、隊員に周知されてます。それで……昨晩、運び込まれた患者たちは、まだ話のできそうな容体ではありません。後日、改めてお越し下さいますよう、お願いいたします」


 定型文かと思いたくなるような、そんな言葉だった。
 ここで反抗的な態度をしても、時間の無駄だ。俺は大人しく引き下がると、クリス嬢とエイヴがいるところまで戻った。


「まだ、喋れるような容体ではないそうですよ」


「あら……心配ですけど、仕方ないですわね」


「ええ。とりあえず、出ましょうか」


 病院から出た俺たちは駅に行く前に、ティレスさんの屋敷に立ち寄ることにした。特に理由はなかったけど、なんとなく立ち寄ろう、という流れになったわけで。
 俺たちが屋敷の前に来たとき、黒塗りの馬車が屋敷の前に停まっていた。ティレスさんの知り合いか――と思ったけど、こちらから話しかけたりする理由はない。
 馬車の横を通り過ぎようとしたとき、馬車から漏れる声が聞こえてきた。


「……失敗……ようだな」


「まさか……といって、我らの王は……」


「……だからな。長居は――」


 俺は思わず、足を停めそうになった。
 我らの王と言う言葉。それはギメランたちが言った、『新たな王』に関係あるのではないか――そんな考えが、俺の頭を過ぎった。
 振り返るのも我慢しながら、俺はクリス嬢の腕を突いて、次の角を曲がった。


「どうしたんです?」


「いえ。今の馬車……中で、我らの王とかって言ってたので。オークが言った、王と関係あるのかなって」


「わたくしは聞こえませんでしたから……エイヴはどう?」


「エイヴは聞こえなかったけど……」


 エイヴはポケットから、ユニコーンが封じられたネックレスを取り出した。


「ユニコーンがね。幻獣の気配がしたって」


「なんだって?」


 俺は角まで戻ると、ティレスさんの屋敷のほうを覗いてみた。
 そこにはもう馬車はなかった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

少し間が空いちゃいました。なんか、仕事が忙しくなってきてます……来週、そして来月から早出の現場にもなりますし。
考えて時間を使わないと……。

ちなみに、先日近況でお話しした、サビ終告知のあったゲームですが、サビ終予定日から二日経ってますが、今日も元気に動いてます。
しかも、イベントとリーグ戦が無事に始まりました。

サビ終日以降もプレイできるゲームって、初めての経験です。貴重……かな?


少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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