消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

四話 国家連合軍

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 4話 国家連合軍

 誰か来たのか――と思うのとほぼ同時に、ノックも無しに玄関のドアが開いた。


「アウィン・コーナルはいるか!?」


 小太りで頭髪のてっぺんだけが禿げた、初老の男が入って来た。護衛兵たちを統括する上等兵長の制服を着ているのは――確か、ダムイ・レンメン上等兵長だ。
 ラントとダントの父親で、発掘技師たちからも良い噂が聞こえてこない人だ。
 尊大に居間へと入って来たダムイ上等兵長は、三人の男を引き連れていた。そのうち二人は、ダントにラント。もう一人は、まだ年若い――といっても二〇代後半くらい――青年だった。
 金髪を短く整え、見たこともない灰色の軍服を着ていた。腰には細身の鞘を下げてるけど……引き金のある剣? 僕の見たことがない魔導器だ。
 ダムイは僕とレオナシアさんを順に見ると、咳払いをした。


「アウィン・コーナル。魔導器の不法取得により拘束する」


「え? ええ!?」


 驚く僕に、ダムイはさらに言ってきた。


「さらに解き放たれた魔物の件で、貴様の責任問題についての訴えもある。これも含めて、しっかりと取り調べてやる」


 ――え?


 魔物……魔神を解き放ったのは、僕は無関係というか、反対してたじゃん。
 どこの誰がと思っていた僕は、ダントとラントが含みのある笑みを浮かべているのを見て、すべてを察した。どうやら、あの二人は全責任を僕に押しつける腹づもりのようだ。
 父親であるダムイを味方に付けている以上、生半可な反論は無意味だ。絶望感に打ち拉がれていると、柳眉を逆立てたファインさんがダムイたちの前へと出た。


「待って下さい! アウィンは、巨大な箱を開けるなって、止めてたんですよ? あの魔物を解き放ったのは、そこの二人です!」


 ファインさんに指をさされ、ダントとラントは気まずい顔で目配せをした。
 軍服の青年は、顎に手を添えながらダムイの横に立った。


「……これは、聞いていた話と違うな。あの巨大な箱は見たが、確かに攻撃を受けた痕が残っていた。ダムイ上級兵長、これはどういうことかな?」


「あ――いえ、その……」


 どういうことか――そんなダムイの視線に、ダントとラントは狼狽えた。まさか、ファインさんがここにいるとは、思ってなかったんだろう。
 父親だけなら言い訳も容易いんだろうけど、ここにはジョージ中佐がいる。中途半端な嘘を重ねても見破られてしまう可能性が高い。
 しばし視線を彷徨わせてたダントが、僕に指先を向けた。


「こいつが、あの箱を開けるのを拒んだんで、少し強引な手段に出ただけなんです。正攻法で開けていれば、あれは強力な兵器になったかもしれないのに!!」


「親父。とにかく今は、あの魔導器を没収するのが先だ」


 たたみ込むようにラントが言うと、ダムイはどこか納得がいっていない顔をしながらも、気まずい状況を誤魔化そうとしたのか、レオナシアさんを顎で示した。


「あ、ああ。ダント、ラント。あの魔導器を兵舎まで持っていけ」


 ダムイの命令で、ダントとラントがこっちに来た。
 僕は「やめろ!」と言いつつ二人の前に出たんだけど、ダムイが長剣の切っ先を向けてきた。


「動くな! 貴様の疑惑が晴れたわけではないのだ」


「な――そんな」


 身動きできなくなった僕の後ろで、二人がレオナシアさんに手を伸ばした。
 その直後、ダントとラントが居間の壁まで吹っ飛ばされた。なにが起きたんだ――と思った直後、レオナシアさんがダムイの長剣を弾き飛ばした。


「大丈夫ですか?」


「え、あの、うん……いや、レオナシアさん、拙いよ!? 警護兵は軍だから、逆らうと捕まっちゃう」


「軍……ですか?」


「そ、そうだ! 我々は護衛部隊。そしてこちらに居られるのは、国家連合軍、参謀本部のジョージ・マクラーレン中佐である。わかったら、命令を聞け!」


 ダムイの怒鳴り声に、レオナシアさんは無表情な顔を向けた。


「そうですか。わたくしは魔造動甲冑のコア、個体識別名レオナシア。第一種特権兵装です。わたくしに与えられた特権は、すべての指揮下からの独立。これは発令後、恒久的に有効です。よって、軍部からわたくしへの命令は、すべて無効です」


「な――ん、だと?」


 絶句するダムイの横にいたジョージ中佐は、冷静な目で僕とレオナシアさんとを交互に見ながら、こちらに近づいて来た。
 レオナシアさんの真正面に立ったジョージ中佐は、直立したままで質問をした。


「ふむ――なら、君に命令出来る者は誰だ?」


「接続者です。今は、ここにいるアウィン・コーナル。そして、もう一つ付け加えるのであれば、わたしを点検する権限を持つのも、リーンアームドを持つ彼だけです」


「リーンアームド?」


「これです。もう、取り外しは不可能ですけど」


 僕は、左腕の籠手――リーンアームドを見せた。
 なにかを言いたげなダントを手で制すと、ジョージ中佐は溜息を吐いた。


「この件については、司令部での検討が必要になるな。太古の特権とはいえ、軍のものである以上は無視できん。あの魔物について、知っていることを聞きたい。それは可能か?」


 ジョージ中佐の問いに、レオナシアさんは指示を求めるような目で僕を見た。
 ぎこちなく僕が頷くと、レオナシアさんは静かな口調で話を始めた。
 天から降ってきた魔神たち、都市の壊滅、そして魔神アイホーントのこと。ついさっき僕に教えてくれた内容と、同じことを聞いたジョージ中佐は、難しい顔をした。


「魔神アイホーント……それを再封印する手段はあるのか? たとえば、封印されていた巨大な箱を使うとか」


「状況から、封印用の魔導器は破損している可能性が高いです。現状のままでは、恐らくは不可能でしょう」


「ふむ――」


 レオナシアさんの返答に、ジョージ中佐はダントとラントを一瞥した。
 その視線に含まれたものを感じ取ったのか、どこか引きつった表情で、ダントが僕を睨んできた。


「それは、こいつが大人しく箱を開けなかったからで――」


「あの封印の魔導器は、外部からの攻撃による破壊以外に封印を解除する方法はありません。封印とは、相手を永続的に閉じ込めるためのもの。安全に解除する手順を設定することに、意味はないと考えます」


 レオナシアさんの反論に、ダントはあとの言葉を詰まらせた。
 ジョージ中佐はダントを振り返って「黙ることはできないのか」と苦言を呈してから、改めてレオナシアさんへと向き直った。


「状況は理解した。極めて最悪な判断によって、最悪など遙かに超えた災厄が放たれたということか。再封印の手段については、こちらでも調査してみよう。そして君らの処遇だが」


「ちゅ、中佐。こやつらは我々警備で管理致しましょう。魔神の捜索と戦いは、こいつらを前面に出せば――」


 いきなり突飛もない――いや、僕にとってはだけど――ことを口走ったダムイだったが、ジョージ中佐は眉を顰めながら首を横に振った。


「いや。それもしないほうがいいだろう。訓練をしていない者を戦闘には駆り出せん。それに、彼は優秀な技師のようだ。この判断は、参謀本部に委ねるとしよう。結果は追って報せるが、それまでその魔導器――魔導動甲冑だったか。それの管理は、あの少年に任せる。もちろん、魔物の封印を解いた咎もない。それは警備隊の責任になるだろう。話は以上だ」


 そう告げて、ジョージ中佐は家から出て行った。
 ダムイはそれに少し遅れて、息子たちを引き連れてジョージ中佐を追いかけた。


 ジョージ中佐とダムイたちが居なくなってから、僕は盛大に、安堵の溜息を吐いた。
 とりあえず、ジョージ中佐のおかげで逮捕はなくなった。先のことはわからないけど、今はそれだけでも大助かりだ。
 最初にダントの虚言への指摘をしてくれた以降、静観していたファインさんに、僕は小さく頭を下げた。


「ファインさん、助けてくれてありがとうございます。おかげで助かりました」


「――え? あ、ううん。気にしないで」


 少し頬に朱がさしたファインさんは、周囲を見回してから肩を竦めた。


「な、なんか、あいつらのせいで、大変なことになっちゃったね」


「そうですね……あいつは発掘現場に潜んでるのかもしれませんし」


「そうね。ということは、護衛兵はもっと発掘技師と――」


 言葉の途中で、部屋の中にきゅるきゅる――という音が響いた。なんの音だろうと周囲を見回した僕に、ファインさんは照れたような顔をした。


「あ、なんか遅くなっちゃったね。盾は明日の朝に取りに来てもいい?」


「もちろんですよ。六時には起きてますから。それ以降ならいつでも」


「ホント? お代もそのときに払うね。それじゃあ、また明日――」


 挨拶もそこそこにファインさんが出て行くと、レオナシアさんが僕を見た。


「わたしたちも食事にしましょう」


「そうですね……ん?」


 なにを食べようか――そんな考えを中断して、僕はレオナシアさんを振り返った。


「あの、レオナシアさんも食事をするんですか?」


「はい。汎用性を求めるため、一般の方々と同じ食事で魔力の補給をしています」


 レオナシアさんの返答に、僕は驚きとともに、二つの懸案に悩むこととなった。
 その一つは、水着のような格好だ。

 ……まず、服屋かなぁ。

 財布の中身を思い出しながら、僕は少し憂鬱になっていた。

  *

 護衛兵の庁舎へと向かう途中、ダムイはジョージ中佐の横に並んだ。


「よろしいのですか? あのような発掘技師のところに、特級魔導器と思しきものを置いておくなど」


「あの魔導器を敵に回すのは、得策ではない。それに、あの技師もだ。封印を解くのを止めるだけの知識と分別がある。ある意味、貴重な存在だ。できるだけ、友好的な協力体制を整えるのが賢明というものだ。
 特に、そこの二名――心しておき給え」


 ジョージ中佐の忠告に、ダントとラントは萎縮しながら頷いた。
 しかし、その目には嫉妬の色が浮かんでいた。
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