消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

わたなべ ゆたか

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消耗品扱いの発掘技師は、元クールビューティーな魔造少女と世界を救う

二章 封印と忘却と――蘇りし殺意 六話 坑道の最深部

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 二章 封印と忘却と――蘇りし殺意


 六話 坑道の最深部

 魔神が復活した翌朝、約束通りにファインさんが盾を取りに来た。
 僕が盾を渡すと、ファインさんはすぐに身につけて、結界を発生させた。青白い真円の結界は、昨日よりも若干だけと濃くなっている。
 目を見広げて結界を見ていたファインさんは、僕に満足げな笑みを見せた。


「さすが、アウィンよね。修理どころか、少し結界も強くなってる」


「えっと……あの部品に駄目なやつがあって。代わりに、魔力の伝導効率の良いヤツを取り付けてあります。たまたま、余ってる部品があったので……」


 説明の途中で、ファインさんは僕の手をとって、ブンブンと振ってきた。


「ありがとう! こんなことして貰ったら、代金も弾まなきゃ。そうだ――今晩、一緒にご飯に行こうよ! 奢っちゃうから」


「あの、すいません……今日はバイトがあるので。その、店長が了承したらですけど」


「バイトって……五日に一度くらいじゃなかった? 一昨日くらいにやってたよね」


「まあ、そうなんですけど……色々とあって」


 僕の返答に、ファインさんは少し気落ちした顔で頷いた。


「そっか……それじゃ仕方ないね」


「アウィン――湯が沸いたようです」


 レオナシアさんが居間に入ってくると、ファインさんは少し不機嫌な顔をした。
 僕から手を離すと、ファインさんはレオナシアさんに親指を向けた。


「ねえ。あの魔導器はどうするの?」


「レオナシアさんですか? 昨日の中佐さんが、参謀本部ってところで確認をしてくるとか言ってませんでしたっけ? とりあえずは、ここで面倒をみるしかないかなって思ってますけど」


「……そうなの?」


 やや目を見開いたファインさんは、僕とレオナシアさんとを交互に見た。やがて、大きく息を吐くと、少しだけ僕に顔を寄せた。


「……念のために聞いておくけど。変なことはしてないわよね?」


「変なことって言われても……昨日は一緒に晩飯を食べに行ったくらいですよ」


「一緒にご飯?」


 目をさらに一回りくらい大きくしたファインさんは、「ご飯……食べるんだ」と呟きながらレオナシアさんへと首を向けた。
 ぎこちなく首を戻しながら、ファインさんは「アウィンと魔導器がご飯に……あたしだって、まだなのに」などと、ブツブツと言いながら、僕から顔を離した。


「と、とりあえず……今日のところは、これで。また……うん。また修理とかあったら、お願いね」


「もちろんですよ。いつでもどうぞ」


 僕の返答を聞いて、ファインさんの顔に笑みが戻った。
 小さく手を振りながら出て行ったファインさんを見送ると、僕はレオナシアさんが待つ台所へと戻った。
 昨日と今日とでわかったことだが、レオナシアさんは家事全般に適正がない。もちろん、戦う為に造られたからなんだろうけど……これが以外と難問だった。
 風呂場での一件もそうなんだけど、とにかく細かい事への感心が薄い……気がする。
 僕は竃の火を弱めると、湯の中に沈んでいる四つの卵を、お玉で転がした。パンは買ってあるから、あとはゆで卵が出来れば、朝ご飯は完成だ。
 砂時計で、きっかり一〇分。お湯から出した四つの卵は、殻を剥いて皿に並べた。
 レオナシアさんと一緒に朝食を摂って、食器の後片付が終われば、発掘現場での仕事が待っている。

 魔王がいる発掘現場で作業――ゆで卵を囓りながら、僕の胸中は不安で一杯だった。
 噂では、前線の戦況は一進一退であるらしい。一つでも多くの魔導器を送らなければならない――という理由で、魔神が潜んでいる状況であるにも関わらず、発掘作業は中止になっていない。
 僕ら発掘技師は、消耗品だ。僕らの価値は、前線に送られる魔導器よりも低かった。

   *

 発掘現場に到着していきなり、僕とレオナシアさんは、最深部での発掘を指示された。
 そこは地下八〇リン(約七三メートル)の地底で、空気は上層から送風機で送られて来るものだけが頼りだ。
 ヴヴヴヴ……と唸る燃焼炉によって、多くの照明が灯されていた。
 周囲の発掘技師と挨拶を交わしながら、僕と鎧に身を包んだレオナシアさんは、緩やかな下り坂になっている坑道を進んだ。
 あと少しで最深部の発掘現場――という坑道の十字路に差し掛かったとき、全長が四リン(約三メートル六〇センチ)の白いミミズに似たものが飛び出してきた。
 ワームと呼ばれる、魔物の一種だ。地下はワームの生息域になっているみたいで、発掘現場にも時折現れる。
 坑道の奥に行けば行くほど、その頻度は上がるみたいだ。噂では最深部の発掘現場になると、ワームの襲撃は毎日といっていいほどあるらしい。
 体長は一リン(約九二センチ)から、最大では一〇リン(約九メートル二〇センチ)を超えるものもある。
 雑食らしく、肉――つまり僕らだ――も好んで食べる奴らによって、年に数十人の発掘技師が被害に遭っている。

 ワームは真っ直ぐに、僕へと向かってきた。
 無数の牙が覗く口をあけながら迫るワームに対し、レオナシアさんが僕を庇うように前に出た。右腕から光りの刀身を出して、レオナシアさんが身構えた。
 ワームは鎌首をもたげるように、レオナシアさんへと迫った。しかし襲いかかる直前、ワームは背後から来た影に胴体を真一文字に両断されたんだ。
 緑白色の体液を撒き散らしながら、ワームは苦しげに二つになった胴体を暴れさせた。呆然とその姿を見ている僕に、無精髭を生やした男が話しかけてきた。


「技師か。邪魔だ、はやく行け」


「あ――はい」


 鎧と長剣の魔導器を装備した中年の護衛兵に頭を下げると、僕はレオナシアさんと最深部へと急いだ。
 最深部になるにつれ、こういう危険が増えるわけで……。
 こんなところに送られる謂われはないんだけどなぁ――と思っていると、ファインさんと仲の良い護衛兵の青年が近づいて来た。


「よ。おはようさん。それにしても大変だな。上の方じゃ、その魔導器を、強引に戦力にしようって企んでるみたいだぜ?」


「ああ……そーゆーことですか、これ」


 要するに、僕を一番危険な最深部で発掘させて、魔神が出たら戦わせようって魂胆なわけだ。なんて……迷惑な。
 レオナシアさんはともかく、僕は戦えないのになぁ……。
 最深部での作業を指示された発掘技師の中に、エディンがいることが唯一の救いかもしれない。
 護衛兵の青年と別れた僕は、他の発掘技師と合流して、共同での発掘作業に取りかかった。このあたりの地層は、脆い場所と岩盤とか混在している。油断をして掘りすぎると、崩落の危険が非常に高いらしい。
 僕とエディンは、指示通りの場所を慎重に掘り続けた。けど、しばらく地面や壁を掘り返していたけど、魔導器らしいものは発見できなかった。

 班長が他の発掘技師と今後の予定を話し合っているあいだ、僕らは休憩となった。地面に座って水を飲んでいると、エディンが僕を手招きした。


「エディン、どうかしたの?」


「……こっち」


 ランプを持ったエディンのあとを追うように、僕とレオナシアさんは細い枝道へと入った。
 ランプのか細い灯りを頼りに、緩やかに蛇行する枝道を進んでいると、水の流れるような音が聞こえてきた。
 地下水でも流れてるのかと思っていると、ランプの灯りが広い水たまり――地底湖を照らし出した。天井も最深部の坑道と比べると、二倍くらいは高そうだ。ランプの光程度じゃ、天井を照らし出すことができなかった。


「こんな場所があったんだ」


「うん。水の中は発掘できないし、ほとんど誰も来ないんだ」


「それじゃあ、なんでここに来たの?」


 僕の質問に、エディンは地底湖から少し離れた岩場に近づいた。
 僕とレオナシアさんがあとを追うと、エディンはそこに生えていた白っぽいキノコを手に取った。
 キノコは球体っぽい傘を持っている。その傘だけをねじ切ると、エディンは僕に差し出した。


「これを四日くらい水に浸してから、煮込んで灰汁を取るんだ。それから乾燥させると、食べられるようになるよ。日持ちもいいから、保存食にもなるんだ」


「これ……食べられるやつ?」


「うん。お腹は膨れないけど、口が寂しいときに食べたりしてる」


「それを僕に教えてくれるんだ。ありがとう、エディン」


 僕が礼を言うと、エディンは少し照れたように鼻を擦った。


「バイトを増やすって言って聞いたから。その子の食費とか、大変なのかなって」


「噂を聞いて、気にしてくれたんだ。ありがとう」


 こういうとき、友だちっていいなって思う。エディンは少ない僕の友だちで、一番長い付き合いだ。気心が知れてる――というと大袈裟だけど、この街で一番ホッとできる相手かもしれない。
 僕はエディンとキノコを数本ずつ採ってから、発掘現場に戻ることにした。
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