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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
一章 人形の少女と僕の籠手 一話 発掘された人形
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一章 人形の少女と僕の籠手
一話 発掘された人形
発掘都市アーハムの東にある第三遺跡の地下、約五〇リン(約四十六メートル 一リン=○・九二メートル)地点。
高さが約四リン、幅が約一〇リンに掘削された坑道は、いくつもの照明によって照らされている。これは揮発性の高い化石燃料を使った、燃焼炉から動力を得るタイプだ。
僕――アウィン・コーナルは坑道の天井付近で、発掘作業を行っていた。天井に固定させたカラビナにロープを伝わせ、宙づりになった状態での作業だ。
今の僕の服装は、頭には茶色のヘルメット、鼻から下を厚手の布で覆い、目にはゴーグルをしている。服は土や砂にまみれた茶色の作業着で、腰の安全帯にロープを通して身体を固定していた。
ここまでは、発掘技師の一般的な服装だが、僕は左腕に、親から受け継いだ籠手を装備していた。作業着の袖を捲らなければ入らないので、素肌の上から付けているんだけど、違和感はまったくない。
この籠手は指先までを覆う形で、腕の内側には、我が家に伝わる紋章――六つの丸に蛇が巻き付いた蝋燭――が刻印されていた。
一応は魔導器――らしいのだが、少々頑丈なだけで、特筆するような能力はない。発掘には危険も伴うので、お守り代わりに装備することにしているだけだ。
なんでもコーナル家は、太古には優れた技師の家系だったらしい。だけど今では、そんな繁栄など見る影も無い。
盛者必衰とは、よくいったものだと思う。
この仕事を十二歳で初めて、もう五年になる。十七歳という成人の年になったけど、なにか変わるわけでもない。
同じような毎日が、相も変わらず続いている。
手ガリという、先の丸い金属の板と直角になるように柄のついた道具で、僕は慎重に土を削っていた。
天井には最初、円筒形の一部分が浮き出ていただけだ。三時間ほどをかけて、僕はようやく柄の全体を露出させることができた。
僕は柄にしてはかなり大きい、汚れた乳白色をした円筒形の物体に、そっと手を触れた。
魔導器は、それを装備した人間の魔力を糧にして起動する。魔導器が生きていれば、これで反応があるはずだ。
そして、そんな僕の期待通り、触れた柄の先端に、朧気な緑の光が浮かんだ。
発掘技師をやっていて、一番興奮する瞬間だ。
僕は下を見回すと、丁度通りかかった汚れた口髭のある初老の男――トマス班長を呼び止めた。
「班長ぉっ!! こいつ、生きてます!」
トマス班長は大声を出した僕を見上げると、近くにあった脚立を使って、僕の横までやってきた。
僕が手を離して光の消えた物体に、今度はトマス班長が手を触れた。だけど、なんの反応も起きなかった。
トマス班長はポケットから試験管のような器具を取り出し、物体に軽く当てた。これは魔導器の起動に必要な魔力を調べるもので、色とその濃さでその大きさを識別するんだ。
試験管の色は、濃い赤。
「こりゃ、最低五人分の魔力が必要な代物だぞ? 一人で動かせるものかよ」
「でも、さっきは起動しましたよ?」
僕が触れると柄の端っこに、さっきと同じ朧気な緑色の光が浮かんだ。
「ね?」
「まったく、なんて魔力だよ。発掘技師には無用の長物だな。動くことは分かったが、こんなデカ物、誰が扱えるっていうんだ。さっさと降りて、他の魔導器を探してこい」
「ええ~」
僕はロープを垂らして下へ降りると、トマス班長に進言をした。
「分解すれば、いい部品とかあるかもですよ? 発掘させて下さいよ」
「部品取りのために発掘する暇なんか、ねぇんだよ! 奥が人手不足だ。おまえは応援に行け。わかったな?」
「はーい」
僕は天井に残した大きな柄を一度だけ振り返ると、後ろ髪を引かれる思いで、やや下り坂になっている坑道を奥へと進んだ。
所々で発掘作業をしている発掘技師と、往来する護衛兵たちとすれ違った。
護衛兵たちは、全身を武装している。鎧兜に長剣や斧、槍――そういった装備のすべてが、魔導器だ。
発掘技師とは違い、登用試験という狭き門をくぐり抜け、厳しい訓練を受けてきた人たちだ。ときには、前線へ送られることもあるという。
僕も兵士登用の試験を受けたことはある。
かなり良い手応えだったと思ったんだけど、結果は不採用。現実の厳しさを思い知っただけだった。
坑道の奥は、大きく広がった形状に掘削されていた。僕ら発掘技師のあいだでは、《大広間》の別称で呼ばれている場所だ。
高さだけで約一五リン(約一四メートル)、幅に至っては――支柱の代わりに残した部分はあるが――数百リンもある。
かなりの魔導器が固まって発掘されたことから、徐々に拡張されていった場所だ。
大広間に入った途端、僕の脚がなにかに払われた。そのまま地面に倒れた僕の耳に、両側にいた男たちの嘲笑が聞こえてきた。
「はっはっはっ! まったく、ドジなヤツだぜ」
「本当だな。ちゃんと歩かねぇと、怪我するぜぇ?」
最初に「ドジ」と言ったのは、甲冑型の魔導器と刀身だけで二リン(約一メートル八〇センチ)を超える大剣を肩に担いだ大男、ダントだった。平均よりも背が高く、太めの体格だ。スキンヘッドの頭髪は、今は兜で見えない。
もう一人は、同じく甲冑型の魔導器を身につけた痩身の男、ラントだ。約二リンある身長のダントよりも、頭一つほど高い。
こちらは魔力の弾を撃つ、連射式の魔力銃をスリングを使って肩から下げていた。銃身はおよそ一リン半。ライフルというらしい、珍しい魔導器だった。
この二人は、兄弟だ。代々兵士を送り出している家系で、親のコネで質の良い魔導器を優先的に手に入れている――という噂だ。
まだ起き上がってない僕の横腹を、ダントがつま先で小突いてきた。
「おい、アウィン。人様の脚に引っかかっておいて、謝罪もねぇのか?」
「引っかかったって……そっちが引っかけてきたんじゃないか」
この反論に、ダントは小突いていたつま先で、そのまま僕の腹を蹴ってきた。
二度、三度と為す術も無く腹を蹴られた僕が蹲ると、ダントは抑えられていない感情のままに、歯を剥いて威圧してきた。
「てめぇ、消耗品扱いの発掘技師の分際で、俺たちに刃向かおうってか? あ? 誰のおかげで、安全に発掘できると思ってるんだ! 事故死ってことで、ここでぶっ殺したっていいんだぜ? てめぇの換えなんざ、いくらでもいるんだからな!!」
「ちょっと! あななたち、なにをしてるの!?」
聞き馴染みのある少女の声が、僕らへと飛んできた。
軽装の鎧に盾と長剣を携えた、金髪の少女だ。兜は顔が露出する型のため、容姿もはっきりと見えた。
護衛兵の中でも、名門とされるランズ家の息女、ファイン・ランズさんは、僕たちを見て目を見広げると、ダントに長剣の切っ先を向けた。
「なにをしているの!? アウィンから離れなさい!」
「おうおう。名門のお嬢様のお出ましかよ」
ダントが顔を顰めながら、僕から離れた。ラントは地面に唾を吐くと、ファインさんを睨み付けた。
「ランズ家のお嬢さんが、なんのようだよ? 俺たちは被害者だぜ? 弟が脚を引っかけられたんだ」
「……その弟が、アウィンの脚を蹴ったところは見てたけど? 文句を言おうと思ったら暴力を振るい始めるなんて。護衛兵が、護衛対象に暴力を振るってどうするの!?」
「ちっ――見てたんなら、一々聞いてくるなよ。行こうぜ、兄貴」
「そうだな。しらけちまった」
二人が広間の奥へと去って行くと、ファインさんが僕の身体を抱き起こしてくれた。
「アウィン、大丈夫?」
「いてて……大丈夫じゃないけど……死ぬほどは痛くない……です」
僕が答えると、ファインさんは怒りを露わに、立ち去る二人を振り返った。
「まったく……なんでアウィンじゃなく、あんなやつらが試験に受かったのかしら。あたしの予想では、アウィンは受かって、あの二人は落ちてたと思うのに」
「えっと……その話は、まあ……今更なので」
「それ以外だってあるんだから。なんで、あいつらが最高級品に近いような魔導器を持ってるの? ああいうのは、最前線に送られるのが規則なのに」
文句を言い続けるファインさんから離れて、僕は一人で立ち上がった。
「なんとか動けそうです。ありがとうございました」
「そんなの、全然いいよ。それで、えっと……ついでに、お願いがあるんだけど」
ファインさんはオレンジ色を基調とした丸い盾を僕に差し出すと、戯けたように片目をつぶって見せた。
この盾も当然、魔導器だ。装備した者の魔力で、小規模な結界を構築する。僕は盾を受け取ると、握りにある青いクリスタルに触れた。
途端、上半身を隠すほどの青白い結界が、盾の前面に生み出された。だけど……普通ならほぼ真円になるはずの結界の外縁が、不規則に波打っていた。
「相変わらず、強い魔力よね……あたしより二回りは結界が大きいもの」
「そんなことないですよ。でもこれ、あまり良くないなぁ……」
「でしょ? ちょっと受けるのを失敗しちゃって……ほら、この前、急にワームが沸いて出たじゃない? そのときだと思うの。それで……直りそう?」
「このくらいなら、大丈夫。一日くらい預かると思うんだけど……直せると思います」
「ホント!? じゃあ、発掘が終わったらお願い!」
拝むようにお願いしてくるファインさんに、僕は「発掘が終わったら、家に居ますから。持って来て下さい」とお願いをした。
発掘と警護では、それぞれ仕事を終える時間が異なる。それを理解しているし、いつもの流れなので、ファインさんも素直に承諾してくれた。
まだ痛むお腹を擦りながら発掘現場に近づいた僕に、発掘技師の少年が近づいて来た。
「アウィン、なんか災難だったね」
「やあ、エディン。いつものヤツだよ。まったく……」
数少ない友人のエディンに肩を竦めると、僕は出土した発掘品の山に近づいた。そこでは、ここの班長が出土品を一等級から五等級までの等級に仕分けをしている最中だった。
「すいません。ここの応援に来たんですけど。どのあたりを手伝いますか?」
「ん? ああ……それなら、ここの仕分けを手伝ってくれ。今回発掘した品は、細かいものばかりで、一人では終わる気がしなくてな。エディンは、休憩が終わったのか? それなら南側の発掘を続けてくれ。なにか、大きな物体が見つかったみたいだ」
「はい」
「……わかりました」
僕とエディンは、小さく手を振りながら別れた。
班長と手分けをして、僕はナイフや腕輪などの発掘品を調べ始めた。
まだ稼働する魔導器と、稼働しない魔導器とに分け、稼働するものはその効果と実戦での有効性を考慮して、等級を決めていく。
ただし、ここで決める等級は仮のもので、正式な決定は地上に戻ってからなんだけど。
稼働しない短剣の柄を工具で開けた僕は、内部にある細長い金属板を引っ張り出すと、光に当ててみた。
金属板の表面には、魔術文字で数十を超える言葉が刻印されている。これが、持ち手の魔力を様々な効果――切れ味の向上や結界など――に変換しているんだ。
僕は金属板を戻すと、短剣を見せながら質問をした。
「これ、直せそうですけど。どうします?」
「直るのか? それじゃあ保留で頼む。おまえさんのような技師がもっといればなあ……ランズ家のお嬢さんがべた褒めしてたぞ。腕の良い技師だって」
「……そうなんですか? 腕がいいとかは、ちょっと大袈裟な気がしますけど」
滅多に褒められることなんかないから、少し気恥ずかしくなってしまった。
短剣を脇に置いたとき、不格好な人形の存在に気づいた。稼働しない魔導器の山に積まれていた人形は金属製で、丸っこい造型をしていた。身体の前に回した太い腕や短い脚から、僕はゴリラを連想していた。
頭部はやや横に長い楕円形で、額に丸が一つ。その下には目だろうか、丸っこい菱形が二つ並んでた。大きさは手の平くらいで、片手でも掴めそうだ。
それだけなら、これほどまで気にならなかったかもしれない。
その人形の左胸には、我が家の紋章――六つの丸に蛇の巻き付いた蝋燭――が刻印されていた。
僕は四つん這いになって人形を手に取ると、班長に訊いた。
「これ……なんです?」
「なんですって、人形だろ? 触れても反応しないし、分解も出来そうにない。ゴミだな、ゴミ。戦いには、なんの役にも立たない」
「いえ、あの……これ、うちの紋章があるんです。なにかあるんじゃないかと思って」
「おまえんとこの紋章か? でもな、どこに触れても反応なしだったんだ。廃棄品扱いになるだろうから、欲しければ持っていっても構わないぞ」
「いいんですか?」
僕は右手に掴んだ人形を、マジマジと眺めた。地面に座り直して、両手で人形を持った途端、左腕の籠手に刻まれた家の紋章が光り出した。
それに少し遅れて、人形の紋章も光を放ち始めたと思ったら、いきなり耳元に無機質な声が聞こえてきた。
〝警戒、警戒、警戒、警戒――〟
同じ言葉を繰り返す声に、僕は気が動転して辺りを見回した。
「な、なに?」
そんなとき、エディンが駆け寄ってくるのが見えた。
「アウィン、ちょっと手伝って! 人手が要りそうなんだって」
「あ――うん。わかったよ」
無機質な声は、人形を腰袋に入れると聞こえなくなった。
それが何だったか考えるよりも先に、僕はエディンのところへと駆け出していた。
一話 発掘された人形
発掘都市アーハムの東にある第三遺跡の地下、約五〇リン(約四十六メートル 一リン=○・九二メートル)地点。
高さが約四リン、幅が約一〇リンに掘削された坑道は、いくつもの照明によって照らされている。これは揮発性の高い化石燃料を使った、燃焼炉から動力を得るタイプだ。
僕――アウィン・コーナルは坑道の天井付近で、発掘作業を行っていた。天井に固定させたカラビナにロープを伝わせ、宙づりになった状態での作業だ。
今の僕の服装は、頭には茶色のヘルメット、鼻から下を厚手の布で覆い、目にはゴーグルをしている。服は土や砂にまみれた茶色の作業着で、腰の安全帯にロープを通して身体を固定していた。
ここまでは、発掘技師の一般的な服装だが、僕は左腕に、親から受け継いだ籠手を装備していた。作業着の袖を捲らなければ入らないので、素肌の上から付けているんだけど、違和感はまったくない。
この籠手は指先までを覆う形で、腕の内側には、我が家に伝わる紋章――六つの丸に蛇が巻き付いた蝋燭――が刻印されていた。
一応は魔導器――らしいのだが、少々頑丈なだけで、特筆するような能力はない。発掘には危険も伴うので、お守り代わりに装備することにしているだけだ。
なんでもコーナル家は、太古には優れた技師の家系だったらしい。だけど今では、そんな繁栄など見る影も無い。
盛者必衰とは、よくいったものだと思う。
この仕事を十二歳で初めて、もう五年になる。十七歳という成人の年になったけど、なにか変わるわけでもない。
同じような毎日が、相も変わらず続いている。
手ガリという、先の丸い金属の板と直角になるように柄のついた道具で、僕は慎重に土を削っていた。
天井には最初、円筒形の一部分が浮き出ていただけだ。三時間ほどをかけて、僕はようやく柄の全体を露出させることができた。
僕は柄にしてはかなり大きい、汚れた乳白色をした円筒形の物体に、そっと手を触れた。
魔導器は、それを装備した人間の魔力を糧にして起動する。魔導器が生きていれば、これで反応があるはずだ。
そして、そんな僕の期待通り、触れた柄の先端に、朧気な緑の光が浮かんだ。
発掘技師をやっていて、一番興奮する瞬間だ。
僕は下を見回すと、丁度通りかかった汚れた口髭のある初老の男――トマス班長を呼び止めた。
「班長ぉっ!! こいつ、生きてます!」
トマス班長は大声を出した僕を見上げると、近くにあった脚立を使って、僕の横までやってきた。
僕が手を離して光の消えた物体に、今度はトマス班長が手を触れた。だけど、なんの反応も起きなかった。
トマス班長はポケットから試験管のような器具を取り出し、物体に軽く当てた。これは魔導器の起動に必要な魔力を調べるもので、色とその濃さでその大きさを識別するんだ。
試験管の色は、濃い赤。
「こりゃ、最低五人分の魔力が必要な代物だぞ? 一人で動かせるものかよ」
「でも、さっきは起動しましたよ?」
僕が触れると柄の端っこに、さっきと同じ朧気な緑色の光が浮かんだ。
「ね?」
「まったく、なんて魔力だよ。発掘技師には無用の長物だな。動くことは分かったが、こんなデカ物、誰が扱えるっていうんだ。さっさと降りて、他の魔導器を探してこい」
「ええ~」
僕はロープを垂らして下へ降りると、トマス班長に進言をした。
「分解すれば、いい部品とかあるかもですよ? 発掘させて下さいよ」
「部品取りのために発掘する暇なんか、ねぇんだよ! 奥が人手不足だ。おまえは応援に行け。わかったな?」
「はーい」
僕は天井に残した大きな柄を一度だけ振り返ると、後ろ髪を引かれる思いで、やや下り坂になっている坑道を奥へと進んだ。
所々で発掘作業をしている発掘技師と、往来する護衛兵たちとすれ違った。
護衛兵たちは、全身を武装している。鎧兜に長剣や斧、槍――そういった装備のすべてが、魔導器だ。
発掘技師とは違い、登用試験という狭き門をくぐり抜け、厳しい訓練を受けてきた人たちだ。ときには、前線へ送られることもあるという。
僕も兵士登用の試験を受けたことはある。
かなり良い手応えだったと思ったんだけど、結果は不採用。現実の厳しさを思い知っただけだった。
坑道の奥は、大きく広がった形状に掘削されていた。僕ら発掘技師のあいだでは、《大広間》の別称で呼ばれている場所だ。
高さだけで約一五リン(約一四メートル)、幅に至っては――支柱の代わりに残した部分はあるが――数百リンもある。
かなりの魔導器が固まって発掘されたことから、徐々に拡張されていった場所だ。
大広間に入った途端、僕の脚がなにかに払われた。そのまま地面に倒れた僕の耳に、両側にいた男たちの嘲笑が聞こえてきた。
「はっはっはっ! まったく、ドジなヤツだぜ」
「本当だな。ちゃんと歩かねぇと、怪我するぜぇ?」
最初に「ドジ」と言ったのは、甲冑型の魔導器と刀身だけで二リン(約一メートル八〇センチ)を超える大剣を肩に担いだ大男、ダントだった。平均よりも背が高く、太めの体格だ。スキンヘッドの頭髪は、今は兜で見えない。
もう一人は、同じく甲冑型の魔導器を身につけた痩身の男、ラントだ。約二リンある身長のダントよりも、頭一つほど高い。
こちらは魔力の弾を撃つ、連射式の魔力銃をスリングを使って肩から下げていた。銃身はおよそ一リン半。ライフルというらしい、珍しい魔導器だった。
この二人は、兄弟だ。代々兵士を送り出している家系で、親のコネで質の良い魔導器を優先的に手に入れている――という噂だ。
まだ起き上がってない僕の横腹を、ダントがつま先で小突いてきた。
「おい、アウィン。人様の脚に引っかかっておいて、謝罪もねぇのか?」
「引っかかったって……そっちが引っかけてきたんじゃないか」
この反論に、ダントは小突いていたつま先で、そのまま僕の腹を蹴ってきた。
二度、三度と為す術も無く腹を蹴られた僕が蹲ると、ダントは抑えられていない感情のままに、歯を剥いて威圧してきた。
「てめぇ、消耗品扱いの発掘技師の分際で、俺たちに刃向かおうってか? あ? 誰のおかげで、安全に発掘できると思ってるんだ! 事故死ってことで、ここでぶっ殺したっていいんだぜ? てめぇの換えなんざ、いくらでもいるんだからな!!」
「ちょっと! あななたち、なにをしてるの!?」
聞き馴染みのある少女の声が、僕らへと飛んできた。
軽装の鎧に盾と長剣を携えた、金髪の少女だ。兜は顔が露出する型のため、容姿もはっきりと見えた。
護衛兵の中でも、名門とされるランズ家の息女、ファイン・ランズさんは、僕たちを見て目を見広げると、ダントに長剣の切っ先を向けた。
「なにをしているの!? アウィンから離れなさい!」
「おうおう。名門のお嬢様のお出ましかよ」
ダントが顔を顰めながら、僕から離れた。ラントは地面に唾を吐くと、ファインさんを睨み付けた。
「ランズ家のお嬢さんが、なんのようだよ? 俺たちは被害者だぜ? 弟が脚を引っかけられたんだ」
「……その弟が、アウィンの脚を蹴ったところは見てたけど? 文句を言おうと思ったら暴力を振るい始めるなんて。護衛兵が、護衛対象に暴力を振るってどうするの!?」
「ちっ――見てたんなら、一々聞いてくるなよ。行こうぜ、兄貴」
「そうだな。しらけちまった」
二人が広間の奥へと去って行くと、ファインさんが僕の身体を抱き起こしてくれた。
「アウィン、大丈夫?」
「いてて……大丈夫じゃないけど……死ぬほどは痛くない……です」
僕が答えると、ファインさんは怒りを露わに、立ち去る二人を振り返った。
「まったく……なんでアウィンじゃなく、あんなやつらが試験に受かったのかしら。あたしの予想では、アウィンは受かって、あの二人は落ちてたと思うのに」
「えっと……その話は、まあ……今更なので」
「それ以外だってあるんだから。なんで、あいつらが最高級品に近いような魔導器を持ってるの? ああいうのは、最前線に送られるのが規則なのに」
文句を言い続けるファインさんから離れて、僕は一人で立ち上がった。
「なんとか動けそうです。ありがとうございました」
「そんなの、全然いいよ。それで、えっと……ついでに、お願いがあるんだけど」
ファインさんはオレンジ色を基調とした丸い盾を僕に差し出すと、戯けたように片目をつぶって見せた。
この盾も当然、魔導器だ。装備した者の魔力で、小規模な結界を構築する。僕は盾を受け取ると、握りにある青いクリスタルに触れた。
途端、上半身を隠すほどの青白い結界が、盾の前面に生み出された。だけど……普通ならほぼ真円になるはずの結界の外縁が、不規則に波打っていた。
「相変わらず、強い魔力よね……あたしより二回りは結界が大きいもの」
「そんなことないですよ。でもこれ、あまり良くないなぁ……」
「でしょ? ちょっと受けるのを失敗しちゃって……ほら、この前、急にワームが沸いて出たじゃない? そのときだと思うの。それで……直りそう?」
「このくらいなら、大丈夫。一日くらい預かると思うんだけど……直せると思います」
「ホント!? じゃあ、発掘が終わったらお願い!」
拝むようにお願いしてくるファインさんに、僕は「発掘が終わったら、家に居ますから。持って来て下さい」とお願いをした。
発掘と警護では、それぞれ仕事を終える時間が異なる。それを理解しているし、いつもの流れなので、ファインさんも素直に承諾してくれた。
まだ痛むお腹を擦りながら発掘現場に近づいた僕に、発掘技師の少年が近づいて来た。
「アウィン、なんか災難だったね」
「やあ、エディン。いつものヤツだよ。まったく……」
数少ない友人のエディンに肩を竦めると、僕は出土した発掘品の山に近づいた。そこでは、ここの班長が出土品を一等級から五等級までの等級に仕分けをしている最中だった。
「すいません。ここの応援に来たんですけど。どのあたりを手伝いますか?」
「ん? ああ……それなら、ここの仕分けを手伝ってくれ。今回発掘した品は、細かいものばかりで、一人では終わる気がしなくてな。エディンは、休憩が終わったのか? それなら南側の発掘を続けてくれ。なにか、大きな物体が見つかったみたいだ」
「はい」
「……わかりました」
僕とエディンは、小さく手を振りながら別れた。
班長と手分けをして、僕はナイフや腕輪などの発掘品を調べ始めた。
まだ稼働する魔導器と、稼働しない魔導器とに分け、稼働するものはその効果と実戦での有効性を考慮して、等級を決めていく。
ただし、ここで決める等級は仮のもので、正式な決定は地上に戻ってからなんだけど。
稼働しない短剣の柄を工具で開けた僕は、内部にある細長い金属板を引っ張り出すと、光に当ててみた。
金属板の表面には、魔術文字で数十を超える言葉が刻印されている。これが、持ち手の魔力を様々な効果――切れ味の向上や結界など――に変換しているんだ。
僕は金属板を戻すと、短剣を見せながら質問をした。
「これ、直せそうですけど。どうします?」
「直るのか? それじゃあ保留で頼む。おまえさんのような技師がもっといればなあ……ランズ家のお嬢さんがべた褒めしてたぞ。腕の良い技師だって」
「……そうなんですか? 腕がいいとかは、ちょっと大袈裟な気がしますけど」
滅多に褒められることなんかないから、少し気恥ずかしくなってしまった。
短剣を脇に置いたとき、不格好な人形の存在に気づいた。稼働しない魔導器の山に積まれていた人形は金属製で、丸っこい造型をしていた。身体の前に回した太い腕や短い脚から、僕はゴリラを連想していた。
頭部はやや横に長い楕円形で、額に丸が一つ。その下には目だろうか、丸っこい菱形が二つ並んでた。大きさは手の平くらいで、片手でも掴めそうだ。
それだけなら、これほどまで気にならなかったかもしれない。
その人形の左胸には、我が家の紋章――六つの丸に蛇の巻き付いた蝋燭――が刻印されていた。
僕は四つん這いになって人形を手に取ると、班長に訊いた。
「これ……なんです?」
「なんですって、人形だろ? 触れても反応しないし、分解も出来そうにない。ゴミだな、ゴミ。戦いには、なんの役にも立たない」
「いえ、あの……これ、うちの紋章があるんです。なにかあるんじゃないかと思って」
「おまえんとこの紋章か? でもな、どこに触れても反応なしだったんだ。廃棄品扱いになるだろうから、欲しければ持っていっても構わないぞ」
「いいんですか?」
僕は右手に掴んだ人形を、マジマジと眺めた。地面に座り直して、両手で人形を持った途端、左腕の籠手に刻まれた家の紋章が光り出した。
それに少し遅れて、人形の紋章も光を放ち始めたと思ったら、いきなり耳元に無機質な声が聞こえてきた。
〝警戒、警戒、警戒、警戒――〟
同じ言葉を繰り返す声に、僕は気が動転して辺りを見回した。
「な、なに?」
そんなとき、エディンが駆け寄ってくるのが見えた。
「アウィン、ちょっと手伝って! 人手が要りそうなんだって」
「あ――うん。わかったよ」
無機質な声は、人形を腰袋に入れると聞こえなくなった。
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若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
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この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
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