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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う
三話 リーンアームド
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3話 リーンアームド
発掘現場は、混乱のるつぼだった。
なにせ、あんな巨大な化け物が復活したんだ。発掘どころの騒ぎじゃない。発掘技師たちに帰還命令は出たらしいけど、僕はその前に白銀の髪を持つ少女を連れて、逃げるように大広間から飛び出していた。
浅い場所にいた技師たちに紛れて街に戻った僕は、そのまま自宅へと戻った。
僕の家は街外れの一軒家だ。代々受け継いだ二階建ての建物で、一人暮らしとなった今では、少々広すぎだ。
途中で拾ったボロ布を頭から被せていた少女を家に入れると、僕は鍵を閉めた。
壁に凭れて盛大な溜息を吐いてから、僕はボロ布をとった少女に訊いた。
「えっと、君はなに? あの大きな鎧みたいなのは? えっと、えっと……あ、腰袋が破
い
「わたしは魔造動甲冑のコア、個体識別名はレオナシアです」
「レオナシア……さん? あ、僕はアウィン。アウィン・コーナルです」
「コーナル――なるほど。あなたは、博士の御家族――もしくは子孫なのですね」
「博士?」
「はい。ストレイン・コーナル博士です。わたくしを造っただけでなく、すべての魔導器や、魔術文明の基礎となる技術を開発されました」
レオナシアさんの言葉に、僕は全身に電気が走ったような衝撃を受けた。
大昔、うちは優れた技師の一族と聞いていたけど、それが事実だったなんて。しかも魔術文明を造った人だったなんて。
僕は御先祖に思いをはせながら、籠手の紋章に手を触れた。
「レオナシアさん、魔造動甲冑って……あの大きな鎧のことですか?」
「大きな鎧――動甲冑モードのわたしのことですか? それでしたら、その通りです」
「そうなんだ。でも、君はどこから出てきたの? あの箱からじゃないですよね」
「出てきた――わたしは、自己凍結状態でしたから、詳しいことは不明です。凍結ユニットをお持ちではありませんでしたか?」
「凍結ゆにっと……ゆにっとって――あ、もしかしてあの人形!」
破れた腰袋と、なくなった人形、そしてあのとき、前に押されたような衝撃――それらの断片が、頭の中で一つになった。
「あの人形……だったの?」
「人形――確かに、そう形容する人もいました。自己凍結状態では、小さな姿になりますので。あなたがしている左手のそれは、単なる籠手ではありません。リーンアームドと呼ばれる、わたしの機能と接続するための魔導器です。わたしの自己凍結状態を解いたり、保守点検を行うには、リーンアームドが必要なのです」
レオナシアさんの説明を聞きながら、僕は左手の籠手――リーンアームドに目を落とした。古びた籠手を大事にしていると思ったら……こんな謂われがあったなんて。
僕は顔を上げると、一番重要であろうこと――つまり、あの大蜘蛛のことだ――を訊くことにした。
「あの、一つ訊いても良いですか? あの化け物は一体、なんなんです? 魔神――とか言ってたけど」
「あれは、天から降ってきた魔神の一柱です。魔神アイホーント――あれら魔神によって、多くの都市が破滅したのです」
「それじゃあ……古代文明が滅びたのは、あいつのせいなん――ちょっと待って。今、あれらって言いました?」
僕の質問に、レオナシアさんは小さく頷いた。
「はい。全世界で合計で九の流星が落ち、八柱の魔神が現れたのです。斃すことは、当時の魔導でも不可能だったため封印、もしくは天空へと追い返したのです。ここにいた魔神アイホーントは、一番最後に封印された魔神です」
レオナシアさんの説明を聞いて、僕は軽く絶望した。あんなのが、他にも八体いるなんて……悪夢そのものに思えたんだ。
目眩を覚えたとき、レオナシアさんは右腕を少し挙げながら、手を開いたり閉じたりした。
「あの……話の途中で申し訳ありません。先ほどの戦闘で、右腕に少し不可がかかりすぎたようです。点検をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「え? あ、うん……でも、どこをどうすればいいんです?」
「リーンアームドをお使い下さい。音声命令で、実行可能です。保守点検モードと言って頂ければいいはずです」
「なるほど……保守点検モードへ」
リーンアームドを口に寄せた僕は、音声命令ってのをやってみた。
リーンアームドにある紋章が緑色に光り始めると同時に、レオナシアさんのほうも変化が現れていた。
鎧の部分が身体に吸い込まれるように消えると、まるで水着のような姿になった。
レオナシアさんの身体は、両腕と両脚は金属質のツヤがあったが、それ以外はまるで人間のような質感で、体温だって感じる。
「肌は温かい……まるで本物の人間みたいですね」
「人間――わたしが?」
このとき、僕を振り返ったレオナシアさんの目は、少し見開いていた。その表情は、どこか驚いているようにも見えた。
「えっと、大した意味はないですから。変なことを言って、ごめんなさい」
右腕の点検口が開くと、魔導器でよく見る魔術文字の刻まれた金属板や、クリスタルが複雑に入り組んでいた。
慎重に中を探っていた僕は、一枚の金属板が焼き焦げているのを見つけた。僕はその金属板を取り出して、表面を指先で擦った。
煤のようなものが薄くなると、刻まれていた文字が浮き出てきた。
これは魔力を伝送しながら、魔術文字によって望んだ魔術を生み出すためのものだ。不可で焦げたために、魔術の発動が不安定になったんだと思う。
「これなら、すぐに治りますよ。ちょっと待って下さいね」
僕は工作室に入ると、棚を開けると収納してある部品から、手頃な金属板――魔力の伝導板を取り出した。工作室には他にも大きめの道具や、大昔からの書物が置いてある。この書物には魔導器についての知識が詰まっていて、我が家の家宝にも等しい代物なんだ。
作業台に伝導板を置いた僕は、その表面に刻まれた魔術文字に、専用の治具を近づけた。
これは持ち手の魔力を利用した、言わば修正液のようなものだ。ペンのような形状をしていて、先端の球体で金属板の表面をゆっくりなぞると、魔術文字を消すことができる。そして治具を逆に持ち替えた僕は、尖った先端で新たな魔術文字を書き始めた。
この治具も、ご先祖から受け継いだものだ。
僕のご先祖に、コーナル・コーナルという人がいる。
大昔に栄えていた、魔術文明を造ったと言われている人だ。かなり高位の魔術師で、なおかつ技師として偉大な功績を残している――らしい。
数々の魔導器を造り、それを人々に伝えたと言われている。紋章やこのリーンアームドも、彼から伝わったものだ。
ただ残念なことに、そんな彼でも魔術文明の崩壊は止められず、今では一部の発掘技師のみが、細々と技術を受け継いでいるだけだ。
「よし、できた」
新しく魔術文字――焦げた伝導板に刻まれていたものと同じ内容――を刻んだ伝導板を、僕はレオナシアさんの腕に移植した。
修理を終えた僕は不安を残しながら、レオナシアさんに声をかけてみた。
「どう……ですか?」
「はい――動作は良好です。戦闘にも問題がないと思われます」
「そう……良かった」
僕がホッと胸を撫で下ろしたとき、いきなり玄関のドアが開いた。
「アウィン、いる――」
発掘現場で会ったときと同じく、鎧などの装備を身につけたファインさんは、ドアを開けた格好のままで固まった。
丸くした目で僕とレオナシアさんを交互に見てから、震える指を向けてきた。
「な……なにを、して、いるの、かな?」
「なにをって――腕の調子が悪いって言われたので、点検修理をしてました、けど」
「え? あ、ああ――その子、本当に魔導器なんだね」
落ち着きを取り戻したファインさんは、僕たちのいる居間へと入って来た。
背中に背負った盾を外しながら、レオナシアさんを一瞥した。
「なにか話はしたの?」
「少しだけ。あの化け物は――その、封印していたものらしい……ですよ」
魔王ということを伝えるべきか迷ったけど、結局は黙っておくことにした。ここで話をしても、不必要に恐怖を煽るだけ……って思ったんだ。
僕の返答を聞いて、ファインさんは「なるほどねぇ」と頷いた。
「それなら、こっちも万全な状態にしておかなくちゃ。これが朝に話した盾なんだけど……診てくれる?」
「あ、はい。それじゃあ、これ借りますね」
僕はファインさんの盾をテーブルの上に置くと、握りの近くにある点検口を開けた。
魔術文字が刻まれた金属板は焦げていなかったが、そのほとんどが変形していた。よく見れば、盾の裏側に叩いた痕がある。
板金だけ治したけど、魔術関係はそのまま放置していたみたいだ。
「これって、盾がへこんだんですよね……雑な修理だなぁ」
「わかる? 兵舎にいる整備士が治してくれたんだけど……ね。それで、治りそう?」
「そうですね。これだけなら、予想より早く治りそうですよ。二時間もあれば……あ、でも遅くなりますし、明日の朝に手渡しでいいですか? 料金もそのときでいいですから」
「そうね……ううん。待ってる。それとも、あたしが居たら拙い理由でもあるの?」
ファインさんは、レオナシアさんを一瞥してから、そう言ってきた。
正直、そろそろ晩ご飯の準備とか、お風呂とか、そういうことをしたかったけど……ここでファインさんの機嫌を損ねるのも、ちょっと躊躇われた。
お得意さんだし、ね。
「わかりました。ええっと……今ちょっと、お茶とか用意してなくて」
「そんな、お客扱いしなくていいよ。作業を見ながら待ってるから」
「……わかりました」
僕は頷くと、まずはリーンアームドを外そうとロック解除のクリスタルに触れた。
だけど――いつもなら腕を固定していた部分が緩まるのに、今回はなにも変わらなかった。
「あれ? 壊れたのかな……」
「機能回復によって、わたしの接続者になりましたから。悪用や盗難を防ぐため、身体に固定されています。あなたが生きている限り、外れることはありません」
「うそぉ……」
レオナシアさんの説明に、僕はきっと、顔が青くなっていたに違いない。
確かに装着している違和感は小さいし、不便はないけど……風呂とか入るときには外したいと思うのが人情ではないだろうか。
作業着の袖だって、ぎりぎり通るかどうかだし。
そんな僕に、レオナシアさんは小首を傾げた。こういう仕草を見ると、ほんと人間にしか思えないから不思議だ。
「……御存知なかったのですか?」
「あ、うん。知らなかったよ。親も教えてくれなかったし」
「ねぇ。病院で診て貰ったほうがいいんじゃない?」
心配そうにリーンアームズに触れるファインさんに、僕は愛想笑いで返した。
「あ、いえ。多分、大丈夫ですから。それより、盾のほうをやっつけちゃいますね」
僕は少し駆け足で、工作室から色の付いた糸を持って来た。取り外した金属板と、金属板を填め込むスリットに、同じ色の糸を括り付けていく。
金属板を固定させる場所も重要なので、こうやって目印にしてるんだ。
すべての金属板を取り外したとき、表が騒がしくなってきた。
発掘現場は、混乱のるつぼだった。
なにせ、あんな巨大な化け物が復活したんだ。発掘どころの騒ぎじゃない。発掘技師たちに帰還命令は出たらしいけど、僕はその前に白銀の髪を持つ少女を連れて、逃げるように大広間から飛び出していた。
浅い場所にいた技師たちに紛れて街に戻った僕は、そのまま自宅へと戻った。
僕の家は街外れの一軒家だ。代々受け継いだ二階建ての建物で、一人暮らしとなった今では、少々広すぎだ。
途中で拾ったボロ布を頭から被せていた少女を家に入れると、僕は鍵を閉めた。
壁に凭れて盛大な溜息を吐いてから、僕はボロ布をとった少女に訊いた。
「えっと、君はなに? あの大きな鎧みたいなのは? えっと、えっと……あ、腰袋が破
い
「わたしは魔造動甲冑のコア、個体識別名はレオナシアです」
「レオナシア……さん? あ、僕はアウィン。アウィン・コーナルです」
「コーナル――なるほど。あなたは、博士の御家族――もしくは子孫なのですね」
「博士?」
「はい。ストレイン・コーナル博士です。わたくしを造っただけでなく、すべての魔導器や、魔術文明の基礎となる技術を開発されました」
レオナシアさんの言葉に、僕は全身に電気が走ったような衝撃を受けた。
大昔、うちは優れた技師の一族と聞いていたけど、それが事実だったなんて。しかも魔術文明を造った人だったなんて。
僕は御先祖に思いをはせながら、籠手の紋章に手を触れた。
「レオナシアさん、魔造動甲冑って……あの大きな鎧のことですか?」
「大きな鎧――動甲冑モードのわたしのことですか? それでしたら、その通りです」
「そうなんだ。でも、君はどこから出てきたの? あの箱からじゃないですよね」
「出てきた――わたしは、自己凍結状態でしたから、詳しいことは不明です。凍結ユニットをお持ちではありませんでしたか?」
「凍結ゆにっと……ゆにっとって――あ、もしかしてあの人形!」
破れた腰袋と、なくなった人形、そしてあのとき、前に押されたような衝撃――それらの断片が、頭の中で一つになった。
「あの人形……だったの?」
「人形――確かに、そう形容する人もいました。自己凍結状態では、小さな姿になりますので。あなたがしている左手のそれは、単なる籠手ではありません。リーンアームドと呼ばれる、わたしの機能と接続するための魔導器です。わたしの自己凍結状態を解いたり、保守点検を行うには、リーンアームドが必要なのです」
レオナシアさんの説明を聞きながら、僕は左手の籠手――リーンアームドに目を落とした。古びた籠手を大事にしていると思ったら……こんな謂われがあったなんて。
僕は顔を上げると、一番重要であろうこと――つまり、あの大蜘蛛のことだ――を訊くことにした。
「あの、一つ訊いても良いですか? あの化け物は一体、なんなんです? 魔神――とか言ってたけど」
「あれは、天から降ってきた魔神の一柱です。魔神アイホーント――あれら魔神によって、多くの都市が破滅したのです」
「それじゃあ……古代文明が滅びたのは、あいつのせいなん――ちょっと待って。今、あれらって言いました?」
僕の質問に、レオナシアさんは小さく頷いた。
「はい。全世界で合計で九の流星が落ち、八柱の魔神が現れたのです。斃すことは、当時の魔導でも不可能だったため封印、もしくは天空へと追い返したのです。ここにいた魔神アイホーントは、一番最後に封印された魔神です」
レオナシアさんの説明を聞いて、僕は軽く絶望した。あんなのが、他にも八体いるなんて……悪夢そのものに思えたんだ。
目眩を覚えたとき、レオナシアさんは右腕を少し挙げながら、手を開いたり閉じたりした。
「あの……話の途中で申し訳ありません。先ほどの戦闘で、右腕に少し不可がかかりすぎたようです。点検をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「え? あ、うん……でも、どこをどうすればいいんです?」
「リーンアームドをお使い下さい。音声命令で、実行可能です。保守点検モードと言って頂ければいいはずです」
「なるほど……保守点検モードへ」
リーンアームドを口に寄せた僕は、音声命令ってのをやってみた。
リーンアームドにある紋章が緑色に光り始めると同時に、レオナシアさんのほうも変化が現れていた。
鎧の部分が身体に吸い込まれるように消えると、まるで水着のような姿になった。
レオナシアさんの身体は、両腕と両脚は金属質のツヤがあったが、それ以外はまるで人間のような質感で、体温だって感じる。
「肌は温かい……まるで本物の人間みたいですね」
「人間――わたしが?」
このとき、僕を振り返ったレオナシアさんの目は、少し見開いていた。その表情は、どこか驚いているようにも見えた。
「えっと、大した意味はないですから。変なことを言って、ごめんなさい」
右腕の点検口が開くと、魔導器でよく見る魔術文字の刻まれた金属板や、クリスタルが複雑に入り組んでいた。
慎重に中を探っていた僕は、一枚の金属板が焼き焦げているのを見つけた。僕はその金属板を取り出して、表面を指先で擦った。
煤のようなものが薄くなると、刻まれていた文字が浮き出てきた。
これは魔力を伝送しながら、魔術文字によって望んだ魔術を生み出すためのものだ。不可で焦げたために、魔術の発動が不安定になったんだと思う。
「これなら、すぐに治りますよ。ちょっと待って下さいね」
僕は工作室に入ると、棚を開けると収納してある部品から、手頃な金属板――魔力の伝導板を取り出した。工作室には他にも大きめの道具や、大昔からの書物が置いてある。この書物には魔導器についての知識が詰まっていて、我が家の家宝にも等しい代物なんだ。
作業台に伝導板を置いた僕は、その表面に刻まれた魔術文字に、専用の治具を近づけた。
これは持ち手の魔力を利用した、言わば修正液のようなものだ。ペンのような形状をしていて、先端の球体で金属板の表面をゆっくりなぞると、魔術文字を消すことができる。そして治具を逆に持ち替えた僕は、尖った先端で新たな魔術文字を書き始めた。
この治具も、ご先祖から受け継いだものだ。
僕のご先祖に、コーナル・コーナルという人がいる。
大昔に栄えていた、魔術文明を造ったと言われている人だ。かなり高位の魔術師で、なおかつ技師として偉大な功績を残している――らしい。
数々の魔導器を造り、それを人々に伝えたと言われている。紋章やこのリーンアームドも、彼から伝わったものだ。
ただ残念なことに、そんな彼でも魔術文明の崩壊は止められず、今では一部の発掘技師のみが、細々と技術を受け継いでいるだけだ。
「よし、できた」
新しく魔術文字――焦げた伝導板に刻まれていたものと同じ内容――を刻んだ伝導板を、僕はレオナシアさんの腕に移植した。
修理を終えた僕は不安を残しながら、レオナシアさんに声をかけてみた。
「どう……ですか?」
「はい――動作は良好です。戦闘にも問題がないと思われます」
「そう……良かった」
僕がホッと胸を撫で下ろしたとき、いきなり玄関のドアが開いた。
「アウィン、いる――」
発掘現場で会ったときと同じく、鎧などの装備を身につけたファインさんは、ドアを開けた格好のままで固まった。
丸くした目で僕とレオナシアさんを交互に見てから、震える指を向けてきた。
「な……なにを、して、いるの、かな?」
「なにをって――腕の調子が悪いって言われたので、点検修理をしてました、けど」
「え? あ、ああ――その子、本当に魔導器なんだね」
落ち着きを取り戻したファインさんは、僕たちのいる居間へと入って来た。
背中に背負った盾を外しながら、レオナシアさんを一瞥した。
「なにか話はしたの?」
「少しだけ。あの化け物は――その、封印していたものらしい……ですよ」
魔王ということを伝えるべきか迷ったけど、結局は黙っておくことにした。ここで話をしても、不必要に恐怖を煽るだけ……って思ったんだ。
僕の返答を聞いて、ファインさんは「なるほどねぇ」と頷いた。
「それなら、こっちも万全な状態にしておかなくちゃ。これが朝に話した盾なんだけど……診てくれる?」
「あ、はい。それじゃあ、これ借りますね」
僕はファインさんの盾をテーブルの上に置くと、握りの近くにある点検口を開けた。
魔術文字が刻まれた金属板は焦げていなかったが、そのほとんどが変形していた。よく見れば、盾の裏側に叩いた痕がある。
板金だけ治したけど、魔術関係はそのまま放置していたみたいだ。
「これって、盾がへこんだんですよね……雑な修理だなぁ」
「わかる? 兵舎にいる整備士が治してくれたんだけど……ね。それで、治りそう?」
「そうですね。これだけなら、予想より早く治りそうですよ。二時間もあれば……あ、でも遅くなりますし、明日の朝に手渡しでいいですか? 料金もそのときでいいですから」
「そうね……ううん。待ってる。それとも、あたしが居たら拙い理由でもあるの?」
ファインさんは、レオナシアさんを一瞥してから、そう言ってきた。
正直、そろそろ晩ご飯の準備とか、お風呂とか、そういうことをしたかったけど……ここでファインさんの機嫌を損ねるのも、ちょっと躊躇われた。
お得意さんだし、ね。
「わかりました。ええっと……今ちょっと、お茶とか用意してなくて」
「そんな、お客扱いしなくていいよ。作業を見ながら待ってるから」
「……わかりました」
僕は頷くと、まずはリーンアームドを外そうとロック解除のクリスタルに触れた。
だけど――いつもなら腕を固定していた部分が緩まるのに、今回はなにも変わらなかった。
「あれ? 壊れたのかな……」
「機能回復によって、わたしの接続者になりましたから。悪用や盗難を防ぐため、身体に固定されています。あなたが生きている限り、外れることはありません」
「うそぉ……」
レオナシアさんの説明に、僕はきっと、顔が青くなっていたに違いない。
確かに装着している違和感は小さいし、不便はないけど……風呂とか入るときには外したいと思うのが人情ではないだろうか。
作業着の袖だって、ぎりぎり通るかどうかだし。
そんな僕に、レオナシアさんは小首を傾げた。こういう仕草を見ると、ほんと人間にしか思えないから不思議だ。
「……御存知なかったのですか?」
「あ、うん。知らなかったよ。親も教えてくれなかったし」
「ねぇ。病院で診て貰ったほうがいいんじゃない?」
心配そうにリーンアームズに触れるファインさんに、僕は愛想笑いで返した。
「あ、いえ。多分、大丈夫ですから。それより、盾のほうをやっつけちゃいますね」
僕は少し駆け足で、工作室から色の付いた糸を持って来た。取り外した金属板と、金属板を填め込むスリットに、同じ色の糸を括り付けていく。
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